疾病利得について考える  『パーソナリティ障害 正しい知識と治し方』『発達障害とはなにか』

 政治家にはパーソナリティ障害の人が多いといわれています。
 そう指摘している一人は、精神科の片田珠美医師。ドナルド・トランプ 元アメリカ大統領を自己愛性パーソナリティ障害ではないかと推測しています。特徴として挙げられているのは、以下の6つ。

1)他人の反応に気づかない
2)傲慢で攻撃的
3)自己陶酔
4)注目の的でいたい
5)“送信器”はあるが、“受信器”がない
6)他人の気持ちを傷つけることに鈍感

 また、『危険人物をリーダーに選ばないためにできること』の著者であるビル・エディ氏は、周囲の対立を煽る「対立屋」を、政治家などリーダーに選ばないように注意しようと呼びかけています。対立屋の多くが、パーソナリティ障害の特性をある程度備えていて、以下の特徴があるのだそうです。

1 標的とした相手を執拗に非難する 
2 何にでも白黒をつけずにいられない 
3 攻撃的な感情を抑制できない 
4 極端に否定的な態度を取る 

 和田秀樹医師の著書『世界一騙されやすい日本人 演技性パーソナリティ時代の到来』(ブックマン社)でも、著名な政治家がパーソナリティ障害である可能性が指摘されています。
 こうしたこともあって、パーソナリティ障害は、一般的に、あまりいいイメージを持たれないものです。
 パーソナリティ障害の「パーソナリティ」の語源は、ラテン語の「ペルソナ(persona)」で、仮面という意味があります。

 パーソナリティとは、文化や社会、人間関係などの影響を受けて形作られるものの見方や振る舞い方などで、日本語では「人格」と訳されています。

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 精神科の岡田尊司医師は、『ササッとわかるパーソナリティ障害』(講談社)で以下のように説明しています。

 パーソナリティ障害(人格障害)とは、一言で言えば、「性格の著しい偏りのために、自分自身だけでなく、周囲も苦しむ状態」で、生活に、重大な支障が生じるほど程度が強いものを言います。少しくらい、その傾向があっても、支障なく生活ができている限りは、「パーソナリティ・スタイル」で、障害ではありません。偏り方は、さまざまで、大きく十タイプに分かれます。どのタイプも、極端な偏りのために、うまく周囲に適応できなかったり、苦しさを抱えたりするという点では、同じです。
 たとえば、自信やプライドをもつことは大切ですが、それが行きすぎると、「自己愛性パーソナリティ障害」となります。逆に、自信不足から、人に頼る傾向が強まると、「依存性パーソナリティ障害」になりますし、自信不足が露呈しないように、プレッシャーがかかる状況を避けるようになると、「回避性パーソナリティ障害」へと発展します。過剰も不足も、生きづらさを生むのです。

精神科の市橋秀夫医師が監守した『パーソナリティ障害 正しい知識と治し方』(講談社)では、パーソナリティ障害について、以下の3つのタイプに分けて説明していました。

○Aタイプ:風変わりな人

妄想性パーソナリティ障害 ……疑り深く、被害者意識が強い
シゾイドパーソナリティ障害……孤独を愛するように見えるが、他人と交流できないことに苦痛を感じている場合がある
統合失調型パーソナリティ障害 ……感情の幅が狭く、奇妙な思い込みを持つ
※シゾイドパーソナリティ障害は「スキゾイドパーソナリティ障害」とも呼ばれる


○Bタイプ:激しい人

演技性パーソナリティ障害 ……注目を集めたがって大げさな話し方をし、ウソをつくこともある
反社会性パーソナリティ障害 ……無責任・無計画で、人をだますことに抵抗がない
境界性パーソナリティ障害 ……不安的で極端な人間関係になる
自己愛性パーソナリティ障害……他人からの評価に強くこだわり、「すごい自分」しか認められない
※反社会性パーソナリティ障害は「サイコパス」とも呼ばれる

○Cタイプ:不安な人

回避性パーソナリティ障害 ……批判を恐れ、失敗して非難されるリスクを避けるために引っ込み思案になる
依存性パーソナリティ障害 ……何事にも受け身で、自分で判断できない
強迫性パーソナリティ障害 ……合理性のないルールにこだわり、自分にも他人にも厳しい

