腸内細菌などの集まりはマイクロバイオータなのか、マイクロバイオームなのか、それが問題だ
腸内細菌(腸内細菌叢、腸内フローラ)に関する最近の記事に用いられている言葉が、マイクロバイオータとマイクロバイオーム。
印象としては、マイクロバイオームのほうをよく見かけます。
「腸内バイローム」は腸内マイクロバイオーム(微生物叢=びせいぶつそう)の重要な一部だ。腸内マイクロバイオームは微生物の巨大な集団で、消化や免疫、健康全般に重要な役割を果たしている。
ヒトと共存する微生物の集団全体を表す「マイクロバイオーム」という言葉は、皮膚や腸との関連で耳にすることが多い。
私たちの身体には、腸内や皮膚などあちこちに多数の微生物がいて、いま注目が集まっています。その種類は銀河の星の数ほど多いとみられ、共生する微生物全体は「マイクロバイオータ(微生物叢〈そう〉)」と呼ばれます。
じつは近年の研究から、この高血圧の発症にも、腸内マイクロバイオータ(編集部注/腸内に生息する微生物の集合体)が関与している可能性が示されました。
上記の記事からわかるように、マイクロバイオータもマイクロバイオームも「微生物の集まり」という意味で使われています。
2つに共通するマイクロは、ギリシャ語で「小さい」という意味の μικρός (ミクロス/mikros)が由来。そしてバイオは、古代ギリシャ語で「生命」や「人生」を意味する「βίος(ビオス / bios)」が由来。
異なっている接尾語のオーム(-ome)」は、ギリシャ語の「すべて・完全・総体」が由来。例として、ゲノム(genome)は、遺伝子(gene)の全情報です。
また、バイオーム(biome)は、「生物群系(せいぶつぐんけい)」と訳され、熱帯雨林や砂漠、ツンドラなど生態系の植物と動物を指しています。1916年に、アメリカの植物生態学者であるフレデリック・クレメンツがバイオームという言葉を使い始め、1939 年にはアメリカの動物生態学者のヴィクター・シェルフォードとともに『バイオエコロジー』を出版します。バイオームという主要な生態学概念を確立しました。シェルフォードは「アメリカ動物生態学の父」と呼ばれています。
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| バイオーム(生物基礎 数研出版より) |
ちなみに、ウイルスの集まりはバイローム(virome)で、「ウイルス叢」と訳されています。
一方、接尾語のオータ(-ota)については、情報はヒットしていません。生物相と訳される英語のbiotaの語源は、古代ギリシャ語のβιοταとのこと。
一定の場所、あるいは同一の環境にすむ動物、植物、および微生物の全種類をさしていう。生物相には、種類相互の関係や環境との関係といった意義は含まれず、場所あるいは環境の範囲は任意に設定できる。たとえば、日本の生物相、琵琶湖(びわこ)生物相は場所を単位としたもので、針葉樹林の生物相、土壌生物相は環境を主眼に置いたものである。また生物相には、一般に生物の個体数や優占度といった量的評価も含まれていない。生物群集や生態系にかかわる生態学にとっては、生物相調査は重要である。しかし、主として分類学上の困難さから、小地域についてさえも全生物相を明らかにするのはきわめてむずかしい。生物相は、普通、ファウナ(動物相)、フロラ(植物相)、ミクロビオタ(微生物相)に分けることができる。生物相の違いは、気候などの非生物的要因、植生などの生物的要因、地史的・地理的要因などによって生じる。[谷田一三]
2020年に発表された「マイクロバイオームの定義の再考:古い概念と新たな課題」という論文では、次の図でわかりやすくマイクロバイオータとマイクロバイオームが説明されています。
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| 「マイクロバイオームの定義の再考:古い概念と新たな課題」より、一部改変 |
この図によれば、マイクロバイオータは、とても小さな生き物たち。つまりは微生物で、細菌や古細菌だけでなく、菌類や藻類、ゾウリムシやアメーバといった原生動物も含まれています。
マイクロバイオームには、小さな生き物だけでなく、生き物が作り出した物質やウイルスなどの無生物も広く含まれています。
そして、人間も含めた動物の体に関してだけでなく、「田んぼのマイクロバイオータ(あるいはマイクロバイオーム)」という具合に、水中や土壌といったさまざまな場面でマイクロバイオータもマイクロバイオームも用いられています。
ここで腸内細菌という言葉に戻ると、一般的に細菌だけでなく古細菌も含む「腸内にすんでいる小さな生き物たち」を指してきました。
そう考えると、腸内細菌はマイクロバイオータ。そして、腸内細菌が作り出したビタミンなども広く含む言葉が、マイクロバイオームということになりそうです。
