間質液(組織液)なのか、組織液(間質液)なのか問題

 昔の話ですが、ロシアの小説を読むのに挫折しました。理由が、「同じ人物が、別名で表記されている」から。
 例えば、「フョードル・ミハイロヴィチ・ドストエフスキー」という人物を、ある場面では「フョードル」、別の場面では「ミハイロヴィチ」、さらには「ドストエフスキー」という具合に、違う表記がされているのです。「ドストエフスキーに一本化すればいいんじゃないかあ!!」と、頭をかきむしりたくなります。
『罪と罰』著/フョードル・ミハイロヴィチ・ドストエフスキー 新潮社



 同じものなのに、別の呼び方をする。

 その一つが、間質液と組織液です。どちらがメジャーな呼び方なのかを調べてみました。
 

〇間質液(組織液)派

体液は細胞内液と細胞外液とに分けられ,細胞外液は,さらに血管やリンパ管を流れる循環液. と,血管外にあって細胞を浸している間質液(組織液)とに区分される.

〇組織液(間質液)派

これまで,体液には血液,リンパ液,組織液(間質液)があることを勉強してきました .これら体液のうち,細胞内を満たすものを細胞内液 といいます.

〇どちらとも違う派

細胞以外の水分には管の中(血管やリンパ管)ではない、細胞の隙間にたまる液があり、それを細胞間質液と言います。


 細胞外液のうち,約1/4〜1/3が血管内(血漿)に存在し,残りは間質に組織間液(interstitial fluid;ISF)として存在します。 

 バラバラすぎて、話になりません!
 では、厚生労働省では、どう表記しているのでしょうか。

水は、細胞内液及び細胞外液(血漿、間質液)を構成し、全ての生化学反. 応の場を提供している。


組織液は、組織中の細胞に酸素や栄養分を供給して二酸化炭素や老. 廃物を回収したのち、そのほとんどは毛細血管で吸収されて血液に還元されるが、

 厚生労働省、おまえもか……(ガクッ)。

 医学方面にこだわらずに多方面で調べた結果、世界大百科事典で一筋の光明が見えてきました。

間質液 (かんしつえき)
interstitial fluid

細胞間液または組織液tissue fluidともいう。細胞外液の一部で,血漿と同様,種々の栄養物,電解質,ホルモン等を含む液体で細胞を直接とりまき,細胞の生活環境を形成しているもの。血漿(管内細胞外液)とともに生体内の内部環境を形成し,その電解質組成,浸透圧,pHは血漿とつねに平衡しており,かつ恒常的に至適な状態に保たれている。間質液は全体内水分量の約15%を占めているが,この間質液が異常に増加した病態がむくみ(水腫)と呼ばれる。血漿と間質液の間の物質の平衡は毛細血管領域で行われているが,毛細血管壁は分子量1万程度までの物質は自由に通すためタンパク質を除く成分の組成はほぼ等しい。
執筆者:星 猛+日向 正義

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」

interstitial fluid or tissue fluid

 tissueといえば、人体の組織よりもおなじみなのが、ティッシュペーパー。どちらも同じ語源のようです。

tissue(生物の組織)と tissue(ティッシュペーパー)の関係どちらも tissue と呼ばれる理由はあるのでしょうか?たまたまですか?

どちらの tissue も元々はフランス語 (tissu) からきており、「織られたもの・布」または動詞の「織る」という意味があります。
生物における組織の tissue は、異なった性質の細胞群から形成されており、この組み合わされた様子が織られたもののようなので tissue と呼ばれるようです。



 話を人体に戻すと、組織はどのように定義されているのでしょうか?

 ヒトは多数の細胞 cell が集まってできている多細胞生物であり,逆に考えれば,細胞はヒトの体内で独立した生命活動を営む最小単位といえる.この視点から人体の構成をみると,細胞が一定の配列や形態のもとに集合して組織 tissue を,種々の組織が特定の機能を目的に集合して器官(臓器)organ を,そして各器官が連係して機能する器官系 organ system を形成している.人体すなわち個体はこの器官系が統合されたものということができる.


 文系人間の理解だと、次のとおり。
細胞<組織<器官<器官系<人体

 また、interstitialについては、interとstitialに分けられそうです。

〇inter
複数の場所やグループの「間」

〇stitial
-sti-(「立つ」でstandの意味)-tion(名刺を作る語尾で「こと」)-al (「~に関する」)

 無理やり訳すと「間に立っていることに関する液体」。つ、つらい……

 ちなみに、新型コロナウイルス感染症が蔓延したときに、よく耳にした間質性肺炎(かんしつせいはいえん)はinterstitial pneumonia。
 紅麹サプリ問題で目にするようになった急性間質性腎炎は、acute interstitial nephritis。

 「組織」には結合組織、上皮組織、筋組織、神経組織という分類もあり、「細胞を取り巻いている液体」を指す言葉に「組織液」を使うと誤解が生じる可能性もありそうな気もしなくもありません。

 そのようなわけで、今後は「間質液(組織液)」という表記を標準化させたいと思います。あくまでも『クラナリ』編集人が仕事をする範疇ですが。

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