税金地獄と税金天国 『ルポ 税金地獄』『サラリーマンの9割は税金を取り戻せる』『税金の抜け穴』

 富裕層や大企業には税金を逃れるための様々な抜け道があるのに、サラリーマンや非正規労働者には逃げ道が少なく、増え続ける負担に押しつぶされかねない状況にある

 日本の税制が、職種などによる不平等につながっていると『ルポ 税金地獄』(朝日新聞経済部 文春文庫)では指摘されています。金持ちはもっと金持ちに、貧乏はもっと貧乏になる仕組みが、税制といえそうです。





 冒頭の「抜け道」として、本書には以下が紹介されていました。
〇ふるさと納税
〇贈与税や相続税の特別措置 「タワマン節税」、「孫養子」、教育資金贈与

 タワマン節税とは、以下のとおりです。
タワーマンションを買うことで、現金相続から不動産相続に換えることができます。
現金で相続すると「金額=相続税評価額」ですが、タワーマンションは時価の3割程度で計算されます。

例えば1億円を相続する際、タワーマンションで相続すると3000万円が評価額となるので、7000万円の評価額分が節税可能です。

現金を相続するよりも大幅に相続税を少なくできるので、タワーマンションを利用して相続しようとする人は増えています。

https://gro-bels.co.jp/media/article/1881/ 

 また、「小規模用地の特例」というものがあり、例えば330㎡以下の土地に親が建てた住宅に住んでいて、親が亡くなった場合、被相続人の子どもがこの住宅に住むと相続税の80%が減税されます。こうした方法を利用して、節税をするということ。


 『ルポ 税金地獄』では、節税をしている男性の例が紹介されていました。
 地球上のすべての国が同じ税法だったら課税逃れを防げるが、主権国家がそれぞれの法律で税を課している限り、どこの国の税法にも違反しない形で極めて低く税を抑えることは簡単にできる……彼はそう断言する。
妻を社長に自らの資産管理会社を登記した。法人をつくれば経費が多く認められるなど、節税に有利だ。この会社名義で国内外の不動産に投資し、十億円規模の資産を築いた。
 相続対策もぬかりない。不動産取引に使う金は個人名義で銀行に借り、資産管理会社に貸し付ける。その貸し付け債権を毎年約百万円分ずつ、妻や二人の子に生前贈与する。年に百十万円までなら贈与税がかからない。こうして会社がお金を返す時に、その受け取り妻や子になる。
 ただ、継続的に同じ額を贈与すると、まとめて贈与するものを分割しているだけだと税務署に判断されかねない。そこで贈与する日付を毎年、ランダムに変更する。
(子どもたちに)アルバイトは一度もさせたことがない。多くの学生が苦労して学費や生活費を稼ぐ間に勉強させれば、差がつけられると考えたからだ。
 貧困や格差は“遺伝”するといわれます。節税をしている男性の話から、なるほどと納得できるものが見えました。
 そのほかにも「会社設立」も抜け穴になるようです。

収入を個人所得ではなく「法人所得」にしたほうが有利になる。その結果で増えたと見られているのが、株式会社より簡単に立ち上げられる「合同会社」だ。(中略)税理士の間では「節税に使う個人事業者が多い」と見られている。
 一方、選択ミスによって税金地獄に陥ることもあるようです。そのミスは、自分自身だけでなく、親などの親類が犯している可能性があります。不動産に対する固定資産税が関係しています。
買ってしまったら売ることが難しい「マイナス資産」
 地方の山村やリゾートマンションだけではない。首都圏でも、土地は「資産」ではなく、貸すことも売ることもできずに固定資産税を払わなければならないだけの「負債」に変わりつつある。
 横須賀市によると、直近の統計になる一三年の空家数は市内に約二万九千戸ある。全住宅に占める空き家の割合は十五%に迫り、全国平均(十三・五%)を上回る。
高齢化や都心回帰の傾向も強まり、空き家はさらに増える見通しだ。
 驚いたのが、税額の計算ミス。必要以上に高い金額が課せられている例が多数報告されているのだそうです。
 また、自治体の収入の柱が固定資産税のため、おかしいほど高額の地価をベースに税額が計算されていることもあるとのこと。
 固定資産税は住民税と違い、各自治体が一方的に税額を計算して納税通知書を送ってくる「賦課課税方式」である。ところが、課税する自治体の計算ミスが、各地で表面化している。
 固定資産税の問題は、計算ミスだけではない。
 自治体の固定資産税依存は、地価の評価そのものを歪めている。
 固定資産評価や公示地価は、そんなに実税価格から乖離しているものなのか?
 税金が支払えないなど、お金で困っている人には、以下の制度がカバーしてくるとのこと。しかし、困っている人は情報弱者でもあるため、知らないまま、貧困に耐えているケースが多いようです。

