「ああ、お金がない」が口癖の高齢者と「老後2000万円問題」 山崎元さんに勝手に教わるお金と生業6

 お金の不安は尽きないものです。年を取れば取るほど、その不安が大きくなってくるようです。「ああ、お金がない」が口癖になってしまった高齢者に数多く出くわしました(女性のほうが、その傾向が強い)。

 ただ、焦りに駆られてさまざまな金融商品に手を出せば、お金を失うことになると、経済評論家の山崎元さん(2024年没)はすべての書籍で注意喚起を行っていました。

老後資金計画のポイント

○日本経済よりも、「日本経済はヤバいからこの金融商品を買いましょう」「日本経済はヤバいからこの情報商材を定期購読しましょう」と口にする人のほうがヤバい

もともと金融業界にとっては、老後のお金の必要性は、将来のインフレ・リスクへの対処の必要性と並んで、運用商品販売のための「2大商材」と言っていい大事なテーマです。

人生がかつてイメージされていたよりも長いことを意識することは重要ですが、「人生100年時代」を謳う運用商品(具体的には、外貨建ての生命保険、毎月あるいは奇数月分配型の投資信託、ラップ運用など)の広告やセールスは全て疑う方がいいと申し上げておきます。

端的に言って全て無視すればいいし、仮に現在持っている場合の正解は、ほとんどの場合、即刻解約です。

 山崎元が「未公開原稿」で伝えようとしていた「人生100年時代」の"まやかし"と「老後2000万円」問題の"本質"
https://toyokeizai.net/articles/-/867132

○年金は不平等な制度だが、破綻はしない

○月々の手数料に注意する

○「自分が死んだら家族が路頭に迷う」という人以外は、生命保険に入る必要はない

独身のサラリーマン→生命保険不要
貯蓄のある共働き世帯→生命保険不要
貯蓄のない片働き世帯→生命保険必要
高齢夫婦無職世帯→生命保険不要

○借金をしない

○お金のありかを家族で共有する


 老後資金の不安をあおった2017年の「老後2000万円問題」。ベースとなったのは、2017(令和元)年6月3日に発表された金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書「高齢社会における資産形成・管理」 でした。麻生太郎金融相(当時)が発表した後で炎上し、その後「表現が不適切だった」と報告書を否定するような発言をしています。。



 「老後2000万円問題」の計算は、以下のように行われていました。
 夫が65歳以上で妻が60歳以上のどちらも無職の夫婦は、毎月約5万円の赤字生活を送っていると、厚生労働省の調査でわかりました。

高齢夫婦無職世帯の平均的な姿で見ると、毎月の赤字額は約5万円となっている。この毎月の赤字額は自身が保有する金融資産より補填することとなる。

 この生活が20年、つまり240カ月(12カ月×20年=240カ月)続いたら赤字額は1200万円、30年続いたら1800万円になります。ただ、資料では、30年は2000万円が必要という表現になっていました。

夫 65 歳以上、妻 60 歳以上の夫婦のみの無職の世帯では毎月の不足額の平均は約5万円であり、まだ 20~30 年の人生があるとすれば、不足額の総額は単純計算で 1,300 万円~2,000 万円になる。この金額はあくまで平均の不足額から導きだしたものであり、不足額は各々の収入・支出の状況やライフスタイル等によって大きく異なる。当然不足しない場合もありうるが、これまでより長く生きる以上、いずれにせよ今までより多くのお金が必要となり、長く生きることに応じて資産寿命を延ばすことが必要になってくるものと考えられる。


 もちろん、家計は各世帯で異なるので、「老後資金2000万円」というのはあくまでも目安です。山崎さんが指摘するように、「個々人の事情によって異なる問題を「平均」で語ろう」とした部分だけが問題だったのです。

ところで、「老後資金2000万円問題」は、何が本質的な問題点だったのかというと、個々人の事情によって異なる問題を「平均」で語ろうとしたことでした。正しくは、個々人が「自分の数字」で自分にとって必要な貯蓄額や将来の資産額を計算する「方法」を伝えるべきでした。平均では、役に立ちません。


 「高齢社会における資産形成・管理」でも上記と同様のことは書かれているのですが、「老後資金2000万円」だけが独り歩きしたという印象。

 「ああ、お金がない」「お金がない」と口にする前に、冷静に、必要なお金を計算したほうがよさそうです。

 今はとても便利な時代で、老後の費用を計算するツールが以下のウェブページにあります。

〇人生設計の基本公式

 ちなみに、「ああ、お金がない」が口癖だった代表格が実母と義母で、結果としては、彼女たちは金銭面では子どもたちにまったく迷惑をかけずに亡くなりました。

 なお、身の丈に合ったゆるゆる片づけを 『58歳から日々を大切に小さく暮らす』で紹介したように、義母はスカーフをおよそ100枚、靴下はそれ以上の数をしまい込んでいて、肌着もすでに衣装ケース2つ分以上あるのに「足りない」「買ってきて」と言っていました。

 「ああ、お金がない」「足りない」と聞かされ続けた人間としては、なるべくそんな言葉を口にせずに暮らしていけたらと思っています。
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