「馬車」が語源のコーチングには、どんな特徴があるのだろうか?  その2 少年野球でコーチングを考えてみた

  「コーチ」「コーチング」と耳にすると、スポーツの世界をすぐに思い浮かべてしまいます。しかし、現在では子育ての本のタイトルに「コーチング」と入っていることが珍しくありません。

 わかるような、わからないようなコーチについて、調べてみました。なお、類似語の「カウンセラー」「コンサルタント」「アドバイザー」については、セラピストと、カウンセラー・コンサルタント・アドバイザーの違いとは? で整理しています。


 辞書で調べたところ、コーチには以下の意味がありました。

●coach 他動詞 指導する、合格させる

 なお、coachは名詞でもあり、四輪大型馬車、客車、バス、指導員、コーチという意味もあります。


 「指導する」には、「相手への強制力が高い」「やらせる」といった語感がありますが、コーチングの本を読んだ限りではそんな印象はありません。
 どちらかというと、相手に気づかせることをコーチングでは重視しています。コーチする側が「こうしろ!」「やれ!」というのは、当てはまりません。

 加えて、コーチングでは、コーチが「こんな人になってほしい」と相手を指導するわけではありません。コーチを受ける相手(クライアント)が、「自分はこんな人になりたい」という目標を達成させるために、どうしたらいいのかを相手に気づかせるわけです。

 例えば、少年野球のコーチが「そんな球も取れないのか!」と子どもを怒鳴るのは、コーチングではありません。子どもに「悔しそうだね? さっきの球を取りたかった? どう動けばよかったと思う?」などと声をかけて、子ども自身に課題を気づかせることがコーチングです。

 目標を設定するのはコーチではなく相手。主導権は相手にあるわけです。


 コーチングは現在進行形。つまり、「今」の相手の姿に注目します。過去でも未来でもなく、今。そして、適切な質問を重ね、褒めるなどして、相手の行動を支援します。

 また、コーチングでは、相手に自分自身を客観視させることを重視しています。主観でしか物事をとらえられない状況だと、イヤイヤと大騒ぎしている子どものように、自分が直面していることに気づけません。

 「客観視させる」のは、口で言うのは簡単ですが、行動するのは難しいもの。まずコーチの立ち位置は、相手の横。つまりは同じ目線で、同じ風景を眺めるようです。「コーチは相手と目線を合わせて、向き合って」と思いがちですが、違います。 

 コーチは相手と同じ目線で、今の課題を整理して明確化します。そして、相手の変化を観察しながら、気づいたことを指摘します。
 すると、相手は成長を実感できるのです。結果として「自己効力感」が高まるとのこと。

 自己効力感とは、自分がある状況において必要な行動をうまく遂行できると、自分の可能性を認知していること。「自分は、やれば、できる」という気持ちを指しています。

 ちなみに、自己肯定感は、自分の存在を積極的に評価できる感情、自らの価値や存在意義を肯定できる感情。自己効力感と自己肯定感とは別のもので、自己効力感のベースに自己肯定感があるのではないでしょうか。


 コーチが相手を把握するときに、次の3つの視点、PBPが大切のようです。

Possesion スキルなど身に着けるもの
Behavior 行動
Presence 信念など人としてのあり方

 相手にスキルもないのに行動を促すのは、無免許の人に車を運転させるようなもの。危険ですよね。コーチは、相手を分析することも重要です。

 そしてコーチングの3原則は、次のとおり。

双方向  一方通行での話かけでは、個性も変化も把握できないため、対話である必要がある
継続性  人間は刻一刻と変化するので、点ではなく線で相手の様子を観察する必要がある
個別対応  人間は一人ひとり違うので、相手に合わせてどんな言葉をかければいいのかを考える必要がある

 冒頭で、コーチングで目指すのは、コーチではなくコーチする相手の目標の達成だと紹介しました。目標には次の3つがあります。

憧れの目標 hope to
しなければならない目標 have to
真に達成したい目標 want to

 3つを区別しなければならないのは、憧れを過剰に追い求めると今の自分とのギャップに苦しむことになるし、義務としてやるべきことととらえていたらやる気が出にくいからでしょう。


 コーチングでは、他者の行動・変化・成長を目標に設定しません。

 少年野球では、コーチは「子どもがきちんと球を捕れるようにすること」ではなく、「捕球のやり方を具体的に教えること」が目標になるでしょう。子どもがエラーしたときに、「なんできちんと捕れないんだ」ではなく、「自分の教え方で抜けていたところはないのか」と考えるのがコーチングです。責任をすり替えないように、注意したほうがよさそうですね。

 「褒める」という点では、おそらく、少年野球のコーチは次のように語ると思うのです。
 「今の時代、『褒めて伸ばせ』っていうのはわかっているんだけど、つい怒鳴っちゃうんだよね」

 わかっちゃいるが、やめられない。

 知識と行動の間に、大きな溝がありそうです。コーチングを受ける必要があるのは、子どもたちではなく少年野球のコーチのほうかもしれません。


■参考資料

 
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