動物の体にある仕組み「対向流」をまとめてみた

 対向流(向流)とは、2種類の流体が向かい合う形で流す(逆方向に流す)方式で、並流とは2種類の流体を同じ方向に流す方式です。
対向流(向流)

並流



 動物の体内には、対向流が見られます。
 代表的なものとして、毛細血管が挙げられます。動脈と静脈が平行して、動脈血と静脈血が逆方向に流れることで、動脈と静脈の間で熱や物質の交換が効率的に行われています。
カーブしてから平行に走る毛細血管(写真/血流スコープ



 奇網(怪網、ワンダーネット)については、動脈に静脈が巻きついて、網の目のように組み合わさる構造です。
ヒツジの奇網(写真/Wikipedia


 水鳥の場合は、脚に奇網があります。ここで、冷えた血液が流れる静脈が、動脈の温かい血液の熱を奪うことで、 まず、心臓に戻る静脈血が温まります。同時に、足先などに向かう動脈血は冷やされることで、寒い環境との温度差が小さくなります。こうして外部への熱の放散も小さくなり、毛細血管の収縮が抑えられるのです。
 魚類では、マグロやサメはえらに奇網があり、水鳥と同様に水温と体温との温度差を小さくする働きをしています。
 キリンやイヌなどの後頭部に奇網はあります。奇網では脳へ送られる動脈血が冷やされるほか、頭を上下させたときに血液が一気に移動するのが防止されています。


 魚類のガス交換の仕組みにも、対向流が組み込まれています。

 動物は空気や水から酸素を取り込みます。空気・水に含まれる酸素は、肺胞・えらから血液中に入り、全身に運ばれます。同時に、全身から二酸化炭素を回収してきた血液は、肺胞・えらで空気・水に排出されます。
 酸素が血液中に取り込まれ、二酸化炭素が血液中から排出されることを、ガス交換といいます。
 ガス交換で起こっている現象が、拡散です。拡散は、濃度の濃いほうから薄いほうへと物質が移動することです。

 酸素の多くは、血液中では赤血球のヘモグロビン(Hb)と結合して運ばれます。酸素がヘモグロビンと結合している割合を酸素飽和度(SO2)といいます。また、二酸化炭素は重炭酸イオン(HCO3−)として運ばれます。

○酸素飽和度(SO2):酸素と結合したヘモグロビン(酸素ヘモグロビン)の比率
○酸素分圧(PaO2):体積当たりの酸素量、空気や血液などの気体中の酸素が占める圧力
○動脈血酸素飽和度(SaO2):動脈血中のヘモグロビンのうち、何%が酸素と結びついているかを表したもの

 酸素解離曲線とは、体内での酸素の供給機能を視覚化したもので、横軸は酸素分圧、縦軸は酸素飽和度です。酸素分圧が高い肺・えらではヘモグロビンが酸素と強く結合し、酸素分圧が低い組織では酸素が放出されやすくなります。体温、血液のpH、二酸化炭素濃度などの影響で、曲線は変化します(ボーア効果)。
酸素解離曲線(図/wikibooks



 ガス交換で、対向流の仕組みが備わっているのが、魚類のえらです。魚類は、口から飲み込んだ水をえらに通過させて酸素を取り込んでいます。
魚類のえらでのガス交換(図/高校生物 呼吸 by池田博明


 えらに張り巡らされている毛細血管の中の血液の流れは、えらを通り抜ける水とは逆方向になっています。そのため、えらを通過する水は、常に血液よりも酸素飽和度が高い状態となっています。このように、並流よりも対向流のほうが、効率よく酸素を取り込めるのです。
並流と対向流でのガス交換の効率の差(図/高校生物 呼吸 by池田博明



 対向流で物質交換が行われているのが、哺乳類と鳥類の腎臓の尿細管です。

 動物の体液の量と組成は、いつも一定の範囲内で保たれています。体液のバランスを保つために、尿の量が調節されています。その方法は、次の2つです。

1 糸球体に入る血液の量をコントロールして、濾過率を変える
2 尿細管で濃縮を行う

 「2 尿細管で濃縮を行う」に関係しているのが、対向流です。
 
 哺乳類では、尿細管はUターンしていて、これを「ヘンレループ」といいます。糸球体で濾過された原尿は、ボウマン嚢で受け止められて、尿細管へと入っていきます。糸球体の周囲(皮質)でうねうねと尿細管は曲がってから深部(髄質)へと下行し(下行脚)、Uターンして、上行します(上行脚)。下行脚と上行脚の間はとても狭く、ここを間質液が満たしています。

