睡眠の基礎知識8 五感をしっかり働かせると、眠るための脳の仕組みも維持されるかも
「私たちは、どうして眠るのか」
クラゲが眠ることがわかり、睡眠は脳だけのためでなく、神経細胞と関係があるのではないかと指摘されています。
生物の進化の過程で神経細胞を持つようになったのは、6億年前に誕生したとされるクラゲやサンゴ、イソギンチャク、ヒドラなどの刺胞動物、そしてウリクラゲなどの有櫛動物とのこと。
神経細胞によって環境のさまざま変化を感知し、ほかの細胞に情報を伝達して活性を変化できるようになります。「おっと、ここは水温が低いから、別の場所に移動しよう」なんとことが、神経細胞があればできるわけですね。クラゲを観察していると、あたかも考えて行動しているような動作も見られるとのこと。
神経細胞のメンテナンス、専門的には「回復」が睡眠の機能です。
睡眠を邪魔されたヒドラでは、細胞増殖が低下することが確認されていて、体の維持・成長に睡眠が重要ではないかと推測されていました。
そう考えると睡眠は非常に重要なのですが、それよりも優先されるのが「種の保存」と「個の保存」です。
これは、ともに命にかかわることである。この保存は、自分自身の命であり、種の保存は子孫の命だからだ。「命あってこそ」の生き物であるから、命にかかわることは最優先される。
南極にすむヒゲペンギンは、卵を抱いている間や子育てをしているときに、平均4秒の「マイクロスリープ」を1万回以上繰り返して、1回当たり平均4秒の超短時間睡眠(マイクロスリープ)を1日に1万回行うことで、必要睡眠時間である11時間を達成している可能性があると、フランスのリヨン神経科学研究センターやドイツのマックス・プランク研究所などが参加する国際研究チームが発表しました。「種の保存」のために、短い睡眠を繰り返すという戦略を取っているのだと考えらえています。
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ヒゲペンギン(写真/ぱくたそ) |
眠れない現代人についても、「種の保存」あるいは「個の保存」が脅かされている可能性が考えられます。実際に「ほかの生物に食べられてしまう」というケースはなくても、「食べられてしまう恐怖と同じくらいのストレス」は存在するのかもしれません。
だからといって、「よく眠るために、ストレスを解消しましょう!」などとアドバイスされると、多くの人は「そんなこと、もう知っているよ」とがっかりするでしょう。
別のアプローチが、『眠れなくなるほどおもしろい睡眠の話』(著/関口 雄祐 洋泉社)で紹介されていました。視覚(見る)、聴覚(聞く)、味覚(味わう)、嗅覚(かぐ)、触覚(触れる)の五感を働かせることと、体を動かすことです。
現代社会では、カラダを動かすことがごく少なくても、仕事も生活もできてしまう。ところが、どれほどアタマを酷使するような仕事をしても、カラダを使わなければ、脳神経の一部しか使っていないということになる。しかも、不使用の脳の部分は弱っていき、脳が脳を眠らせる仕組みも衰えていく。逆にいえば、カラダがもっている機能を十分に使えば、脳神経も健康的に維持されることになる。
私自身を振り返れば、仕事に追われ、パソコンを操作しながらおにぎりを食べるなど、味覚などをあまり使わない生活を送っていた時期がありました。そんな生活が続くと、味わう機能が弱っていくことになります。確かに、当時はよく眠れていませんでした。
おにぎりをしっかりと見て、海苔の香りをかぎ、口に入れたら何度もかんで味わう。こうした些細なことが眠るための五感トレーニングになるようです。
『眠れなくなるほどおもしろい睡眠の話』では、さまざまな動物の睡眠が紹介されていたのですが、個人的にウケてしまったのが、線虫(線形動物)のカノラプディチス・エレガンスの断眠実験です。小さなカプセルに線虫を入れて、メンコのようにびしっと床に投げつけ、線虫を眠らせないとのこと。
下の写真のようにエレガントな女性が、研究室で、線虫を入れたカプセルを床にたたきつけていたのですね。ちなみに、ゴキブリを使った断眠実験も行っています。
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イレーネ・トブラー(スイスのチューリッヒ大学サイトより) |
※メンコとは円形や四角形の紙で、これを机や床に並べ、ほかのメンコをたたきつけ、ひっくり返ったメンコがもらえるという遊びですが、今どきの子どもは知らないでしょうね、きっと……
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イラスト/しほまし |
■主な参考資料
『眠れなくなるほどおもしろい睡眠の話』著/関口 雄祐 洋泉社
海の動物から神経・脳の発達を考える
クラゲ
クラゲは約6億年前、神経と筋肉を最初に獲得した動物であると考えられています。神経と筋肉を獲得した動物は、大型化しても「行動」することが可能になり、様々な環境に適応して劇的に進化し、知性を発達させました。
動物と神経の誕生
睡眠メカニズムの形成は脳の獲得に先立つ(2020年12月8日)
筑波大,神経細胞も筋肉細胞もない奇妙な生きもの「平板動物」を日本各地で確認
4秒×1万回で11時間の睡眠を確保...ヒゲペンギン「超細切れ睡眠法」採用の切実な理由
※人間の夜の睡眠以外の話題で興味深かった箇所
ベラ科の魚は賢く、また深い眠りをもっていると考えることは、とっぴでもないだろう。
海釣りでよく遭遇するベラ科の魚が賢いとは!!
水族館のイルカはプールに浮いて眠る浮上睡眠、沈んで眠る着底睡眠、泳ぎながら眠る遊泳睡眠の3パターンの睡眠様式をもつ。いずれの場合も大脳が左右交互に睡眠状態になる半球睡眠をしていると考えられている
どうしても睡眠中のイルカはつねに片側の目だけを開いていると印象づけてしまう。
じつは……けっこう、両目とも閉じて眠ることもあるのだ。
両目閉じがたくさん記録された際の観察は、同じプールに同じメンバーで何日も過ごしてきた慣れ親しんだ環境で、自由遊泳状態で記録したものだ。
子どもの長すぎる昼寝は精神活動への影響なので、脳の問題である。いっぽう、高齢者の長すぎる昼寝は、血管系への作用である。
5~6歳児が昼寝時間を2時間から減らすと、問題行動が減ったとのこと。高齢者の場合は、昼寝時間が1時間を超えると、アルツハイマー型認知症や血管障害のリスクが高まるのだそうです。
「睡眠時間は多いほどよい」というわけではなく、特に昼寝は要注意です。
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