「水はこまめに、ちびちびと」がやっぱりよさそう 水中毒の話題も含め
水中毒について「1日に3リットル以上の水分を飲んだ場合や短時間に1リットル以上の水を飲んだ場合に起こる」というネット情報があります。今のところ、この説の根拠は見つかっていません。
水中毒が話題になったのは、アメリカでの水飲みコンテスト参加者の死亡事故のようですね。
2005年、ハーバード医科大学のグループ研究結果では、ボストンマラソンの参加者でボランティアを募り、レース後に血液検査を行ったところ、13%の人に「低ナトリウム血症」が生じ、中には重症でレース中に倒れた人もいたということがわかりました。原因は大量の水をとったことにより血液中の塩分濃度が相対的に急激に下がり、低ナトリウム血症をきたしたことによるものでした。また、2007年、アメリカのラジオ局が開催した水飲みコンテストで「水中毒」をおこして死亡するという事件がありました。この女性は3時間で7リットルの水を飲んだということです。もちろん、塩分はとっていません。
そのほかに、「20分間に約2リットルの水を一気に飲んだ女性 帰宅後に倒れ、水中毒で死亡(米)」というニュースもヒットしました。
記事には、以下の文章があります。
この日は特に暑い日だったと言い、アシュリーさんは「喉が渇いた。ちゃんと水分を摂れていないみたい」と訴え、ボートに乗っている20分間に1本500mlほどの水が入ったボトルを4本も飲み干した。アシュリーさんはふらつきや頭痛なども訴えていたという。
「ちゃんと水分を摂れていないみたい」と話していたことから、水を飲む前の時点で、脱水していた可能性も考えられそうです。
水中毒については、「単純に『水を〇リットル飲んだら起こる』とはいえない」というのが、ネットで調べた範囲での個人的な感想です。どんな薬を飲んでいるのか、どんな水の飲み方をしたのか、脱水に陥っていないか、腎臓の機能はどの程度かなど、さまざまな要素に大きく左右されるのではないでしょうか。
また、水中毒の報告が多いのは、精神疾患患者という印象です。福岡県薬剤師会が、次のように解説しています。
水中毒とは、多飲症の結果生じる発作性の病態で、精神疾患患者にはしばしば見られる。
(原因)①向精神薬(特に定型抗精神病薬)による副作用の口渇により飲水が習慣化し、強迫的に飲水が増える、②精神疾患の病態(不安、焦燥、幻覚、妄想等)から飲水が習慣化して多飲傾向となる、③向精神薬の長期使用により、慢性的にドパミンD2受容体が遮断され、視床下部の口渇中枢を刺激する中枢性飲水惹起物質のアンジオテンシンⅡへの感受性が亢進し、さらに抗利尿ホルモンの分泌が促進され、水分貯留を引き起こす(抗利尿ホルモン分泌不適合症候群:SIADH)等が考えられる。(症状)多飲により腎の処理能力を超えると電解質バランスが崩れて希釈性低ナトリウム血症が生じ、軽症では疲労感、頭痛、嘔吐、浮腫、重症では脳浮腫による痙攣、錯乱、意識障害等、肺水腫やうっ血性心不全等の身体障害を起こし、死に至ることもある。
薬の副作用、それから不安や妄想といった症状が原因で、「水を飲まずにはいられない」という心理状態に陥るようですね。
また、薬の副作用で抗利尿ホルモンがたくさん分泌されて、尿として水分が排泄される量が減ることも関係しているとのこと。
ネット上には、腸からの吸収、そして体液のバランスを考えて、ナトリウムと糖質を水と一緒に摂取することを勧める情報を散見しますが、人によってはナトリウムと糖質の取り過ぎにつながる可能性もあります。
また、高齢者についてはもともと体の水分が少なく、抗利尿ホルモンへの尿細管・集合管の反応も弱まっているようなので、水中毒のリスクを強調するよりも「こまめに水分を取る」ことを勧めたほうがいいのではないかと思います。
スポーツドリンクの飲み過ぎは、「スポーツドリンク症候群」と呼ばれ、糖尿病のリスクとなります。詳しくは、以下の記事を参照してください。
経口補水液(ORS)の作り方は、過去にも紹介しました。
1リットルの水に20~40gの砂糖と食塩3gを溶かせば自家製ORSが作成できることは覚えておきたい
計量器がない場合は、以下の作り方を利用するといいでしょう。
ドラッグストアなどにも、「オーエスワン」などの経口補水液が売っていますが、経口補水液は家庭でも簡単に作ることができます。1リットルの水に、小さじですり切り6~8杯の砂糖(小さじ1杯は5ccなので30~40g)と、小さじ1/2杯(2~3g)の塩を混ぜるだけです。これにオレンジジュース100ccを混ぜるとカリウムも補充できますし、味も良くなります。小さじがない場合は、ペットボトルのフタがちょうど5ccになるのでこれで代用も可能です。
水分補給の基本は、水。
水はこまめに、ちびちびと飲み、がぶ飲みはしない。
「だるい・ぼんやりする・頭が重い」という症状があれば、経口補水液。
体に負担をかけない、安全な水分摂取を心がけたいものですね。
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□参考文献
一般社団法人 北海道薬剤師会
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