進化医学について、超文系人間がざっくりまとめてみた その2 evolution? transmutation?
現在、進化についてはevolutionという英語が主に使われているそうです。過去には、development、transmutation、descentなどが使われたこともありました。
進化医学に関する書籍では、「ダーウィンは進化についてevolutionという言葉は使わなかった」と記述されていることも珍しくありません。
どうして別の言葉を使ったのか?
evolutionは「展開する」という意味で、「前成説」で使われていました。前成説では、卵子や精子の内には、完成されるべき個体が小さくなって入っていて、発生過程でevolveすると表現されていました。
一つには、前成説と混同されないように、ダーウィンはevolutionという言葉を避けたと考えられます。
※前成説とホムンクルス・後成説
「ホムンクルス(Homunculs)」はラテン語の「人間(Homo)」の縮小語で「小さな人間」を意味する。この語は発生学において精子とほぼ同一のものとして用いられた。生物の発生に関して主に二つの説、前成説と後成説がある。前成説は、成体の原型が卵子、精子あるいは受精卵の中に予め出来上がっているとする説で、そのなかでも卵子に原型を見るものを卵原説、精子に原型を見るものを精原説と言う。前成説は 17 世紀から 19 世紀にかけて隆盛を極めたが、それは 17 世紀に顕微鏡による観察が始まったことに関係する。その成果の一つに、オランダの学者ニコラス・ハルトゼーガー(1656-1725 年)が顕微鏡を通して精子の頭部にいる小人を発見したと考えたことが挙げられる。
メンデル解題:遺伝学の扉を拓いた司祭の物語
https://www.research.kobe-u.ac.jp/ans-intergenomics/Meine%20Zeit/PDF/Chapter2.pdf
https://www.research.kobe-u.ac.jp/ans-intergenomics/Meine%20Zeit/PDF/Chapter2.pdf
一方の後成説は,連続的な個体発達のプロセスにおける形質の転換によって,それぞれの部位や器官が生じるとする立場である。
1859年に出版した非常に長いタイトルの本(On the Origin of Species by Means of Natural Selection, or the Preservation of Favoured Races in the Struggle for Life──自然選択すなわち生物の闘争における有利な品種の維持による種の起源について、の意)──略称『種の起源』でダーウィンは、最後に「進化する」という動詞形で用いただけで、エヴォリューションという用語は使わず、その代わりにトランスミューテーション(transmutation)という用語を使った。また自らの理論を、「変化を伴う血統の理論」(theory of descent with modification)と呼んでいた。ダーウィンがアルフレッド・ラッセル・ウォレスとともに発表した、進化における自然選択の作用についての論文では、トランスミューテーションすら使わず、それを「変化」としか表現していない。
進化という意味で使われた用語の語源を、エティモンライン英語語源辞典で調べてみたところ、次のとおりです。
evolution(n.)1620年代、「巻かれたものの展開」を意味するラテン語の evolutionem (主格形 evolutio )から派生した言葉で、そのラテン語の語源は巻き戻すことを意味する evolvere に由来します( evolve を参照)。医学、数学、そして一般的な執筆において、1660年代から、さまざまな意味で使用されてきました。その中には、「個々の生物の成長と発達」という意味も含まれています。現代の生物学において、種についての用法は、スコットランドの地質学者チャールズ・ライエルの著作で初めて1832年に記録されました。ダーウィンは「種の起源」(1859年)の最後の段落で一度だけこの言葉を使用しましたが、科学的な意味を含む evolution の使用があったことと、18世紀に放棄された胎児発生のホムンクルス説に既に使用されていたことなどから、「進化」を意味する descent with modification を好んで使用しました。しかし、ビクトリア時代の進歩信仰が勝利を収め(そして簡潔さの利点もあった)、ダーウィンの後にハーバート・スペンサーら他の生物学者たちは evolution を広めました。
