「生老病死」の大きな壁 『80歳の壁』

  出版取次大手の日本出版販売は1日付で、本の年間ベストセラーランキングを発表し、80歳を超えた人を「幸齢者」と呼び「我慢をしない」生き方を提唱した精神科医和田秀樹さんの「80歳の壁」(幻冬舎)が1位となった。累計発行部数は53万部を突破した。

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 2022年に、売れに売れた『80歳の壁』(著/和田秀樹 幻冬舎)。書名の「壁」とは、「生老病死」の大きな壁とのことです。仏教用語の「四苦八苦」の四苦が生老病死で、人生100年時代にこれをどうやって乗り越えていくのかについて書いた本が『80歳の壁』です。

 人生100年時代というものの、結局のところ、人生はどうなるのかわからないという点から、この本は始まります。
 未来は誰にもわかりません。極端な話、明日はどうなるかわからないのです。
全員がやがて死んでいく、ということです。死に方や年齢はまちまちですが、これだけは避けようがありません。
 ですが、死に至るまでには、二つの道があります。
 一つは、幸せな道です。最期に「いい人生だった。ありがとう」と満足しながら死んでいける道です。
 もう一つは、不満足な道です。「ああ、あのときに」とか「なんでこんなことに」と後悔しながら死んでいく道です。
 この本には、幸せな道と不満足な道が説明されています。ざっとまとめると、次のとおりです。

幸せな道

 自分の老いを受け入れつつ、「まだこれはできる」と「あるある」を大切にする
 好きなことをして気楽に生きる
 健康診断の数値が悪くても、元気に生きることを優先する
 病気になったらなったで仕方がないと考え、そのときになったら腹をくくって最善の対処法を検討する
 体の声を素直に聞く
 奮起して脳を使い、お金を使い切ってしまう
 自分でコントロールできる範囲で、好きなことを行う(ギャンブルや連続飲酒〈朝から晩まで酒を飲む〉はNG)
 日々を楽しく過ごす
 新しいことをやって、記憶を上書きする
 増えたことに目を向け、選択肢を増やす
 家から出て、歩く
 深呼吸をする
 よくかんで食べる
 がんばらない

不満足な道

 自分の老いを嘆き、「あれができなくなった」と「ないない」を数えながら生きる
 健康診断の数値を気にして、大量に薬を飲んだり、手術を受けたりする
 病気になる前から不安を膨らませる
 我慢する
 家事などを面倒くさがる
 過去のこと・失ったことを引きずる


 まずは、病気と医療について。
 この本を書いたときは61歳の和田医師は、58歳のときに血糖値が高くなっていました。そんな和田医師が、薬などをいろいろと試して、最終的にたどり着いたのが「歩くこと」でした。
 車での移動をやめて毎日歩くようになると、血糖値が下がり始めたとのこと。「インスリンは打たない。食事やお酒も我慢しない。だから、歩くことだけはする」という選択をして、正解だと思っているそうです。
 ちなみに、血糖値だけでなく、複数の検査値が悪いようです。

 医師は病院に来た幸齢者に対し「もう年だから、放っておきましょう」とは言えません。であるならば、患者さんが選択するしかありません。
 幸齢者になれば、病気は全快しません。一時的に快方に向かっても、悪い部分は次々と現れます。厳しい言い方ですが、それが年を取るということなのです。
「ガンと闘う」には手術や抗ガン剤が必要ですが、どちらも体は大きなダメージを負います。
 そうやって、体力や機能が奪われてしまうと、免疫力や抵抗力が落ちて、ほかの病気を引き起こしやすくなります。結果的に、ほかのガンの進行を早め、体のあちこちにガンの症状を出現させることにもなりかねません。

 和田医師の造語「なってから医療」とは、高齢になってから、動脈硬化になってからというように、なってしまった後は治療のやり方を変えるという考え方のこと。
 動脈硬化になってから血圧を下げる薬を使うと、血流が悪くなり、酸素や栄養分が全身に行き渡らなくなります。脳の場合は、認知症を進行させるリスクも出てきます。

仮に、いま私にガンが見つかってもそれが痛みのもとになったり、食道などの通過障害のもとにならない限り切りません。
 ガンは一つの細胞がガン化して始まり、少しずつ大きくなっていきます。1センチ大の腫瘍になるまでに、10年くらいかかると言われています。
 転移するガンの場合は、その10年の間に、間違いなく転移しています。
 私がガンを切らないと決めているのは、こうした理由です。
80歳を過ぎて元気に生きている人は、それ自体が「健康(正常)なエビデンス」なのです。
 それなのに、医師が患者を診ずに数値を見て診断を下したらどうなるか。正常値にするように指導し、薬を出したらどうなるか。
 答えは明らかです。それまでの健康や元気が損なわれるでしょう。