腸内細菌学会のサイトでは、次のように記述されています。
Microbiotaとmicrobiomeの 違いは曖昧な部分もあるが、あえて説明するとすれば、microbiota は細菌、微生物の集団を意味し、「細菌叢、微生物叢」に近い。Microbiomeは一定の区域に生息する細菌叢、微生物叢全体を意味しそこに含まれる遺伝子物質を含めた概念と言える。
そして腸内細菌の乱れは、ディスバイオーシス(dysbiosis)という言葉が使われています。dys- という接頭辞は、ギリシャ語由来で、「困難な」「悪い」「異常な」「機能不全の」。biosは上述。-osis という接尾辞)は、病的な状態、または異常な状態を示します。
また、腸内細菌との共生は、シンバイオーシス(Symbiosis)で、syn には「共に」という意味です。
最後に、人間の胃腸にすんでいる小さな生き物たち(マイクロバイオータ)で、主なものをまとめておきます。
細菌
バチロータ(Bacillota)門 〈Firmicutes(ファーミキューテス)門〉
ラクトバチルス属 →いわゆる乳酸菌
ガセリ →各社でさまざまな株を見つけては商品開発が行われている
ラムノーサス
プレビス
カゼイ
ストレプトコッカス属 →乳酸菌、レンサ(連鎖)球菌
サリバリウス
ミティス
インファンティス
クロストリジウム属 →いわゆる酪酸菌
ディフィシル
プチリカム
クロストリジウム・パーフリンジェンス →ウェルシュ菌
ユーバクテリウム属 →酪酸菌
レクターレ
フィーカリバクテリウム属 →酪酸菌
プラウスニッティ
ルミノコッカス属 →酪酸菌
グナバス
ブラウティア属
オベウム
コッコイデス
スタフィロコッカス属
スタフィロコッカス・アウレウス →黄色ブドウ球菌
ベイロネラ属
バクテロイドータ(Bacteroidota)門 〈Bacteroidetes(バクテロイデーテス)門〉
バクテロイデス属
フラジリス
ボルフィロモナス属
ジンジバリス
プレボテラ属
メラニノゲニカ
シュードモナドータ(Pseudomonadota)門〈Proteobacteria(プロテオバクテリア)門〉
ナイセリア属
フラベセンス
エシェリヒア属
コリ →いわゆる大腸菌
シュードモナス属
エルギノーザ
ヘリコバクター属
ヘイコバクター・ピロリ →ピロリ菌
アクチノマイセトータ(Actinomycetota)門〈Actinobacteria(アクチノバクテリア)門〉
ビフィドバクテリウム属 →いわゆるビフィズス菌
ロンガム
アドレセンティス
アニマリス
コリンセラ属
アエロファシエンス
プロピオニバクテリウム属
アクネス
コリネバクテリウム属
フソバクテリオータ(Fusobacteriota)門
フソバクテリウム属
ヌクレアタム
バリウム
レプトトリキア属
ブッカリス
ウェルコミクロビオータ門(Verrucomicrobiota)
アッカーマンシア属
ムシニフィラ
古細菌
ユリアーキオータ(Euryarchaeota)門
メタノブレウィバクテル属 →いわゆるメタン生成菌
スミティー
■主な参考資料
『「腸と脳」の科学』 著/坪井貴司 講談社
人間と細菌の共生関係「マイクロバイオーム」
ヒトに共生する微生物群のほとんどは細菌類だが、カビ類やウイルスまでまとめてマイクロバイオータ*3と呼ばれている。私たちは普段意識していないが、消化器系、皮膚や膣などの臓器に固有のマイクロバイオータが存在して共生生活をしている。このようなマイクロバイオータとヒトとの相互関係をまとめた広い概念を、マイクロバイオームと呼ぶ。*3 マイクロバイオータは日本語で細菌叢(フローラ)といわれてきた。叢は微生物が植物相に分類されていた名残りで、現在では微生物相に入るので、間違いとする研究者もいるが、今も使われている場合もある。この腸内細菌に含まれる細菌類は、悪玉菌が約10%、健康維持に関わる善玉菌が約20%、どちらにも属さない日和見菌が約70%存在しているといわれている*6。これらの分類は東京大学・光岡知足が便宜的に提唱したもので、「善と思えるものの中にも悪の要素があり、悪の中にも善の要素がある。たとえば、悪玉菌である大腸菌にもビタミンを合成したり、感染症を防御したりする働きがある。この面から見れば、一概に悪玉と呼ぶことはできない」と光岡自身が説明している。
ビクター・アーネスト・シェルフォード
マイクロバイオームの定義の再考:古い概念と新たな課題
腸内に生息する無数の微生物。腸内細菌は、いかにしてヒトと「共生」しているのか
バイオームを構成するものは何ですか?
マイクロバイオームとは?


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