今の世の中で「私が本当にしたいこと」「私の生きる意味」は幻想 『明日、私は誰かのカノジョ』

レンタル彼女。
毒親。
パパ活。
外見コンプレックス。
整形。
ヤングケアラー。
ホスト狂い。
推し活。
スピリチュアル依存。


 今の女性たちが置かれている状況と、金、依存、承認欲求を深くえぐったマンガ『明日、私は誰かのカノジョ』。この内容のマンガが世に出てくること自体、「時代だな」と実感せずにはいられません。


 40年前は、ほわっとした恋愛モノやシンデレラストーリー(頑張ったから報われた、王子様的存在に見初められたなど)しか少女マンガには存在しませんでした。
 ですから、毒親や恋愛依存なども描くマンガを読んで、ギョッとしたのです。

 『明日、私は誰かのカノジョ』でも毒親は登場したのですが、子ども思いの母親がいる女子大生でも、外見コンプレックスからホスト狂いにはまっていく様子も描かれていました。
 「Aという条件で必ずBになる」という単純な話でもありません。

 『明日、私は誰かのカノジョ』はオムニバス形式で、シリーズごとにメインキャラクターとテーマが入れ替わります。
 すべてのテーマに共通するのが、金と女性。

 資本主義の世の中なので、人間も商品化され、幼少の頃から絶えず比較されるのです。
「この子は○点取れたから、あの子よりも素晴らしい」
「この人はいくら稼げるから、あの人よりもえらい」
「この人はいくら持っているから、あの人より価値がある」


 自分自身を振り返ると、テスト前に勉強していい点を取る努力をしたり、学生時代にはバイトをしてブランドのバッグを買ったりしてきました。

 本当に、私自身は勉強がしたかったのか。周りに褒められるから、周りに認められるから勉強をしたのか。
 本当に、そのバッグが欲しかったのか。ブランド品で、みんなが欲しがっているものだから購入したのか。

 今となっては、「本当に私がしたいことだったのか」「本当に私の欲しいものだったのか」もわかりません。実は当時も、よくわかっていませんでした。
 周りに流されて、選択してきたのです。

 ただ、それは私だけでなく、社会生活を送っている人々のほとんどが、流されながら一生を終えていったのだと思います。

 それが当たり前にもかかわらず、自己啓発やスピリチュアルな人たちは勧誘・営業などの際に「あなたの本当にしたいことは何ですか」と問いかけて、困惑させようとしています。
 困惑させたほうが、相手を手玉に取りやすいから。

 そんな自己啓発やスピリチュアルな人たちも、本人たちは「あなたの本当にしたいことは何ですか」に答えられないでしょう。一つだけ言えるのは、「使うかどうかは別として、ひたすら金が欲しい」ということだろ思うわけです。

 『明日、私は誰かのカノジョ』の 第6章「What a Wonderful World」に登場する江美。
最後に一緒に笑いましょう
17歳の誕生日
大人になりたくなくて
25歳までには死にたいと思った。
25歳の誕生日
このまま楽しく後悔しないまま
30歳で死にたいと願った。
30歳の誕生日
死ぬ時に後悔せずにいたい
明日死んでもいいように今を生きる
そう誓った。
そして今、死ぬこともできず生きる意味も見いだせないまま
私はここにいる。

 学生の頃に実家を飛び出して、流されながら水商売・風俗で生きてきた江美。40代の今、自分らしく生きようとしているのですが、実はスピリチュアル商法のカモでしかありませんでした。むしろ、自分らしく生きようとしてしまったばかりに、カモになったのです。

 マンガには、酒を飲んでいるときなどに江美が「引き寄せの法則」などの話をして、相手に「はぁ?」という目で見られているシーンが描かれていました。
 ほとんどの人が「うさん臭い」「ヤバい」と思ったとしても、少数の人間が真に受けてだまされたら、それで成立するというのがスピリチュアル商法のスタイルなのです。

 江美は、気持ちがモヤモヤすると、すぐにレター先生(スピリチュアル商法の女性)に連絡をして、苦しい心情や自身にとっての"学び"(「私は許せたのです!」的発言)を、洗いざらい吐露してしまいます。

レター先生(https://twitter.com/wnhno/status/1552670408817901568


 そんな江美が心酔していたレター先生は、グチグチとうるさい江美に対して穏やかな笑顔で対応しています。本当の気持ちや自分の置かれた状況などは、顧客に見せません
 「インチキじゃないか」などと批判を受けても、「おめでとうございます。あなたのステージが一段上がった証拠なんです。これも"気づき"の一つですね」などと笑顔で流していました。
 これぞプロ。格の違いともいえそうです。

 顧客が1人減ると、レター先生にとって痛手。だからといって「やめないで」「生活が苦しくなるの」とすがったり、「インチキだと? くだんない話をダラダラ垂れ流しやがって、ずっと我慢して聞いてやっていたんだぞ!」とキレたりはしません。
 そんなプロたちが、社会を回しているのが現実。本当のことなど、どこにもないのかもしれませんね。

 ちなみに、スマホでレター先生と話している江美の部屋が汚いのです。ゴミだらけ。そんな描写も、このマンガはすごいなと思った次第です。

 金を使えば「ありがとう」「好きだよ」などと感謝や好意を得られる時代。金を使えば「私が本当にしたいこと」「私の生きる意味」も誰かが与えてくれるわけですが、感謝や好意も、人生の意味も、幻想に過ぎないのではないでしょうか。
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