5-2 尿毒症と対症療法

5-2 尿毒症と対症療法

 人間の体の50~70%を水が占めていることから、第1章では体を「水の王国」にたとえましたが、尿毒症については、水の王国で下水道だけでなく上水道、川などあらゆる水がゴミだらけの状態を指しています。そして、プーンとにおう腐った水が、どこかへと流れていくことなく、ずっとよどんでいます。
 人間の体の場合、水の王国の住民に相当する細胞は、ゴミだらけの体液に囲まれていたら正常に活動できなくなるのです。これが尿毒症で、次項で詳しく説明します。

 尿毒症では全身がむくみ、脳の症状としては、冷静な判断ができなくなるだけでなく、記憶力も思考力も低下します。肺については、海でおぼれたときのような呼吸困難に陥ります。
 このように尿毒症は、体のありとあらゆる場所に現れます。

○初期に起こりやすい症状

疲れやすい
怒りっぽくなる
記憶力や思考力が低下する
頭が痛む
体がだるい
食欲が落ちて吐き気がする
皮膚がかゆくなる
安静にしているときに脚にムズムズ・ピリピリといった不快感が生じる(むずむず脚症候)


○進行すると起こりやすい症状

むくむ
せきが出て呼吸が苦しい ※高齢者では早い段階から見られやすい
口の中が乾燥して口内炎ができる
口臭がする
皮膚が黒っぽくなる
血圧が上がる
便秘になる
眠れない、あるいはずっと眠っているような状態になる
けいれんする

 それぞれの症状に応じて、例えば、かゆみについては、体を洗うときは石けんの利用はわきの下やまたに留めて、皮膚をこすらないというスキンケアを行います。
 呼吸困難には、体液が多すぎる場合には利尿剤が投与され、第2章で紹介したストロー呼吸など腹式呼吸が指導されます。また、室温を下げたり、扇風機の風を顔に当てたりすると、呼吸が楽になるという報告もありました。

 そして、尿毒症が患者さんにとって非常につらいものであれば、保存的腎臓療法を選んだとしても、透析療法を始めることはできます。
 このときの透析療法の目的は、あくまでも尿毒症を取り除くための緩和で、治療ではありません。ですから緩和⾎液透析・緩和腹膜透析と呼ばれていて、時間を短くしたり、回数を短くしたりして、患者さんの負担を軽くしています。


 『腎不全の緩和ケア』(監修/東京ベイ・浦安市川医療センター 鈴木利彦 南山堂)には「多彩な苦痛に対処することで、透析非導入のまま自宅で最期を迎えることができた超高齢者」が紹介されていました。90代男性のケースです。
 患者さんは高齢ということもあり、「先生がこうしろと言ってくれればそれに従いたい。そのことで結果はどうなっても納得はしている」と語っていたのだそうです。
 そして、透析療法の説明を何度聞いても、あまり理解ができていませんでした。家族に「治らないのかな」と口にしていました。死ぬことにも、透析療法を行うことにも、強い恐怖心を持っていたようです。これらの恐怖で呼吸困難に陥ることもありました。
 そのため、心理的な支援とケアが行われて、「呼吸が苦しい」という患者さんの訴えは消えていきました。

 このケースから、恐怖心をどうするのかという心理的なアプローチも、尿毒症の軽減に役立つことがわかります。人間は死ぬ運命にあること、加えて透析療法についても、早い段階で確認しておくことで、恐怖心、ひいては症状も抑えられるのではないでしょうか。




■主な参考資料
『続透析とともに生きる』(著/春木繁一 メディカ出版)
 昭和五十~五十一(一九七五~六)年ごろの透析は、すでにコイル型に置き替わっていた。(中略)
 槽は昔の洗濯機みたいな大きさで、透析液をその中に満たして、コイルを中心に置き、その中から噴水状に透析液を槽の中で「動かす」(流れをつくる)のである。(中略)
 透析が進むと、液が尿毒症性物質で汚れてくる。そうすると、プーンと匂いがした。独特の匂いであった。おわかりであろう。そう、「おしっこ」の匂いと同じであった。アンモニア臭だった。

『腎不全の緩和ケア』(監修/東京ベイ・浦安市川医療センター 鈴木利彦 南山堂)

多彩な苦痛に対処することで、透析非導入のまま自宅で最期を迎えることができた超高齢者 90代男性
平原 佐斗司

本人は、「先生がこうしろと言ってくれればそれに従いたい。そのことで結果はどうなっても納得はしている」と語り、医師に決めてほしいという希望を口にした。一方で、透析という医療行為については、何度説明を聞いてもよく理解ができず、家族には時々「治らないのかな」と口にすることもあり、ほかに治療がないことの漠然とした不安があることが窺われた。

本人は、どちらかといえば透析をしない方向に傾いているが、すると決めても不安、しないと決めても不安という状況であった。死の恐怖を口にする一方、透析をすることについても強い恐怖心をもっていた。

本人は死の恐怖や透析の恐怖などをしばしば口にし、呼吸苦の原因に不安が強く関係していると考えられた。(中略)心理的な支援と心地よいケアを受ける中で呼吸苦の訴えは消失していった。

281ページ 


『透析を止めた日』 著/堀川惠子 講談社

 看護記録には「息ができない、呼吸させてくれ」と苦しみながら逝った様子が詳細に記されていた。死因は肺水腫、溺れるような死。腎不全患者がもっとも恐れる症状である。

※患者は80代男性で、腎不全以外は健康といえる自立した生活を送っていたが、透析を拒否

 


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