鼻の穴はなぜ2つあるのか

 私たち人間の鼻の穴(鼻孔)は、2つあります。
 ただ、空気を吸い込んだり、においをかいだりするのであれば、穴は1つでもかまわない気がしませんか。



 鼻の穴はなぜ2つあるのか。

 非常に気になりました。
 検索すると、目次に「鼻の孔はどうして二つある?」の項目がある本を見つけたので、読んでみました。

 鼻の孔は、どうして二つあるのでしょう?
 また、多くの人は、左右の鼻の孔から空気を同時に吸い込んで呼吸していると思っているのではないでしょうか。
 ところが、実際には、鼻は交互に孔を使って呼吸しているのです。
 体がそれほど酸素を必要としていないときは、片方の鼻甲介(鼻の中にある粘膜に覆われたヒダ)を膨張(充血)させて空気の通り道を塞ぎます。
〈中略〉
 ガスのニオイでさえも臭くなくなるのです。ガス中毒は、この嗅覚が鈍ったことで起こります。

 おい、コラ!!! 
 「鼻の孔は、どうして二つあるのでしょう?」で始まっているにもかかわらず、その答えがありません。2つある鼻の穴は、どのように働いているのかという説明になっています。
 なお、こんな記述なので、出典の書籍名は控えます。

 おいおいと嘆きながら、進化という方向性で、自分で調べることにしたのでした。

 鼻については、私たち人間にとっては、「呼吸のための空気の出入り口として重要」というイメージがあります。鼻が詰まったら息苦しいし、夜中にそのために目を覚ますこともあります。

 ただ、生物の歴史で見れば、感覚器として、鼻は重要な存在でした。

 視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚という五感については、ミミズなど数多くの生物であるのかどうかの研究が進められてきたようです。
 ちなみに、単細胞生物である細菌にも、においを感知する“鼻のような存在”があるという報告がされていました。

 今回の発見の結果、細菌は五感のうち少なくとも4つの感覚を使っていることになる。細菌は、におい(嗅覚)のほかに、光(視覚)、同じ種の他の個体との物理的接触(触覚)、化学物質との直接的接触(味覚)に反応するからだ。

 また、鼻がない植物も、においをかいでいるという報告もありました。
植物においては、動物がもつ嗅覚受容体とは異なり、転写制御因子が匂い物質を感知する「匂い受容体」として機能している可能性を初めて示唆します。

 あくまでも印象ですが、地球上の生物のほとんどが、においという情報を受け取る器官を持っているのではないでしょうか。
 においによって有害な物質を把握したり、エサを探したりしたはずです。

 光合成で自分で栄養を作り出せる植物とは違って、動物は外部から栄養を取り込まなければなりません。ほかの生物をエサにして栄養を取り込む、つまり食べるために、動物には口があります。
 また、エサが自ら口の中に入ってくるという機会は、めったにありません。エサを得るために、動物は自分から動く必要性があったわけです。動けない動物は消滅したのでしょう。

 動物には、旧口動物と新口動物があります。

○新口動物(後口動物):原口が肛門となる脊椎動物・原索動物・棘皮動物など
新口動物で棘皮動物のウニの発生(お茶の水女子大学 ウニを調べるより)

○旧口動物(前口動物):発生の過程において、原口が口となる節足動物・軟体動物・環形動物など

 海中で誕生した生物の進化の歴史で、6億7000万年前(6億年前とも)に、新口動物と旧口動物が分かれました。
私たちは18のタンパク質コード遺伝子座を解析し、前口動物(節足動物、環形動物、軟体動物)が後口動物(棘皮動物および脊索動物)から約6億7000万年前に分岐し、脊索動物が棘皮動物から約6億年前に分岐したと推定しました。

 口のでき方はさておき、エサを取り込む口があるほうを前にして、動物は海中を進んでいきました。単純な話、口を後ろにすると、エサが入ってこないからです。
 
 前に進むほうに口があり、その周辺には五感に関係する感覚器が揃ってきました。
 エサを見つけて食べる、エサに触れて食べる、エサの立てる音を聞き分けて食べる、エサをかぎ分けて食べる、エサを口に入れて味が悪ければぺっと吐き出す……
 このように、口の周りに感覚器が集まっているほうが効率がいいのでしょう。

 鼻については、脊椎動物の祖先とされる頭索動物(無脊椎動物)であるナメクジウオにはありません。多数の細かい外触手で海の底のエサを探して、体の前の下側にある口で吸い込みます。目・耳・鼻はありませんが、光やにおい物質などを感知はしているとのこと。
ナメクジウオ(Wikipediaより)



 現生の脊椎動物のうち最初に、5億年前に分岐した円口類(あごを持たないため無顎類とも呼ばれる)のヤツメウナギは、目が2つで鼻の穴が1つです。口が吸盤のような構造をしていて、鋭い歯がたくさんあります。大きな魚に吸いついて、歯で皮膚をえぐり、体液を吸い取っています。
 口のすぐ後ろに、目のように見える8つのエラがあり、ここで呼吸をしています。
 脊椎動物の祖先は、どうやら口でほかの生物にくっついて、目は2つ、鼻の穴が1つで、口がふさがれているために主にエラで呼吸していたようです。
ヤツメウナギ(写真/Fernando Losada Rodríguez