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パーソナリティ障害と発達障害については、専門家にもさまざまな意見があり、誤診も多いと指摘されています。

思春期・青年期以降に診断がつく境界性パーソナリティ障害と、生来の発達障害との区分がつきにくい現状が指摘されている(岡田, 2006)。特に自閉症スペクトラムの特性が薄い群であるアスペルガー症候群と、境界性パーソナリティ障害との関係が臨床上問題になるとの指摘があり(片山, 2012)、受診時の横断的な状態や症状を観察すると非常に共通し、診断が難しい事例 が 報 告 さ れ て い る(常 包 ら, 2008;和 ・青 木,2009)。境界性パーソナリティ障害の事例の児童期を聞き取ると発達障害が推測される中で、発達障害がパーソナリティ障害へ移行したと考察されたり(岡田, 2006)、発達障害のクライエントが境界性パーソナリティ障害と「見立てられ」て治療が難渋したとの報告もあり(和辻・青木, 2009)、その混乱ぶりが窺える。

岡田医師は、以下のように述べています。

 パーソナリティ障害は、検査をすれば、診断がつくものではありません。その人の通常の行動や認知のパターンが、診断基準に該当するかで判定します。

 精神科の医師も、患者の行動を24時間観察しているわけではありません。診察室での様子を見て、問診をして、精神障害の診断と統計マニュアルにのっとり、診断するのです。当然、医師によって診断にばらつきが出てきます。


 ところで、「私、発達障害なんだって」と言いたい「自称発達障害」の人が増えていると、精神科医が述べています。

 小児精神科の古荘純一医師は著書『発達障害とはなにか』(朝日新聞出版)で、「大人になって自分は発達障害だと主張する」24歳女性のヤヨイさんの事例を紹介していました。古荘医師はヤヨイさんを発達障害とは診断しなかったため、ヤヨイさんは別の医師を受診し、発達障害という診断を得たとのこと。
 ヤヨイさんはネットで発達障害当事者として活発に情報発信を行い、いろいろな相談にも乗っているようなので、「混乱を深めることにならなければよいのだが」と古荘医師は懸念を示していました。

 個人的な意見ですが、「発達障害は生来のことだから仕方がない」「周りが配慮すべき」という本人の居直りにも似た気持ちが、自称発達障害につながっているのではないでしょうか。
 「発達障害=生きづらさを抱えた"被害者"」という主張が感じられなくもありません。

 周りの人に合わせられないのも「仕方がない」、片付けられないのも「仕方がない」、生きづらいんだから「周りが配慮すべき」、だって発達障害なんだもん……

 整理しましょう。
○「できない」「やりたくない」状況を、自分の努力ではなく発達障害のせいであると、自分も周りも納得する物語が作れる
○「発達障害で、周りとは違っている私」というアイデンティティを持てる
○発達障害がプロフィールに加わることで注目を集め、同情も得られる

 これは「疾病利得」の一種と考えられるかもしれません。

 さらに、発達障害を自称することで、「自分が思う発達障害のイメージどおりの言動を取ってしまう」という現象も起こるようです。「有言実行」の悪いパターンともいえます。

 一方のパーソナリティ障害については、冒頭で挙げたような特徴があると考えられていて「パーソナリティ障害=周りを振り回す"加害者"」というイメージが持たれがちです。そのため、当の本人もパーソナリティ障害の合致する点が多いとわかっていても、「私はパーソナリティ障害ではなく発達障害だ」と主張したくなるのではないかと、私は考えました。

 しかし、診断が発達障害であれ、パーソナリティ障害であれ、今の社会で自分なりにどうやって生きていくのかを模索するのは本人。

 ですから、近畿大学医学部 精神神経科学教室の白川治教授の言葉に深くうなずいたのでした。

精神疾患からの回復には,その病理性がそれほど深くなければ,いかに自分と向き合うか,が求められているはずである。グレーゾーンの発達障害にも支援が必要と言われればもっともだと思う反面,パーソナリティの病理として捉え,自分と向きあうことなしには本当の意味での回復は望めないようなケースも少なくない気がしてならない。
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