フリースクールは「自由な学校」「無料の学校」ではなく 「不登校の子どものための民間施設」なのか問題

 不登校の児童・生徒が増えています。
 
COCOLOプランより


 文部科学省のデータでは、不登校の要因は次のとおりです。
1 学校生活に対してやる気が出ない 32.2%
2 不安・抑うつ 23.1%
3 生活リズムの不調 23%

 そして、2024(令和6)年2月に発表された東京都の調査から、不登校がひきこもりのきっかけになりやすいことがわかります。

1 不登校(いじめ、学校生活になじめなかった等) 83.7%
2 職場における人間関係(ハラスメント等) 73.5%
3 病気 47.8%
ひきこもりへの認識に関する世論調査より


 不登校の要因第1位の「学校生活に対してやる気が出ない」については、『暇と退屈の倫理学』(著/國分功一郎 新潮社) で引用されていた、イギリスの哲学者バートランド・ラッセルが1930年に発表した『幸福論』の一節との共通点を感じました。

今の西欧の若い人たちは、自分の才能を生かす場所がなくて不幸になりがちだ。でも革命が進行中のロシアや、まだまだ発展途上な東洋の国々は新しい社会を作る余地がある。だから、そこにいる若い人は幸せだろう。


 今の日本の若い人たちも、自分の才能を生かす場所がなくて不幸になりがちなのかもしれません。子どもたちについては「自分が働かなくても世の中は回っている」と思っている節があります(実際は、水道も電気もネット環境も、すべて誰かが働いてくれているから使えるわけですが)。

自分が働かなくても世の中は回っているのに、どうして働く必要があるのだろうか?
就職のために学歴が必要だとか大人たちは言うけど、働く必要がないのに勉強する必要はあるのだろうか?
勉強も、学校に行くことも、だるい。

 学校に行かなくなった子どもは、このように感じているのではないでしょうか。

 そんな感じ方をしている子どもに対して、「甘えている」「やる気を出せ」「そのままだと負け組だぞ」といった批判は、無意味かもしれません。理由は、子どもたちが能動的に「学校に行かない」という選択をしたというよりも、世の中のこと、家のこと、学校での人間関係のことなどが絡まり合って「学校に行っていない」状態となっている可能性があるからです。

 学校が人材養成場ではなく、universityとcollegeのようにただ学ぶために人が集まっている場であれば、「学校生活に対してやる気が出ない」状況は、ある程度解消するのかもしれません。

 アメリカやイギリスなどでは、1970~80年代にオルタナティブ教育(Alternative Education、代替教育)が盛んになったそうです。

 その一つが、フリースクールです。現存する最古のフリースクールは、イギリスの教育家のアレクサンダー・サザーランド・ニイルが1921年にドイツで設立したサマーヒル・スクール。「子どもたちは強制よりも自由を与えることで最もよく学ぶ」という哲学がベースで、資本主義社会が求める人材育成をするための学校教育への反動もあったようです。
サマーヒル・スクール(写真/Axel Kühn Wikipedia


 ただ日本だと、フリースクールは「自由な学校」「無料の学校」ではなく 「不登校の子どものための民間施設」と説明されています。嫌な表現にはなりますが、「学校生活から脱落した子どもが通う、代替的でなく補完的な場所」的なニュアンスを感じなくもありません。
フリースクールってなんですか?

一般に、不登校の子供に対し、学習活動、教育相談、体験活動などの活動を行っている民間の施設を言います。

その規模や活動内容は多種多様であり、民間の自主性・主体性の下に設置・運営されています。平成27年度に文部科学省が実施した調査では、全国で474の団体・施設が確認されました。

 
COCOLOプランより

 フリースクールが、その名のとおり学校と認められて代替的な立ち位置になったら、「不登校」の捉え方もまた変わるかもしれません。

 
 


■主な参考資料
イギリス 多様な教育と子どもたち 第6回オルタナティブ教育

(1) 教育を、人格の全体性(ホール・パーソン)-すなわち知性的、身体的、社会的、倫理的、創造的、精神的なレベルの統合されたシステムとしての人間の全体性-の成長を促進するものであると理解すること。
(2) 教育は、「いのちへの畏敬」に根ざすべきものであり、子どもの中でこれから開花しようとしている「いのち」への驚きと敬意から出発すべきものであること。
(3) 教育は、(教師中心でも児童中心でもなく)学習者と教育者の相互的な関係性があってはじめて成り立つこと。
(4) このような教育を実践しようとすると、必ず現在の社会との間で葛藤が生じるため、現在の社会を変革していくことと同時進行で教育をすすめること。

ニートを生み出す社会構造は
 近代の社会は「人間がそのままでOK」とはしてきませんでした。働いたり、何かをすることによって、その人が存在する価値や意味を生じるという観念を作りだしてきました。何かをしないとその人に価値がないというのは、どう考えてもおかしいことです。生きていくために仕事はあります。仕事という手段によって自分の価値が格付けられたら、主客転倒です。そこは単純に考えて、おかしいと言わざるを得ません。

『中動態の世界 意志と責任の考古学』(医学書院)
たとえばアルコール依存症の人々は、自由に飲酒する喜びを喪失した人々、自身の「外」にある病によって飲酒を強制された人々、と言えるだろう。酒を「ひきこもり」などに置き換えることも、たぶん可能だ。彼らの「本質」と「自由」の回復を支援する臨床家にとっても、「中動態」から見える風景は、新たな希望の糧となるだろう。

ひきこもりへの認識に関する世論調査

不登校の小中学生過去最多34万人余に11年連続で増加文科省

令和5年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果及びこれを踏まえた対応の充実について(通知)

COCOLOプラン

ひきこもりの実態と社会的背景・要因の理解
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