食事? 運動? 年齢? 「情報が多すぎて困っている」というあなたにお勧めの「腎臓の本」ガイド
30年以上、雑誌や実用書の編集に携わってきたのですが、ここ数年は腎臓への注目度が高まっています。十数年前には、雑誌で腎臓の特集を組むことはなく、器官については腸や脳、目などが中心でした。特集する病気は、高血圧と糖尿病の連打です。
最近になって腎臓が注目されるようになった理由の一つは、高齢化に伴う透析患者の増加だと考えられます。
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日本透析医学会ホームページより |
かつては「腎臓が悪くなったって、人工透析を行えばいい」という、ちょっと軽く捉えているような風潮もあったように思います。
しかし、透析患者が増え続けて、日本の医療費を圧迫するようになってきました。2017年には次のような報道もありました。
高齢化が進むのに伴い、低下した腎臓の機能を補う人工透析治療を受ける人が増えている。その数は30万人を超えて医療費は1兆円超となり、膨らむ人工透析のコストの抑制が医療費削減の焦点になりつつある。安定した収入が見込めるため安易に透析を導入する医療機関もあり、厚生労働省は透析の診療報酬を減額して医療費削減に乗り出す方針だ。
加えて、私たち一般のレベルでも、身近な透析患者から「しんどい」「時間が取られる」と聞いて、自分の腎臓を心配する人が増えてきているようです。また、「慢性腎臓病(Chronic Kidney Disease: CKD)になったらすぐに人工透析」と誤解している人もいるとのこと。
慢性腎臓病は、腎臓の機能が慢性的に低下している状態を指しています。ですから、「慢性腎臓病」という、たった一つの病気が存在するわけではありません。糖尿病性腎症や腎硬化症、IgA腎症といった複数の病気が混在しています。
人工透析が日本の医療を圧迫しているものの、慢性腎臓病も、腎臓という臓器の構造も、とにかく私たちにはわかりにくいため、腎臓を解説する本が増えているのではないでしょうか。
そのようなわけで、雑誌・書籍編集者歴三十数年、腎臓の書籍を3冊手掛けたクラナリが、現在、書店に並んでいる本を分類してみました。
まず、慢性腎臓病の原因を分類します。
1 血管の老化
2 内臓脂肪型肥満や糖尿病、高血圧などの生活習慣病→必要に応じて病院(内科など)で治療
3 薬・サプリメント:急性から慢性へ→すぐに病院(内科、腎臓内科など)へ
4 感染症:急性から慢性へ→すぐに病院(内科、腎臓内科など)へ
3の薬・サプリメント、そして4の感染症は、速やかに治療を受けることが重要です。近年起こった、サプリメントによる腎障害では、以下の報道がありました。
1日3粒。サプリを飲み始めて数週間後、尿の色が濃くなりました。次第に尿が出にくくなり、激しい腹痛に襲われるようになったといいます。「おなかが痛くて、尿が出なくて溜まっていく。日に日にきつくなっていた。」過去に泌尿器系のトラブルはありませんでした。尿や腹痛の原因はわからず、それでも男性はサプリの摂取を続け、購入した2パックを飲みきったということです。去年9月には通院、10月には入院して、手術を受けたということです。
「サプリを飲み始めて数週間後、尿の色が濃くなりました」「尿が出なくて溜まっていく」といった症状、またコーラのような濃い色の尿、血尿などが現れたら、すぐに受診しましょう。
一方、1の血管の老化、そして2の生活習慣病は、普段の生活を変えるなどで、私たちでも対策を打つことができます。
そのため、一般書店の棚に並んでいる腎臓の本については、この2つにアプローチするものがほとんどです。
加えて、食事制限が必要になる前(ステージG2まで)の注意点が述べられています。タンパク質や塩分、カリウムの制限が始まる段階に来ると、医師や管理栄養士による指導が欠かせなくなるからです。
ここまで前置きが長くなってしまいましたが、タイプ別のお勧め「腎臓の本」を紹介します。
〇腎臓について、広く、浅く、たくさんの情報が欲しい
腎臓に関するムック(大型の本)については、基本的には一つのテーマを掘り下げるのではなく、さまざまな話題を詰め込んだ総花的な内容になっています。そのため、腎臓について全く知識のない人でも読みやすいでしょう。
また、『国立大学教授・腎臓の世界的名医が教える 運動を頑張らなくても腎機能がみるみる強まる食べ物大全』などの文響社の健康書は、一般的にムックと似た作りになっています。
〇加齢が気になる
『腎機能を自力で強くする 弱った腎臓のメンテナンス法』(著/髙取優二 アスコム)は、図版が多く文字が大きいので、誰でも負担なく読める一冊です。腎臓の機能や病気、減塩のコツなどがコンパクトにまとまっています。
最大の特徴は、「腎臓に関する不安が解消して、希望が持てる内容」ということ。
〇予防として、特に食事が気になる
クラナリが個人的にお勧めしたいのが、黒尾誠博士の『腎臓が寿命を決める 老化加速物質リンを最速で排出する 』(幻冬舎新書) 。サブタイトルでも明確なのですが、リン、特に無機リンが血管に与えるダメージについて、詳しく解説されています。
この本を読むだけで無機リンを摂取したくなくなるだけでなく、無機リンを控えるだけで自然と塩分の摂取量が減らせるという効果もあります。理由は、無機リンの多い加工食品のほとんどが、塩分も多く含まれているからです。
