腎臓を巡る、長く、曲がりくねった物語 その23 生命の源である水をどうやって保つのか(心臓→腎臓のナトリウム利尿ペプチド編)
長い間、心臓は血液を送り出すポンプの役割だけを果たしていると考えられていたようです。全身に十分な酸素や栄養を供給するために、1日になんと10万回も、ポンプとしてシュコシュコと血液を送り出しています。ですから、ポンプの役割「だけ」といっても、かなり重要です。
ところが、最近では内分泌器官の一つとして見なされるようになりました。きっかけは、ナトリウム利尿ペプチドの発見です。
ナトリウム利尿ペプチドは、1981年にダ=ボルド(AdolfoJosédeBold)が発見しました。ダ=ボルドはアルゼンチン生まれのカナダの研究者で、ラットの心房抽出物に、ナトリウムを体外に排出させる作用があることを見つけました。
その後、研究が進んで、1984年に松尾壽之博士と寒川賢治博士が人間の心臓にもナトリウムを体外に排出させる物質があることを発見し、心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP、atrialnatriureticpeptide)と名付けました。
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心臓の内部(看護roo!より) |
ナトリウムを摂取したり、全身を循環する血液の量が増えたりすると、心房・心室が刺激されてナトリウム利尿ペプチドが分泌されます。ナトリウム利尿ペプチドは、腎臓の集合管でのナトリウム再吸収を抑制して、尿へのナトリウムの排泄を増やします。
心臓からは2種類のナトリウム利尿ペプチドが分泌されています。心房からは、前述の心房性ナトリウム利尿ペプチドが、心室からは脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP、brainnatriureticpeptide)が分泌されています。
脳性ナトリウム利尿ペプチドは、脳で発見されたので「脳性」と名前についていますが、人間の脳にはほとんど存在しません。
2種類のナトリウム利尿ペプチドはともに、アルドステロンの作用に拮抗して、集合管でのナトリウム再吸収を抑制し、カリウムの再吸収と尿の出を促進します。こうして、体液の量とバランスを調節しているのです。
ナトリウム利尿ペプチドは、バゾプレッシンそしてレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系(RAAS)と反対の作用、つまり体から水を出して血圧を下げようとしています。
私たちの体は、生命の源である水を保つために、基本的にはナトリウムを取っておこうという方向で働いていますが、例外もあるという見方もできますね。
■参考資料
III.治療の進歩5.心房性ナトリウム利尿ペプチド
内分泌器官としての心臓研究:ナトリウム利尿ペプチドとアルドステロンを中心に
ナトリウム利尿ペプチドファミリーの分子進化
『食塩と健康の科学』著/伊藤敬一 講談社
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