超文系人間がちょっと細かく調べてみた その7 浸透圧と体内の水の移動

  浸透圧の説明によく使われるU字管。
U字管(アマゾンより)

 こんな形のガラス管を、いつ、誰が、何の目的で作ったのか調べていたのですが、どうやら錬金術の時代にできたもののようです。

 錬金術の時代、いまでいうビーカーやフラスコなどが、ガラスや陶器でつくられた。蒸留には、レトルトというガラス器具がよく使われた。現在でも活躍の理化学ガラス実験器具の多くは、錬金術の時代のガラス器具がルーツとなっている。

 16世紀頃、錬金術師の一人が、金を作り出そうとして、さまざまなガラス器具が開発され、その一つがU字管だったと推測できます。

 U字管を使った浸透圧の説明は、主に以下の流れです。

 まず、U字管の底(?)に半透膜を取り付けます。
半透膜をつける

 左の管には水を、右の管には食塩水を入れます。

 しばらく放置すると、左から右へと水が移動します。

 高くなった食塩水の水面をフンッと押して、水と同じ高さにします。この「フンッと押す力」は、水が半透膜を通り抜けようとする力と等しくなります。


 浸透圧は、①浸透を押し返す圧力(上の図の黄色の矢印)=➁水が半透膜を通して食塩水に浸透しようとする圧力、ということになります。

 人間の体については、細胞を包む細胞膜が半透膜です。
 そのため、体内の水の移動には、浸透圧が大きく関係しています。

 成人男性の場合、体重の 60%の水が体内にあるとされています。
体内で最も多いのは水(イラスト/イラストボックス

 体内の水、つまり体液には、細胞の中にある細胞内液と、外にある細胞外液があります。存在する割合は、細胞内液:細胞外液=2:1 。ですから、体重が 60 kg の人は、60kg の60%である 36 Lの水が体内にあり、細胞内液は24 L、細胞外液は12 L です。
 細胞内と細胞外の浸透圧は、等しくなっています。これを等張といいます。ちなみに、体液(細胞内液と細胞外液)よりも浸透圧が低い溶液は低張、高い溶液は高張です。

 細胞外液は、血管内にある血漿(血液の液体成分)と、細胞と細胞の間(間質)にある間質液(組織液)があります。血漿と間質液を分けるのは、毛細血管です。
 血漿と間質液の割合は、血漿:間質液=1:3。ですから、体重 60 kg の人の細胞外液 12 L については、 3 Lが血漿で、 9 Lが間質液です。
人体の構成



 体重が60kgの人が、口から飲んだ水が、胃腸の毛細血管に3 L 入ってきたとした場合を考えてみましょう(あり得ませんが)。

小腸の柔毛の断面(腸管上皮細胞と腸内細菌との相互作用より、一部改変。黄色がリンパ管、赤が動脈、青が静脈)


 水はまず毛細血管の中に入るので、血漿(血液の液体成分なので血液と置き換えることも……)は3Lから6Lに増えます。

 しかし、毛細血管には、水やアミノ酸、グルコース(ブドウ糖)、尿素、ナトリウムイオンや塩素イオンなどの電解質が自由に出入りできる穴が開いています(ただし、赤血球やタンパク質は移動できません)。
小腸粘膜の毛細血管は「有窓型」(Wikipediaより、一部改変)

 毛細血管に入った水は、血管の穴から外へ、そして細胞と細胞の間に移動します。

 また、血管の内外への水の移動に影響を与えるのが、血管壁を通過しないアルブミンなどの血漿タンパクです。アルブミンが血漿に含まれているために密度が高くなり、血管の中へ水が引き込まれます。
 さらにアルブミンはマイナスに帯電しているので、陽(プラス)イオンのナトリウムイオンを引っ張ってくることも、浸透圧を高めます。
 このように血漿のタンパク質が水を血管内に引き込む力を、膠質浸透圧といいます。

 では、水や電解質などが細胞の外から中へスーッと入るのかというと、ちょっと毛細血管のときとは事情が違うのです。

 毛細血管の穴とは違って、細胞を包む細胞膜は、選択的半透膜、つまり通すものと通さないものがあります。
水になじみやすいリン酸と、なじみにくい脂肪酸
細胞膜の構造


  細胞膜を貫通している膜タンパク質、状況に応じて出入り口を開けたり閉じたりして、特定の電解質やグルコースを通しています。
 なお、水は細胞膜を透過するので、拡散で細胞に出入りします。ただ、拡散だとゆっくりとした移動になります。尿を作ったり、汗や涙や唾液を出したりするなど、水を急速に移動させる部位にある細胞の細胞膜ではアクアポリンという膜タンパク質(上の図のチャネル)があります。

 こうした細胞膜の働きで、細胞の中と外とではイオンの濃度が異なる状態で保たれています。
 細胞の中はカリウム濃度は平均140mEq/L(140mmol/L)、ナトリウム濃度は12mEq/L(12mmol/L)です。
 細胞の外はカリウム濃度は3.5~5mEq/L(3.5~5mmol/L)、ナトリウム濃度は平均140mEq/L(140mmol/L)です。

 体液の浸透圧は285±5 mOsm/Lで保たれていて、細胞の内外への水の移動に影響を与える主なものが、細胞膜を自由に透過できないナトリウムイオンとグルコースです。


 体に入ってきた水によって成分が薄まった(濃度が低くなった)細胞外液と、細胞膜の袋に入った細胞内液は、同じ濃度になろうとします。
 ですから、水が細胞の外から中へと入っていきます。

 細胞内液:細胞外液=2:1 のため、体に入った3 Lの水のうちの 2 L は細胞の中、1 L が細胞の外となります。
 ナトリウムの量については、水を飲む前の細胞外液だと 、140mmol/L×細胞外液量 12L=1680 mmol。
 水を飲んだ後は細胞外液が 12 L+1 L=13 L になり、1680 mmol÷13L=129.23 mmol/L。
 上記はあくまでも計算上の話ですが、体に水が3 L入ってくると、細胞外液の濃度が下がるので、血漿も濃度が下がります。
 すると、血漿に浮かんでいる赤血球の内部のほうが血漿よりも濃度が高くなるため、血漿から赤血球の中に水が移動します。

 赤血球は赤血球膜(細胞膜の一種)で覆われ、主成分はヘモグロビンです。鉄を含むヘムという色素と球状のタンパク質であるグロビンが結合したものがヘモグロビンで、赤血球の重量の約3分の1を占めています。残りの3分の2のほとんどは水分です。
 赤血球は血漿の二酸化炭素を取り込んで、内部で重炭酸イオンと水素イオンに分解してpHを変化させることで、ヘモグロビンに結合した酸素の放出を促します。
 赤血球膜に存在する膜タンパク質「バンド3」は、赤血球内で生成した重炭酸イオンを外に放出し、代わりに塩素イオンを取り込む「交換輸送」を行っています。
赤血球の代謝センサー「バンド3」の構造を解明より


 そんな赤血球に水が入ってくると、赤血球が膨らんで、やがて赤血球膜が破れてしまいます。このように、赤血球が寿命を迎える前に壊れてしまう現象が、溶血です。

 まあ、当たり前の話ですが、水をそのまま体内に入れるというのは、危険なことなんですね。



■主な参考資料
5分でわかる!浸透圧とは

浸透圧に関する問題 完全攻略チャート①

イメカラ循環器

麻酔科医のための体液・代謝・体温管理

日本血液製剤協会 アルブミンの働き
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