新書なので、本体価格946円と安いのも魅力的。
〇治療段階で、タンパク質や塩分、カリウムを制限できるメニューが知りたい
慢性腎臓病の食事療法が始まると「どんな料理を作ればいいのかわからない!」「何を食べていいのかわからない!」という状況に陥りがち。『専門医が教える 組み合わせ自在 腎臓病レシピ』(著/岩﨑啓子 監修/両角國男 西東社)は献立について丁寧に解説されています。
〇運動について知りたい
慢性腎臓病の運動療法の第一人者は、上月(こうづき)正博博士。東北大学に上月博士が在籍しているときに考案した「腎臓リハビリ」が『腎臓の名医が教える 腎機能 自力で強まる体操と食事』(徳間書店)、『東北大学病院が開発した 弱った腎臓を自力で元気にする方法』(アスコム)などで紹介されています。
〇腎臓の働きを知りたい(入門編)
『人は腎臓から老いていく』(著/髙取優二 アスコム)は、腎臓の構造と対応する働きを、ゆったりと解説しています。腎臓がどのような臓器なのか、どうして大切なのかを簡単に知りたい場合は、この本がぴったりです。
〇腎臓の働きを深く知りたい
2013年初版なので今は店頭に並んでいないと思うのですが、『腎臓のはなし 130グラムの臓器の大きな役割』(中公新書)については、著者の坂井建夫博士は数多くの医学書で腎臓をはじめとした人体の仕組みを解説している、解剖学の第一人者です。
〇腎臓について幅広く知りたい
『腎臓の教科書 体液の循環・浄化から見る驚異の生命維持システム』(著/髙取優二 講談社ブルーバックス)には、腎臓の構造が生物の進化の過程でどのように変化してきたのか、どうして心臓や脳などと相関しているのかなど、さまざまな話題が盛り込まれています。
※腎臓というよりも、東洋医学の「腎」が話題になっている
東洋医学の五行説があり、「肝(かん)、心(しん)、脾(ひ)、肺(はい)、腎(じん)」の「五臓」がそれぞれに機能し、相互に働きかけてバランスを取り、体を維持していると考えられています。
五臓の腎はあくまでも「先天の気を貯蔵するもの」「体内の水をつかさどるもの」といった概念なので、臓器の腎臓とだけ対応しているわけではありません。
『腎臓毒出しスープ これだけで不調が消える! 』(著/大野沙織 ワニブックス)や『疲れをとりたきゃ腎臓をもみなさい』(著/寺林陽介 アスコム)は、書名に「腎臓」と入っているものの、著者が鍼灸師で、内容的には東洋医学の「腎」です。スープのレシピには塩分などの栄養計算が行われていないし、腎臓自体はもむことはできません。
※尿のトラブルのほとんどは、膀胱や尿道が原因である
尿失禁、頻尿といった「尿のトラブル」「シモの病気」のほとんどが腎臓が直接の原因ではありません。男性の場合は前立腺肥大(すべての哺乳類のオスも存在し、膀胱のすぐ下に位置して尿道を囲む臓器)、女性の場合は骨盤底筋群の緩みと、膀胱が過敏になった過活動膀胱が多いようです。
尿失禁
〇膀胱などを支えている骨盤底筋群の緩んで、尿の出口がキュッと締まらなくなった
〇前立腺肥大で尿の出が悪くなり、膀胱に残った尿が少しずつ漏れる
頻尿
〇前立腺肥大で尿の出が悪くなり、尿が少しずつしか出せなくなった
〇膀胱が過敏な状態(過活動膀胱)で、膀胱に少量の尿しかためられない(生活習慣やストレスが原因のことも)
〇膀胱に細菌が感染して炎症が起こり(膀胱炎)、膀胱の知覚神経が刺激される
〇尿路で、尿に含まれるカルシウムやマグネシウム、尿酸などが結晶化し(尿路結石症)、結晶が膀胱を刺激する
腎臓、膀胱、尿道といった泌尿器系の話がまとまっているのは、『寿命の9割は「尿」で決まる』(著/堀江重郎 SBクリエイティブ)です。
※糖尿病対策が重要である
15年以上糖尿病にかかっていると、腎層の機能が低下する糖尿病性腎症になりやすいことがわかっています。そして透析導入の4割が糖尿病性腎症が原因となっています。
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CKD 診療ガイドライン 2012より |
腎臓は細い血管の塊です。そして細い血管の穴で血液を「仕分け」するという仕組みを考えると、年齢を重ねるほど機能が落ちていくのは、自然現象。機能低下イコール病気というわけではありません。
ただ、糖尿病など血管にダメージを与える病気が加わると、機能低下のスピードが速まってしまうのです。
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CKD 診療ガイドライン 2012より |
血液検査・尿検査などによって、腎機能の低下や尿たんぱくなどが3カ月以上にわたって確認されると、慢性腎臓病と診断されます。以前は慢性腎不全という病名が用いられていましたが、腎機能障害をより理解しやすく、より早期に発見するために、2002年に米国腎臓財団が慢性腎臓病という概念を提唱したのです。
慢性腎臓病の患者は、数年前は成人の8人に1人でしたが、2024年のCKD診療ガイドラインでは成人の5人に1人というデータが掲載されていました。
自分の腎臓に働いてもらって人生をまっとうするために、腎臓の本を読んで仕組みなどを知っておくのもいいのではないでしょうか。
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