宗教の複雑な世界観は、どうしてできちゃったのかな問題 その4 輪廻転生再び

紀元前1300年頃から、アーリア人は一部地域の一部のドラヴィダ人を支配し、階級制度のカースト制を作り出し、アーリア人は司祭階級のブラフミン(バラモン)と、王族・貴族のクシャトリヤ、一般市民のヴァイシャを独占し、ドラヴィタ系の民族は奴隷階級のシュードラに封じ込められたとされていた。しかし近年の研究ではアーリア人・ドラヴィダ人共に様々な階級に分かれていた事が確認された。

 ウィキペディアには、上記の記述があります。私たちの歴史認識にも近いのではないでしょうか。

 アーリア人がインド亜大陸に侵入した際に、カースト制度が生まれたという考え方です。
『新ゾロアスアー史』(著/青木 健 刀水書房)



 しかし、インド亜大陸に侵入する前に、アーリア人には神官と貴族、庶民との区別が、すでにあったようなのです。
『新ゾロアスアー史』(著/青木 健 刀水書房)


 「侵略に際し、わざわざ制度を作った」と「古くからある制度をそのまま持ち込んだ」とでは、ニュアンスが大きく異なりますよね。
 原始アーリア人社会は神官階級・軍人貴族階級・庶民階級の三階級で構成され、厳格な階級区別があった。


 こうした階級区別だけではありません。火種を維持することが家庭生活の中心だったこともあり、アーリア人にとって火は宗教的に大きな意味を持つ存在だったようです。

 日本にも伝わっていますよね、「かまどの神様」。



 アーリア人がヨーロッパやイラン、インド亜大陸に散らばっていく中で、文化にも微妙な差異が生まれたのでしょう。とはいえ、交流がなかったわけではありません。共通の文化基盤があったこともあり、アーリア人文化から発展していった文化を、相互に取り入れたようです。『新ゾロアスアー史』には、以下が紹介されていました。

〇アーリア人とギリシャ哲学

アナクシマンドロス
エウデモス
テオポンポス

ヘラクレイトス

プラトン

プロティオス

〇アーリア人とユダヤ教

第二イザヤ書とガーサー
終末論とメシア待望
悪魔の観念
『死海文書』の二元論
至高の神と人間を架橋する大天使

〇アーリア人とキリスト教

守護天使
東方の三博士伝説
世界の君主観念
聖杯伝説


〇アーリア人とグノーシス主義



 アナクシマンドロス(ミレトス、紀元前610~紀元前546年)は、「万物の根元は水である」と述べたタレスの弟子とされています。そして、宇宙はアペイロン(無限なもの。不滅なるもの)という考えを示したそうで、なんだか輪廻転生のにおいがします。

 ヘロドトス(紀元前484~ 紀元前425年)は、『歴史』でインドに関する以下の記述を残しています。

[ペルシア帝国の王]ダレイオスがその治世中[前522年~486年]、側近のギリシア人を呼んで、どれほどの金を貰ったら、死んだ父親の肉を食う気になるか、と訊ねたことがあった。ギリシア人は、どれほど金を貰っても、そのようなことはせぬといった。するとダレイオスは、今度はカッラティアイ人と呼ばれ両親の肉を食う習慣をもつインドの部族を呼び、先のギリシア人を立ち会わせ、通弁を通じて彼らにも対話の内容が理解できるようにしておいて、どれほどの金を貰えば死んだ父親を火葬にすることを承知するか、とそのインド人に訊ねた。するとカッラティアイ人たちは大声をあげて、王に口を謹んで貰いたいといった。慣習の力はこのようなもので、私にはピンダロスが「慣習(ノモス)こそ万象の王」と歌ったのは正しいと思われる。


 紀元前350年頃から、ペルシアのアケメネス朝の勢力が、インダス川の流域にまで及んで、そのルートを利用してギリシアなどの商人はインドまでやって来たようです。
 またアレキサンドロス3世が紀元前330年にペルシアを滅亡させて、紀元前327年にはインダス川上流のパンジャブ地方に到達して、象部隊を指揮するインドのポロス王の軍勢を打ち破りました。

 アレキサンドロス3世はなぜインダス川上流に遠征したのでしょうか?
 それは、アレキサンドロス3世がそれ以前に、インダス川上流について知っていたからでしょう。

 さまざまな形で、文化交流は行われていたと考えられます。例えば商人、例えば吟遊詩人、例えば旅行家。
 まあ、何もない荒野を、わざわざ遠征する意味はないわけで、アレキサンドロス3世についてはインダス川上流に「わざわざ軍隊を差し向ける価値のある何かがある」を知っていたと考えるほうが自然でしょう。

 輪廻転生も文化交流の中でできてきた概念で、そこから発展して、須弥山といった複雑な世界観、現世よりもよりすばらしい世界に行く「往生」や弥勒信仰などが生まれたのではないでしょうか。


■参考資料
日本、中国、インドにみる「極楽浄土」思想の展開

東西から見た古代インド
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