もともとエヴォリューションとは、「展開する、繰り広げる」という意味のラテン語、evolutioに由来する語で、コンパクトに折り畳まれていたものが一方向に展開するような現象を表現するのに使われていた。エヴォリューションの考え方自体は、自然主義の出発点──古代ギリシャまで遡る。まずはプラトンが万物にはその物をその物たらしめる不変の本質があるとする本質主義を唱えて、進化のライバルとなる不変の思想のほうが先に誕生する。だが同時にプラトンは、宇宙における秩序の発生という概念を着想した。さらにアリストテレスによって、無生物から植物、動物へと連続する自然観が導かれた。アリストテレスは、自然物の存在に合目的性を認めた。この秩序と連続がのちに「存在の連鎖」──植物から動物、人間へと生命の直線的な秩序を表す自然観へと発展した。これにキリスト教の時間的な変化の概念が融合し、進歩を意味する歴史観となった。アリストテレス以来の目的論を受け継ぐ、一つの目標に向けて進む進歩観である。進歩を光とすれば、衰退は闇である。西欧には、光が作る影のように、進歩観の裏側にそれとは正反対の世界観が張り付いていた。旧約聖書に記された堕落神話──アダムとイブから続く堕落や、大洪水を箱舟で生き延びたノアの子孫が各地へ移住した後、新しい土地で暮らすうちに堕落していく、といった衰退観である。人類は神による創造以来、堕落し衰退し続けるという世界観、さらにキリスト教の終末論は、逆に西欧の進歩への強迫観念を支えてきた。それが転じて17世紀以降、個体発生を意味する語としてエヴォリューションが使われた。当時の前成説の考えでは、精子や卵の中に子供の形のひな型が入っており、次第にそれが展開するのが発生の過程だったためである。たとえばダーウィンがまだビーグル号で世界一周の航海途上にあった1832年、チャールズ・ライエルは次のように記している。「最初に存在した海洋の有殻アメーバ類のうちのいくつかが徐々のエヴォリューションにより、陸地に生息するものに改良された」。それはたとえば星雲のエヴォリューションのように、非生物的自然の連続的な複雑化や発達、という意味でも使われていた。また人間社会の進歩にも使われていた。歴史家のフランシス・パルグレイブは1837年に、「立憲主義による私たちの政治形態は、エヴォリューションによって作り出された」と記している。
development(n.)1756年、何かの詳細な発展や漸進的な展開、完全な明らかにすることを意味し、「develop」+「-ment」から。「内部の拡大や成長の過程」という意味は1796年からあります。1836年には「進行的な段階を経ての進歩」という意味がありました。不動産に関しては、使用や利益のために隠れた可能性を引き出すという意味で、1885年からです(ピッキングのアメリカ英語の用語集、1816年ではbetterments「新しい土地での耕作や建物の建設などによる改善」を意味しています)。経済進歩の状態という意味は1902年からです。
develop(v.)1650年代、「巻き物を広げる、展開する」という意味(現在では使われない意味)で使われ始めました。フランス語の développer.(développer) からきています。それは、以前の英語の disvelop(1590年代、フランス語の desveloper から)を置き換えました。これらのフランス語の両方は、古フランス語の desveloper, desvoleper, desvoloper「包みを解く、広げる、明らかにする;意味を明らかにする、説明する」からきており、「解く」を意味する des-(dis- を見てください)+ 不明な起源の voloper「包む」(ケルト語かゲルマン語の可能性があります)から成り立っています。現代の使い方は比喩的なもので、18世紀以降、英語で展開しました。他動詞としての「より完全に展開する、潜在的なものを引き出す」という意味は1750年頃にあり、自動詞としての「徐々に存在するか働き始める」という意味は1793年頃にあります。すでに成熟した状態へと段階的に進展する」という意味は1843年にあります。自動詞としての「知られるようになる、明るみに出る」という意味は、1864年、アメリカ英語で使われるようになりました。写真に関する意味での「必要な化学変化を引き起こして潜在的な画像や写真を見えるようにする」という意味は1845年からあります。不動産においては「土地を実用的あるいは利益が出るように変える」という意味は1865年からです。関連する表現: Developed; developing.Developing は形容詞として経済、産業、社会の状況が進展している貧しいまたは未発達の国々や国家を指す言葉として1960年にあります。