〇無料低額診療
〇生活保護
〇保険料の減免措置
〇生活困窮者自立支援制度

『サラリーマンの9割は税金を取り戻せる』(著/大村大次郎 中公新書ラクレ)『税金の抜け穴』(著/大村大次郎 角川oneテーマ21)には、元国税調査官の立場で、税の問題点が多数挙げられていました。


 以下は、『サラリーマンの9割は税金を取り戻せる』の中にあった見出しです。
税務署員はすべて正しいとは限らない
国税庁の“詐欺”にひっかかるな!
税金は知らない者が損をする世界
 税務署員の問題点については、以下のように説明されていました。納税者は、正しく抗議する必要があるようです。

税務署員というのは、少しでも多くの税金を取ろうとします。それも、常に正しいわけではなく、誤った方法ででも、税金を取ろうとするのです。
 彼らは、仕事として「税金をたくさん取ること」を課せられています。そして彼らは“仕事熱心”なあまり、行きすぎたことも時々やらかすのです。
 納税者には彼らの行きすぎに対して、抗議をする権利があります。というより、彼らが行きすぎた行為をした場合は、それ自体が罰則の対象となるのです。

税務署員が絶対に正しいわけでも、彼らのいうことを必ず聞かなくてはならないわけでもないということです。だから、自分の主張すべきことはきっちり主張すればいいのです。

 東京国税局のM相談官の、いい加減な受け答えが207ページに掲載されていました。著者からの問い合わせに、個人的な憶測で答えていたのです。しかも、間違った内容でした。

 国税局というのは、納税者に対して非常に厳しい対応をするくせに、税法の明確な解釈さえ答えられないのです。

 『税金の抜け穴』によると、抜け穴があるのは、政治家・宗教法人・開業医・高級官僚。
一番金にきれいじゃなければならない業界が、一番税金を払っていないということである。

 抜け穴については、『ルポ 税金地獄』と同様の項目が挙げられていました。抜け穴は「制度上の盲点」と筆者は語ります。

 サラリーマンには「給与所得者の特定支出控除」という制度があるものの、「わからない」「面倒くさい」などの理由に使用していない人が多いのではないでしょうか。

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1415.htm

 節税をやるか・やらないかで、天国か地獄に分かれるのかもしれません。今の日本は。

■追記

  『元国税専門官がこっそり教える あなたの隣の億万長者』(著/小林義崇 、ダイヤモンド社)でも、似たコンセプトで税金対策などが書かれています。 以下、目次ですが、太字は私によるものです。


【目次】
序 章 億万長者の「お金」と「相続」のリアル
イメージとはまったく違う富裕層の実態
資産10億円でも傷だらけの軽自動車に乗る!?
日本の億万長者はトップ3・5%

第1章 【家計】富裕層は驚くほど質素に暮らす
習慣1 富裕層は1円たりとも死に金を使わない
電話代さえケチるからお金が貯まる
いくら安くても価格に見合わなければ買わない
少々高額でも高品質のものを買って長く使う
実は好き勝手にお金を使えない