 そして、心の持ち方。

 80歳を過ぎた幸齢者の場合は、生きがいに頼りすぎるのも考えものです。
 いつまでも続けられるとは限らないからです。たとえばジャズダンスを生きがいにしている人がケガをした場合、大きな喪失感を味わることになります。犬を生きがいにしている人が、イヌの死をきっかけに外出しなくなる例もあります。
 生きがいがあることは幸せなのですが、あまりに幸せだと、なくなったときの反動が大きいのです。
 そう考えると、やはり、日々を楽しく暮らす、という発想が大事なのだと思います。したいことをする、面白そうだと思うことはやってみる。
 そうやって日々気楽に一日一日を過ごしていくことが、80歳の壁の乗り越え方なのかもしれません。
 過去の悪い感情に囚われている人は、「忘れよう」という思いが強いため、かえってそこに意識が向き、どんどんつらくなってしまいます。
 こんなときの対処としては、忘れようとするのではなく「ほかのことに目を向ける」というのが正しい方法です。つまり、記憶を消そうとするのではなく、新しいことを上書きするのです。

 ちなみに、 『50歳からわけあって若返りました』『50歳の分岐点』など、和田医師は年齢シリーズを多数出しています。

 その一つである、『50歳からわけあって若返りました』(講談社)の目次は、以下のとおり。
 結論をいうと、『80歳の壁』も50歳の壁もあまり変わりないようです。『80歳の壁』は、長生きのリスクを感じている50代以降の幅広い世代にも響く内容だったために、ベストセラーになったのだと推測します。80代前後だけでは、53万部突破はなかったでしょうね。

■1章 
人は感情から「老化する」

・「元賢かった人」になっていないか?
・「物知り=賢い」ではない
・知識の「加工能力」が求められる
・「イエスマン」は50代以降、前頭葉が退化する
・お金を使わないと老化する
・お金は幸福感を味わいながら得る
・あれこれ試して「好きなもの」を見つける
・「答えが見つからない」方が面白い
・正解は「ひとつとは限らない」
・「自分が正しい」と思っている人は要注意!
・「前頭葉」の若さは、外見に反映される
・前頭葉がにぶい人は、「独自の視点」が無い

■2章 
最初から正解を求めるな。50歳からは、「脱・定番!」

・変わりばえしない単調な生活が「老け」させる
・意識的に「ヘソ曲がり」になってみる
・情報源によって変わる「正義」
・脱! 老け見えファッション
・万人に好かれようと思わない
・「企画会議」のイメージで雑談を楽しむ
・「自慢話」をするのは老化現象のひとつ
・「体験」に基づく話は面白い
・50歳からはアウトプットを心がける
・失敗して落ち込んだときは、反省しない
・二分割思考は「うつ病」をまねく
・中高年は「強い刺激」でないと笑わない
・「想定外」が、人生をいきいきとさせる

■3章 
美男・美女が一気に老け込む「更年期」こそ、逆転のチャンス

・「男性更年期」は泌尿器科で劇的改善
・「歩く、家事をする」で機能水準を維持する
・「年だから」で片付けない
・日本人男性の更年期は「精神的症状」が強め
・「ホルモン補充療法」で頭の働き改善
・何もしてない同年代と「大きな差がつく」
・「AGA治療」と「精力」を両立する
・「美容皮膚科」は女性だけのものではない
・「脳を使って」性ホルモンを増やす
・「バイアグラ」は心臓に悪い?
・思秋期から「老化型思考」が増える
・食事で「老化」を防ぐ
・「男性ホルモン」も「セロトニン」も材料は食事から

■4章 
信じてはいけない「基準値」と「健康」神話

・欧米では「健康診断・人間ドックは無効」が常識
・「正常値」神話で寿命が縮まる
・「降圧剤」を飲み続ける恐怖
・「クスリ漬け」医療の罠
・日本人男性は「小太り」がいちばん長生き
・50歳からは脱・粗食
・「がん検診」はひとつも命を救えない
・ほっとけば死ぬまで悪さをしない「前立腺がん」
・コロナは「空気感染」が医師の常識


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