上記のことから、evolutionとdevelopmentの語源は近しいものだとわかりますね。
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photo/cottonbro studio |
descent(n.)紀元前1300年頃、「元祖または祖先からの系統的な血統」を意味し、古フランス語の descente「血統、子孫、家系」に由来します。これは、descendre「下る」(descend を参照)に由来する古フランス語の名詞と同様に、フランス語の名詞を模して形成されました。例えば、attente は attendre「期待する」から、vente は vendre「売る」から、pente は pendre「垂れ下がる」から派生しています(ラテン語の語源的な英単語は *descence であるはずです)。「下降の行為」(on)、「上から下への移動の行為」の意味は14世紀後半から存在します。1590年代からは「下り坂」の意味もあります。1600年頃からは「突然の侵攻または攻撃」という意味もあります。生物学的な意味の「進化」はダーウィンの1859年の提唱以降ですが、1630年代までさかのぼる同様の用法もあります。
trans-trans(前置詞)「横切って、越えて、向こう側に、超えて、越えるために」を意味する語形成要素。ラテン語の trans から来ており、元々は動詞 *trare- の現在分詞で、「横切る」を意味するものと思われる。PIE の *tra- 、すなわち語根 *tere-(2)の変形で、「横切る、通り抜ける、克服する」という意味がある。化学においては、「分子の軸の反対側に2つの特徴的な基がある化合物」を示す [Flood]。mutation(n.)14世紀後半に遡るmutaciounは、「変化する行動や過程」を意味し、古フランス語のmutacion(13世紀)とラテン語のmutationem(主格 mutatio)「変化、変更、悪化すること」の名詞形から由来し、mutare「変える」(PIE基礎語根 *mei-(1)「変える、行く、動く」)の過去分詞形から派生しています。遺伝学において「DNAの遺伝的な変化が起こる過程」という意味で使われるようになったのは1894年のことです。言語学におけるi-mutationは1874年に証明されていますが、それ以前はi-umlaut(1869年)があり、ドイツ語から来ており、mutationはスウィートによる英語での代替語でした。
ダーウィンのトランスミューテーションは、このような自然界の秩序ある発展、つまりエヴォリューションを否定するものだったのである。エヴォリューションの語をダーウィンが使わなかったのは、彼が着想したトランスミューテーションが、当時広く使われていたエヴォリューションとはまったく異質なものだと認識していたからだ、と言われている。方向がどのようにも変わりうる生物の変化、目的のない変化というダーウィンの基本的な考えは、革新的なものであったのだ。その生命史のイメージは、単純な形から出発した生物が、あらゆる方向に枝分かれしながら無目的に変化する結果、時間の経過とともに人間を含む果てしない多様性が生まれていく、というものだった。『種の起源』の末尾は、動詞形ながら本中で唯一の、進化する、という言葉を使い、こう締めくくられている。「こんな壮大な生命観がある──生命は、最初一つか少数の形のものに吹き込まれた。そしてこの惑星が重力の法則に従い回転している間に、非常に単純な始まりから、最も美しく、最も素晴らしい無限の姿へと、今もなお、進化しているのである」ダーウィンは、秩序ある発展ではなく、果てしなく広がり、あらゆる方向に変わり続ける命の、あてのない旅を、目標なき「展開」の意味で進化する、と描写したのだろう。
生物学的な進化の意味は、遺伝する性質の世代を超えた変化である。現代のそれは発展や発達、進歩の意味ではない。生物進化は一定方向への変化を意味しない。目的も目標も、一切ないのだ。
その要点は、第1に生物の種は神が創造したものでなく、共通祖先から分化、変遷してきたものであり、常に変化する、という主張。
第2に、生物の系統が常に変化し、枝分かれする以上、種は類型的な実体ではなく、科や属や亜種と同じく、形のギャップで恣意的に区分される変異のグループに過ぎないという主張。
第3に、そうした変化を引き起こした主要なプロセスは自然選択である、という自然選択説の主張である。そしてこの三つに基づいて、生物の進化は何らかの目標に向かう進歩ではなく、方向性のない盲目的な変化である、という主張が導かれる。
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