腸内細菌叢への影響が大きいのは食事よりも薬で、精進料理を食べているお坊さんと同年代の人ではあまり違わなかったという件について
You are what you eat.
「あなたは食べたものでできている」
かつて、この言葉を引用して、腸内細菌(腸内細菌叢、腸内フローラ、腸内マイクロバイオーム)に関する記事を作成した記憶があります。
「食べたものが腸に届くことで、腸内細菌も変化する」というイメージは、すぐに湧くものです。ところが、食事の内容と腸内細菌は必ずしも一致していないという研究がヒットしたのです。
何を食べるかよりも、どんな薬をどれだけ飲んだかのほうが、腸内細菌に与える影響は大きいという結果ではありますが、「ああ、抗菌薬(抗生物質)だよね」と思っていたら、それも違っていました。最も影響が大きいのは、胃もたれや胸やけに使われている薬だったのです。
非常に驚いたので、今回は、服部正平博士の記事を中心に、腸内細菌の研究をまとめてみました。
-----
私たち人間の腸には小腸と大腸があり、小腸は食べた物を消化吸収し、大腸は、消化吸収した後の残りカスから便を作ります。
通常、小腸には腸液1mL当たり1万個以下の腸内細菌が生息しています。 一方、大腸には1000億個から1兆個の腸内細菌が存在しています。小腸の腸内細菌が少ないのは、胃酸の影響があるなどと考えられています。
腸内細菌の種類は1000種、数は100兆個を超え、重さは2キロに及ぶといわれています(腸内細菌の種類と数には、諸説あります)。
腸内細菌は次世代シークエンサー(next-generation sequencers: NGS)を使った解析が進み、複数の遺伝子の塩基配列や全染色体の塩基配列を比較することが可能になりました。
東京医科大学消化器内視鏡学分野の永田尚義准教授らが、日本を含む12カ国の、健康な861名の腸内細菌のデータを比較する研究を行いました。
■薬の種類や多剤併用が及ぼすヒト腸内細菌への全貌を解明~ 世界に類を見ない腸内細菌叢ビッグデータベースを構築 ~
本研究成果は「Gastroenterology」 (IF= 33.883) のオンライン版に掲載されました(現地時間2022年7月1日公開)。
■集団レベルのメタゲノミクスにより、複数の薬剤がヒト腸内細菌叢に及ぼす異なる影響が明らかに
その結果、腸内細菌の傾向・類似性で、次の3つに分かれました。
○プレボテラ属(バクテロイドータ門)が多い
マラウイ(東アフリカ)・ベネズエラ(南米北部)・ペルー(南米西部)
○バクテロイデス属(バクテロイドータ門)が多い
アメリカ(北米)・中国(東アジア)・デンマーク(北欧)・スペイン(南欧)・ロシア(東欧・アジア)
○ビフィズス菌(アクチノマイセトータ門)が多い
スウェーデン(北欧)・フランス(西欧)・オーストリア(オセアニア)・日本(東アジア)
上記から、アジア圏の中国と日本で、腸内細菌の構成が似ていないことがわかります。「日本の食事は、フランスよりも中国に似ているのに……」と疑問を抱きますよね。
それで食事について、FAOSTAT(国際農林業恊働協会の統計)の2003〜2014年のデータをもとに、タンパク質・脂質・炭水化物の比率でグループ分けをすると、次の2つになりました。
○グループ1:中国、マラウイ、ペルー、日本、ロシア、ベネズエラ
○グループ2:デンマーク、スウェーデン、アメリカ、フランス、オーストラリア、スペイン
つまり、食事については、「フランスよりも中国に似ている」に当てはまるのです。
ここからわかるのは、食事の内容と腸内細菌は必ずしも一致していないということです。服部博士は次のように述べていました。
「総持寺(曹洞宗)の僧堂で精進料理を食べて生活する禅僧たちと、同じ年齢の健康の菌叢の違いを調べましたが、驚いたことに菌の区別は見られませんでした」
年齢が同じであれば、菜食主義でもそうでなくても、腸内細菌の差はほとんどないということです。
私たちがオギャーと生まれたときから、共生している腸内細菌。産道や皮膚の接触など、外部の環境から腸にすみ着いた細菌は、思いのほか、食べたものの影響が少ないようです。■腸内細菌への影響が大きい要素ランキング
1 薬剤
2 疾患
3 身体情報(年齢・性別・身長・体重・BMIなど)
4 食習慣
5 生活習慣(喫煙・アルコール)
6 運動
■腸内細菌への影響が大きい薬剤ランキング
1 消化器疾患治療薬
2 糖尿病治療薬
3 抗菌薬(抗生剤、抗生物質)
4 抗血栓薬
5 循環器疾患薬
6 脳神経疾患薬
7 抗がん剤
8 筋骨格系疾患薬
9 泌尿器・生殖器疾患薬
10 その他(呼吸器系疾患薬や漢方薬)
| https://www.gastrojournal.org/cms/10.1053/j.gastro.2022.06.070/asset/ce73b702-95f1-4ebc-a3dc-4173f5181ba4/main.assets/gr1_lrg.jpg |
胃酸分泌抑制薬のプロトンポンプ阻害薬(PPI)と、消化管からの糖の吸収を遅らせる糖尿病治療薬のα-グルコシダーゼ阻害薬(α-GI)を併用すると、単剤使用した場合よりも腸内細菌の多様性が低下していました。
なお、服用を止めると、腸内細菌は元に戻ることも報告されていました。
プロトンポンプ阻害薬は市販薬もあります(α-グルコシダーゼ阻害薬は処方薬のみ)。「胃の調子が悪いな」と漫然と飲み続けたら、腸内細菌のバランスが悪くなるリスクが高まるかもしれません。Your gut microbiome is what type of medicine you take.ということになりそうです。
■主な参考資料
集団レベルのメタゲノミクスにより、複数の薬剤がヒト腸内細菌叢に及ぼす異なる影響が明らかに
薬剤が及ぼす腸内細菌叢への多大な影響
学内シンポジウム「口腔・腸内マイクロバイオーム探索からオミックス未来医療の創生」レポート
健康や疾患に大きく関与する 腸内細菌叢を変容させる因子
Leave a Comment