豊田ホタルの里ミュージアムXポストより




 なお、デボン紀に生きていた無顎類のガレアスピスについては、鼻の穴が1つと表記されているものと、2つと表記されているものがありました。

■科学研究費助成費用

■ヌタウナギの頭部の発生と脊椎動物の進化



 あごを持つ顎口(がっこう)類は、円口類と共通する祖先から4億5000万年に分岐しました。
 あごについては、エラを支えていた骨格(鰓弓:さいきゅう)の一部だったと考えられています。上下に動くあごのおかげで、エサをかむことができるようになりました。初期の顎口類は歯が発達していなくて、あごの骨でかんでいたようです。

 鼻の穴については、顎口類だと2つ。
 顎口類の軟骨魚類(サメ・エイなど)と硬骨魚類は、口がふさがれている時間が非常に短く、呼吸では主に口から水を取り込んでエラで酸素交換を行います。
 当然のことながら、鼻は呼吸とは関係ありません。においをかぐための器官です。
 顎口類には左右に2つずつ、合計4つの鼻の穴があります。前の穴(入水孔)から後ろの穴(出水孔)に抜ける水から、嗅嚢(きゅうのう)にある嗅覚と関係する細胞(嗅細胞)が化学物質を取り込んで、においを感じているのです。
 左右に穴がある理由として、「右鼻と左鼻に嗅ぎこまれた匂いの濃さを比較して、左右どちらの方向に匂い源があるかを検出する」機能が脳にはあるからだと推測できます。

今回見つかった「においの方向」を感知する神経回路の繋がり方は、聴覚での「音の方向」を感知する神経回路とよく似ていました。耳と鼻は異なった感覚器ですが、脳は同じような情報処理ロジックをつかって、左右2つの感覚器からの音情報や匂い情報を比較し、音源や匂い源の位置情報を得ています。

 ここまできてやっと「鼻の穴はなぜ2つあるのか」の答えが出ました。動物の歴史で、においを感じ取るための鼻の穴が左右にあるものが進化したのが、私たち人間だからです。動き回ってエサを取る場合、エサがどこにあるのかをにおいの方向性から知るために、左右に1つずつ、つまり2つあるほうが都合がよかったわけです。

 余談になりますが、脊椎動物については、海中から淡水、陸上へと進出します。
 ほとんどの魚類は口と鼻の穴はつながっていないのですが、淡水魚のハイギョ(肺魚)は体の外側に開いている鼻の穴(外鼻孔)は2つで、穴の先(内鼻孔)は口につながっています。そして、鼻の穴から空気を取り込んで肺に送り込む肺呼吸とエラ呼吸を行っています。
 陸上に進出した両生類は、肺呼吸のほか、皮膚の粘膜で酸素を溶かして吸収する皮膚呼吸も行っています。

脊椎動物の鼻(コトバンクより)

 哺乳類については、種によって嗅覚が大きく異なります。AIが嗅覚をランキングでまとめました。

嗅覚が優れた動物ランキング(嗅覚受容体遺伝子数による)
アフリカゾウ: 約2000個以上
ラット/ネズミ: 約1200個
ウシ: 1000個以上
イヌ: 約800個(ブラッドハウンドなどでは嗅細胞が3億個以上)
ヒト: 約400個
 クマは、ゾウと変わらないレベルで嗅覚が優れているのだそうです。

 陸上生活から海へと戻った哺乳類のクジラの場合、嗅覚がほぼ失われています。鼻の穴(外鼻孔)はイルカなどのハクジラだと1つ、シロナガスクジラなどのハクジラでは2つで、空気を取り入れやすいように頭頂部に移動し、噴気孔と呼ばれています。噴気孔は「気」、つまり空気を出し入れしているのであって、海水を噴き出しているわけではありません。

鯨の呼吸即ち潮吹きは水を噴き出すのであると多くの古い本には述べてあるが,これは誤りである。潮吹きは水蒸気を含んだ呼気であつて,体外の体温よ り冷たい空気に触れて水蒸気が凝縮 して 目に見えるようになるのである。 したがつて高緯度の寒帯では低緯度の熱帯よりもまた大型鯨では小型鯨 よりも明瞭である。



 嗅覚は退化した代わりに、聴覚が発達しています。 ハクジラについては超音波を使って距離を把握していて、自分の出した超音波のはね返りを捉える反響定位(エコロケーション)を使います。同じ水中で暮らす魚類には、エコロケーションの能力はありません。


■主な参考資料
『「顔」の進化』著/馬場悠男  講談社

『面白くて眠れなくなる人体』著/坂井建雄 PHP研究所
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