習慣2 富裕層はお金の情報を家族とシェアして過度な消費を防ぐ
家族とお金の情報をシェアしている
「誰がお金を管理していたか」は必ずチェック

習慣3 富裕層は本業でしっかり長く稼ぐ
実はマッサージ師や職人が富裕層だったりする
脱税したまま生涯を終える人もいる

習慣4 富裕層は年金もしっかりもらう
お金持ちでも年金は頼りになる
戦略的に収入を得ながら年金をもらう

習慣5 富裕層はギャンブルをしない
ギャンブルよりも投資でお金を増やす
ギャンブルでお金を失っても証拠を残す

習慣6 富裕層は保険をうまく利用する
生命保険を相続税と遺産分割に活用する
生命保険を遺言代わりにする

習慣7 富裕層は寄付をする
公共心が高い人が多い
節税対策として寄付をする

コラム1 富裕層のへそくり事情

第2章 【資産運用】富裕層ほど投資で儲かりやすい
習慣8 富裕層は預金をしっかり保有する
1000万円ずつ複数の口座でお金を管理する
預金だけでお金が増えたのはもう昔話

習慣9 富裕層は株式や不動産に投資する
富裕層ほど投資で儲かりやすい
労働から投資へのシフトで「1億円の壁」をこえる

習慣10 富裕層は不動産投資で経済基盤を強固にする
不動産をもつ富裕層がやっぱり強い
賃貸物件で"お得な節税"をする

習慣11 富裕層は長期的なスパンで投資する
投資に詳しいわけではないけれど……
短期投資を繰り返した資産家の末路

習慣12 富裕層は海外投資をする
成長する海外にも投資して国内外でリスク分散

習慣13 富裕層は自社株をもっている
わずか1円が億単位の資産になり得る

習慣14 富裕層は分散投資でリスクを抑える
分散投資は世界の富裕層の常識
投資信託を使えば簡単に分散投資できる

習慣15 富裕層は借金を資産形成に生かす
生活のためではなく投資のために借金する

習慣16 富裕層は税負担の軽い退職金で財産を増やす
退職金は最大の節税チャンス
iDeCoで退職金を増やす

コラム2 富裕層の「タワマン節税」を国税が狙う

第3章 【生活】富裕層は大きな犬を飼う?
習慣17 富裕層は賃貸でなく持ち家に住む
年収と持ち家率は比例する
ワケがあって家が広い

習慣18 富裕層は都会に住む
100億円超の申告は東京に集中している
再開発で価値が高まる都市を選ぶ

習慣19 富裕層は資産形成につながる趣味をもつ
国税職員が富裕層に必ず趣味を聞くワケ
仕事がいちばんの趣味になる

習慣20 富裕層は人間関係の構築にお金を使う
富裕層たちが集まる高級会員制クラブ

習慣21 富裕層はペットを飼う
あえて〝守るもの〞をつくる

習慣22 富裕層は礼儀と警戒心をあわせもつ
「金持ち喧嘩せず」は本当だった
キャリア官僚の妻のプライド
適切に「疑いの目」をもつ

習慣23 富裕層は貸金庫で財産を守る
なぜ銀行の貸金庫を使うのか

習慣24 富裕層はトラブルを専門家の力で解決する
税理士次第でリスクが変わる

コラム3 富裕層の家はやっぱり広い

第4章 【家族】富裕層は教育費に糸目をつけない
習慣25 富裕層は税負担を避けて家族にお金をわたす
家族に毎年100万円のお小遣いをわたす

習慣26 富裕層は家族の住宅取得を支援する
家族の自宅購入は節税のチャンス

習慣27 富裕層は教育費に糸目をつけない
お金の格差を感じた大学時代
富裕層の家系は高学歴・大手企業勤務が多い

習慣28 富裕層は遺産争いを絶対に避ける
遺産争いは富裕層より一般家庭が多い

習慣29 富裕層は自分の人生の最期を自分で考える
入居費用が「億」を超える老人ホーム
高級老人ホームに入る富裕層の心理

コラム4 富裕層は家族の人数が多い
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