○近位曲尿細管:皮質をうねうねと曲がっている部分
○近位直尿細管:髄質に入ってから細くなるまで
○ヘンレループの細い下行脚:細くなって髄質をまっすぐに下行
○ヘンレループの細い上行脚:Uターン
○ヘンレループの太い上行脚:髄質をまっすぐに上行
○遠位直細尿管:髄質をまっすぐに上行し皮質に入る前まで
○遠位曲細尿管:皮質をうねうねと曲がっている部分
○集合管:たくさんの遠位曲細尿管とつながって尿を集めて腎盂へとつながる
尿細管だけの模式図(図/腎臓の構造的ヒエラルキー —機能を支えるプラットホーム—

実際の尿細管は、糸球体から続く毛細血管が周囲に張り巡らされている(傍尿細管毛細血管)(図/ビジブルボディ


 「対向流増幅系」と呼ばれている仕組みが、尿の濃縮に関係しています。

 対向流増幅系と関係するのは、ナトリウムイオンと尿素です。

 まず、ナトリウムイオンの動きを見ていきましょう。
 上行脚の上皮細胞には、ナトリウムポンプ(能動輸送)があります。ナトリウムイオンが原尿からくみ出されるため、髄質の間質液はナトリウムイオンの濃度が高くなっています。
 髄質の間質液はあまりにもナトリウムイオンの濃度が高くなっているので、下行脚を通る原尿にもナトリウムイオンが移動します。ただ、ヘンレループを通って上行脚に移動すると、ナトリウムポンプで排出されます。
 このように髄質の尿細管・間質でぐるぐるとナトリウムイオンを回すことで、髄質でナトリウムイオンを高濃度に保つと、浸透圧で、髄質では水が尿細管から間質に移動しやすくなります。

○浸透圧勾配:溶質の濃度の違いによって生じる浸透圧の差、水の動きは濃度が低い→濃度が高い
○高張:内側の浸透圧<外側の浸透圧、水の動きは内側→外側
○低張:内側の浸透圧>外側の浸透圧、水の動きは外側→内側
尿細管でのナトリウムイオンの動き(図/『図解 内臓の進化』)


 次は尿素の動きです。
 髄質を通る集合管では、抗利尿ホルモン(バソプレシン)の働きで尿素が再吸収されているため、髄質の間質液は尿素の濃度が高くなっています。
 こうして尿細管の外側の間質で尿素の濃度が高くなり、尿細管を流れる原尿から水が間質へと移動します。

 
 このように対向流増幅系は、髄質の深いところほど間質のナトリウムイオンと尿素の濃度が高くなることで、浸透圧が高くなる仕組みです。
 下の図の「間質の浸透圧」を見ると、髄質の外層では300ミリオスモル(mOsm/kgH₂O)に対し、髄質の最も深いところでは300ミリオスモル(mOsm/kgH₂O)となっています。このように、浸透圧の大きさが場所によって異なる状態を「浸透圧勾配」といいます。

 そして対向流交換系は、やはり浸透圧が関係しています。髄質を通る血管の中の水が出入りすることで、髄質の深いところで浸透圧が高い状態が保たれます。

 間質には毛細血管もびっしりと張り巡らされています(傍尿細管毛細血管)。近位尿細管の近くを通っている血管の中の血液は、糸球体で水が搾り取られたような状態なので、濃度が高くなっています。ですから、周りの間質液から血管へと水分が入り込みます。
 そして、髄質に入り、深い部分では間質液にナトリウムイオンや尿素などがたくさん含まれているため、間質の浸透圧が高くなっています。
 血液と間質液との濃度差があることから、血管と間質で水分や物質が移動して、髄質の浸透圧勾配を保っています。この仕組みが対向流交換系です。 

■主な参考資料
野生動物の防寒対策

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