どうして月経痛が起こるのだろうか ~東洋医学の養生と漢方薬 その2

 東洋医学では、月経痛などの月経トラブルを子宮や卵巣だけの問題とはとらえません。全身の不調、中でも腎・肝・脾が、影響を与えていると考えられているのです。



詳細は どうして月経痛が起こるのだろうか ~東洋医学の養生と漢方薬 その1(東洋医学の考え方) を参照


腎と月経との関係

 東洋医学での気血水は、生命を維持するために体を循環するものと考えられています。



 その中の気(陽)は、運動性が高く、目には見えません。その気と同じ役割を果たす物質的なもの(陽ではなく陰)、気の結晶のようなものは、精と呼ばれています。
 精は五臓の中の腎に蓄えらえています。そして、腎精や腎陰、真陰とも呼ばれています。

 腎に蓄えられている精は、成長や生殖機能の成熟などと大きく関係しています。生まれつきの精(先天の気)が足りなければ、歯の生え変わりなども遅く、女性は月経不順にもなりやすいといえます。

 しかし、精は食事などからも生み出されるので(後天の気)、初潮の頃に月経痛などのトラブルがあったとしても、大人になってから軽くなることもあります。
 ですから、どんな食事を取り、どんな生活を送っているのかが重要なのです。

 腎の気が不足する腎陽虚では、体が冷えて、月経が長期間ダラダラと続く傾向があります。

肝と月経との関係

 肝には血を貯蔵する働きと、全身の血を調節する働きがあります。
 肝の血が足りない状態だと、子宮に栄養が行き渡らず、月経不順が起こりやすくなります。


 強いストレスを受け続けると、気と血を巡らせる働き(疏泄 そせつ)が鈍り、「肝気鬱結(かんきうっけつ)」になります。
 気が滞る気滞ではイライラが強く、血が滞る瘀血(おけつ)があると月経痛や月経痛が現れやすくなります。

脾と月経との関係

 脾は、食べ物や飲み物を消化吸収して気血水のもと(水穀の精微)を生み出しています。
 気には、血や水を体の中に保つ固摂作用もあります。
 そのため、脾に異常があると「脾不統血」といって血を保持する力が低下した状態になり、皮下出血、鼻血など、さまざまな形で出血が見られるようになります。女性の場合は不正出血や過多月経が、脾不統血で引き起こされやすくなります。


 また、脾が弱って消化吸収がうまくいかなくなると、水が滞って痰湿(たんしつ)という老廃物がたまります。東洋医学の専門家は「ベタベタとしたスライムのようなもの」と表現していました。
 痰湿があると体が重く感じられ、月経時のだるさがひどくなります。

症状は同じでも、治療は人それぞれで異なる


 このように、東洋医学で月経痛などの月経トラブルは、腎・肝・脾の状態が悪いと考えられています。ですから、月経痛などを訴えている人のどこに問題点があるのかをとらえ、養生や漢方薬が勧められるのです。

 大事なのは、問題点が人それぞれで異なるということ。
 例えば、AさんもBさんも月経痛・過多月経を訴えていたとしても、Aさんは肝、Bさんは脾に問題があるのかもしれません。ですから、Aさんに効果的だった治療法が、Bさんにはまったく効かない可能性が高いといえます。
 また、のぼせやほてりを感じやすい人と手足が冷える人とでは、東洋医学での対処は異なります。

腎陽虚

 体が冷えていて、温めるとすぐに楽になる月経痛は、腎陽虚の可能性が高いといえます。

 黒豆や黒ゴマ、黒キクラゲなど黒い色の食べ物と、適度にしょっぱい食べ物が推奨されています。
 また、腹巻きやレッグウォーマーなどを用いて、体を温めるように心がけましょう。

気滞

 とにかくイライラがひどくて、乳房やおなかが張るように痛み、おならやゲップがよく出る場合は、気滞と考えられます。

 かんきつ類などの酸っぱい食べ物や、ネギや大葉など香味野菜が推奨されています。

瘀血

 下腹部がチクチクと痛くなって、経血に血の塊が出る場合は、瘀血の可能性があります。
 体のあちこち(下腹部や肩など)に、細い赤ミミズのような血管がモヤモヤと見える場合は、瘀血があるとされています。

 とにかく体を温め、適度に運動して血行をよくし、ニンニクやニラ、タマネギといったヒガンバナ科ネギ属の野菜が推奨されています。


痰湿

月経中に下腹部が重く感じられ、雨だと悪化するのならば、痰湿が疑われます。また、めまいや立ちくらみが起こりやすいのも、このタイプです。

 ハト麦や根菜類など、水分代謝を促す食べ物が推奨されています。そして、気持ちよく汗をかけるような運動を取り入れるといいでしょう。

月経痛など月経トラブルに使用される漢方薬(すべて保険適応)

 「漢方薬は体に優しい」というのは誤解です。詳しくは 穏やかで副作用がない」は大誤解! 漢方薬の長期ダラダラ服用に要注意 を参照してください。
 できれば漢方に詳しい医師の診察を受けてから、漢方薬を処方してもらうほうのがいいでしょう。

◇実証 比較的体力がある

桃核承気湯 (とうかくじょうきとう) のぼせて便秘しがち
桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん) 頭はのぼせて足が冷える

◇中間証

芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう) 痛みが強い

◇虚証 比較的体力がない

当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん) 冷え症で貧血
温経湯(うんけいとう) 手足がほてり、唇が乾燥
加味逍遥散(かみしょうようさん) のぼせがあり、精神不安やイライラがひどい
補中益気湯(ほちゅうえっきとう) 過多月経
芎帰膠艾湯(きゅうききょうがいとう) 過多月経




〇参考資料
『図説 東洋医学』


『心がバテない食薬習慣』




文/森 真希(もり・まき)
医療・教育ジャーナリスト。大学卒業後、出版社に21年間勤務し、月刊誌編集者として医療・健康・教育の分野で多岐にわたって取材を行う。2015年に独立し、同テーマで執筆活動と情報発信を続けている。

波打つように変化する女性の体のトリセツ『女性の体の知恵』と『女の子のからだの知恵』は、電子書籍で読めます。



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