『宗教の起源』ザ・ロング・アンド・ワインディング・ロード その4 「数は力なり」だから、グルーミングでエンドルフィンを出す必要があった
エンドルフィン(βエンドルフィン)は、「脳内麻薬」「快感ホルモン」と呼ばれている神経伝達物質で、高揚感や満足感を高め、痛みなどを軽減するように作用します。
調べたところ、昆虫や魚類でもエンドルフィンが分泌されているとのこと。動物で幅広く見られる神経伝達物質のようです。
痛みやストレスが加わったときなど、命の危機にさらされたときに、エンドルフィンが放出されることは知られています。臨死体験で「光に包まれて、とても気持ちがいい」と報告されるのも、エンドルフィンの作用によるもの。
そのほか、「毛づくろい」してもらうと、エンドルフィンがたくさん分泌されます。
βエンドルフィン(β-endorphin)は31個のアミノ酸から成るペプチドである.図1に示すように,副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)と共通の前駆体(proopio-melanocortin; POMC)から生成されるβリポトロンピン(β-LPH)のC端部分(β-LPH61-69)に由来する.ヒトでは主として下垂体前葉から産生され血中に分泌される.下垂体以外にも視床下部を中心とした中枢神経系,交感神経節,副腎髄質,消化管,膵臓,甲状腺,卵巣,胎盤など多くの組織において産生される.このほか,異所性ACTH産生腫瘍においてもβエンドルフィンの同時産生がみられる.さらに,毛づくろいを受けると,モルヒネのように多幸感をもたらすβエンドルフィンが多く分泌される(タラポアン(Miopithecus talapoin):Keverne,Martensz, & Tuite, 1989)。また,毛づくろいを受けると個体の心拍数が減少すること(ブタオザル(Macacanemestrina):Boccia, Reite, & Laudenslager,1989;ア カ ゲ ザ ル(Macaca mulatta):Aureli,Preston, & de Waal, 1999),スクラッチ(四肢を用いて自分の体を掻く行動)などの自己指向性行動が少なくなることが報告されており(カニクイザル:Schino, Scucchi, Maestripieri, & Turillazzi,1988),これらの結果から,毛づくろいを受けると,個体のストレス(distress)が減少することが示唆されている。
![]() |
毛づくろい(写真/ゆん) |
毛づくろいは、英語ではグルーミング(grooming)といいます。
生物学的には、ヒト(人間)も霊長類に含まれるとのこと。サルと比べて毛が減った私たち人間は、なでたり抱きしめたりすることでグルーミングを行っていると、『宗教の起源』(白揚社)の著者であるロビン・ダンバーは述べています。
エンドルフィンとは脳内で働く鎮痛剤で、化学構造がアヘンによく似ており、アヘンのように気持ちを落ち着かせ、「世はすべてこともなし」という温かな幸福感をもたらす。(中略)また重要な下流効果も二つある。ひとつは免疫系によるNK(ナチュラルキラー)細胞の増殖をうながすことだ。(中略)エンドルフィンのもうひとつの効果は、結束を強めることだ。(中略)要はエンドルフィンは気分を明るくして、相手との強いつながりを感じさせるだけでなく、免疫系の調整も行って、健康な状態を保ってくれるということだ。私たちヒトは約二〇〇万年前に毛の大半を失っているが、それでもやさしくなでたり、抱きしめたりという「グルーミング」を行っている。(中略)皮膚の表面を軽くなでると脳内にエンドルフィンが分泌されることがわかっている。
p123
気持ちがよくなるだけでなく、相手との強いつながりを感じられて、結束を強めてくれるというエンドルフィン。サルも集団生活のストレスを、グルーミングで癒やしているに違いありません。もちろん、人間もそうでしょう。
当たり前の話ですが、私たちの手は2本で、腕の長さも1メートル足らずなので、同時に複数をグルーミングできません。「あの人も、この人も、その人もストレスを感じているみたいだからグルーミングやってあげたいけど、同時にはできないよね……」というシチュエーションが、人間の歴史の中でもあったのかもしれません。
私たちの祖先は、社会集団を拡大する必要に迫られたときに、二人以上に同時にグルーミングする方法はないかと知恵を絞った。こうしてたどりついた唯一の現実的な解決策が、直接触れることなくエンドルフィン分泌を促す一連の行動だった。(中略)笑うこと、歌うこと、踊ること、感情に訴える物語を語ること、宴を開くこと(みんなで食事をして酒を飲む)で、最後に忘れてはならないのが宗教儀式だ。いずれも言葉に依存するため、ヒトにしかできない行動である。
p124
生物たちは、生存戦略として、群れを作ってきました。群れをつくる効果として、以下のものが挙げられています。
〇熱や湿気を逃がさない 虫の集団越冬など
〇繁殖の機会を得る ガーターヘビなど
〇襲われるリスクを減らす(「希釈効果」「捕食回避」) イワシなど
〇狩りの成功度を上げる ハイエナなど
数は力なり。
人間も、周りのグループから襲われるリスクを減らしたり、逆に襲ったときの成功度を高めたりするために、群れを大きくしていったのでしょう。
しかし、群れにはデメリットもあります。それがストレス。
ギョギョギョのさかなクンが語っていたのですが、広い海の中なら仲良く群れを作るメジナが、狭い水槽に入れるといじめを始めるとのこと。人間も同じなのだそうです。
群れが密になれば、生き物はストレスを感じるのです。
このストレスを緩和してくれる存在がエンドルフィン。人間がエンドルフィンの分泌を促すには、以下の方法があるとロビン・ダンバーは述べていましたね。
〇笑う
〇歌う
〇踊る
〇感情を揺さぶる(泣く)
〇宴を開く
〇宗教儀式を行う
■参考資料
ホルモンおよび神経伝達物質による魚類食細胞の機能調節
昆虫における中腸ペプチドの生理作用と細胞増殖・分化に果たす役割
βエンドルフィン
エンドルフィンが関係している代表的な現象は「ランナーズハイ」だ。1980年代に運動生理学の研究から、心肺機能を高める運動をすると脳内にエンドルフィンが放出され、高揚感や満足感が高まる結果が明らかになった。ストレスを緩和するために起きる現象ととらえられている。
幸せ感よぶ脳内ホルモン 「エンドルフィン」の作り方
強い信念を抱いている状態や褒められたり笑ったりする時、恋愛感情で心がときめいている際にもエンドルフィンが脳内で作られる。脳内ホルモンに詳しい東京都医学総合研究所の池田和隆参事研究員は「エンドルフィンはゆったりした気持ちよさを誘う。神経を興奮させて気持ちよくなるのではなく、幸せ感を高めてくれる」と解説する。
(いじめられている君へ)さかなクン「広い海へ出てみよう」
こんなにうじゃうじゃいるのはなぜ? 野生動物が群れる理由とは
Leave a Comment