人類の歴史と免疫との関係
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| 『はたらく細胞』(6) |
※前列左から
好中球、赤血球
血小板
のどの細胞(と乳酸菌)、マクロファージ
キラーT細胞好酸球、、記憶細胞、B細胞
ヘルパーT細胞、マスト細胞、
NK細胞、樹状細胞、好塩基球
制御性T細胞
ウイルス感染細胞
免疫という言葉は「疫(えき)から免れる(まぬがれる)」、つまり一度かかった感染症にかからなくなることを、もともとは意味していました。
ウイルスや細菌、寄生虫といった異物から体を守る免疫に関係するのは、血球(血液細胞)の白血球です。
血球は、骨の中心部にある骨髄で、造血幹細胞から増殖しながら分化(未熟な細胞が成熟すること)します。骨髄系幹細胞からは、赤血球、好中球や好酸球、好塩基球といった白血球、血小板などが、そしてリンパ系幹細胞からは、白血球の一種であるリンパ球(T細胞、B細胞、NK細胞)ができます。リンパ球は、リンパ系細胞から成長した白血球の一種です。
免疫の仕組みには、自然免疫と獲得(適応)免疫があります。通常は、自然免疫が初動し、自然免疫で抑えきれない場合には獲得免疫が発動します(そうでないパターンもあります)。
■自然免疫
体内に異物が入ってきたときに攻撃する仕組みで、生まれつき備わっている即効性の免疫です。好中球やマクロファージといった食細胞(細菌などを食べる細胞)が異物を無差別に排除します。
サイトカインは、細胞から分泌される生理活性タンパク質の総称です。サイトカインの一つであるI型インターフェロン(IFN1)はマクロファージ、好中球、樹状細胞などから産生され、ウイルスの増殖を防いだり、感染した細胞を破壊したりします。
■獲得免疫
体内に入ってきた異物を記憶することで、同じ異物が再び侵入した際に効果的に排除できる仕組みです。
自然免疫の段階で、全身の末梢組織に常在する樹状細胞が異物を貪食・処理します。取り込んだ異物の断片を、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)というタンパク質に乗せてリンパ節へ移動し、断片をT細胞へ提示します(抗原提示)。すると、T細胞とB細胞が活性化します。
T細胞は、司令塔のヘルパーT細胞、軍隊のキラーT細胞、キラーT細胞の暴走を抑える制御性T細胞の3種類に大別されます。
B細胞は、抗原に応じて免疫グロブリン(Ig)と呼ばれる抗体(糖タンパク質)を産生して異物を排除します。抗体にはIgG(長期免疫)・IgM(初期免疫)・IgA・IgE(アレルギー反応)・IgDの5種類あります。
免疫システムは自己と非自己を区別して、自己や無害な異物を攻撃しない免疫寛容という機能を持っています。免疫寛容に異常が生じると、自分自身の組織(自己抗原)に対して抗体(自己抗体)が作られるようになります。
自己免疫(Autoimmunity)とは、自己抗原でT細胞やB細胞が活性化する現象です。獲得免疫だけでなく、自然免疫や遺伝的要因、環境的要因が発症に関与していることが近年判明しています。
自己免疫が原因で、普段は免疫細胞がいない組織に活性化した免疫細胞が集まり、炎症性のサイトカインを放出し、さらに組織の細胞(非免疫細胞)も炎症性サイトカインを放出し始めて、全身または特定の臓器に炎症と組織損傷が起こる病気が、自己免疫疾患(膠原病)です。異物については排除すれば免疫反応という戦いは終わるのですが、自己免疫疾患の場合は、自分の組織を破壊し尽くすまで戦いが続いてしまいます。両生類やは虫類、鳥類では、哺乳類と比較して研究・報告例が少ないものの、自己免疫疾患やそれに類似した病態は存在します。
■主な自己免疫疾患 約80種類
関節リウマチ
全身性エリテマトーデス(SLE)
1型糖尿病
若年性特発性関節炎
皮膚筋炎
シェーグレン症候群
血管炎
クローン病
中世の13世紀には、全身性エリテマトーデス(SLE)に対してループス(Lupus、ラテン語で「オオカミ」)という表現が用いられて、医学文献に登場し始めました。皮膚に現れる赤い斑点が、オオカミにかまれた傷跡のように見えることから、ループスという言葉が使われたのです。 19世紀から20世紀にかけて、皮膚症状だけでなく、内臓、特に腎臓の障害を伴う全身的な病気であることがわかりました。
アレルギー(Allergy)については、抗体の免疫グロブリンE(IgE)が花粉や食物などの異物(アレルゲン)に過剰反応し、ヒスタミンなどの物質を放出して、くしゃみ、鼻水、かゆみ、下痢といった症状を引き起こすことです。哺乳類のみに見られ、鳥類やは虫類などには存在しません。
自己免疫疾患とアレルギーは、人類が20万年前から数多くの感染症を乗り越えて生き延びてきたことと関係する病気です。
例えばマラリア原虫という寄生虫(真核生物)はアフリカでゴリラから人類へと宿主を変え、マラリア原虫が引き起こすマラリアは人類が誕生した頃から悩まされた感染症でした。
マラリアと全身性エリテマトーデス(SLE)は、それぞれ感染症と自己免疫疾患に分類されます。しかし、発熱、関節炎、全身倦怠感、食欲不振、体重減少などが共通するほか、どちらも免疫系の異常な活性化が見られます。
○免疫複合体(抗体と抗原が結合したもの)が全身の血管壁に沈着し、炎症や組織障害を引き起こす
○貧血、白血球減少、血小板減少などの血液異常が起こる
○肝脾腫(肝臓・脾臓の腫大)が起こる
マラリア原虫は、大きさが約2.5〜4マイクロメートル程度で、直径約7〜8マイクロメートルの赤血球に寄生します。マラリア原虫は分裂・増殖して、赤血球を破壊してから放出されます。
マラリアが流行した地域では、鎌状赤血球症(HbS遺伝子ヘテロ接合)の人が多くいます。鎌状赤血球症だと、酸素不足で赤血球が三日月形(鎌状)に変形し、鎌状赤血球ではマラリア原虫が育ちにくいのです。さらに鎌状赤血球は脾臓で分解されやすいため、マラリア原虫の増殖が抑えられます。ただ、鎌状赤血球症だと貧血になるため、マラリアが蔓延していないときには人類にとって不都合なのです。
同様の関係性が見られるのが、マラリアと全身性エリテマトーデス(SLE)です。
免疫の仕組みでは、マラリア原虫が感染した赤血球を、マクロファージや好中球が食べて処理をします。感染しているかどうかの目印になるのが、免疫グロブリンG(IgG)です。感染した赤血球にIgGがくっつくと、マクロファージや好中球は活発に処理をするようになるのです。
もう一つは、BAFF(B細胞活性化因子、B-cell activating factor)で、B細胞の生存・分化・恒常性の維持に重要な役割を果たすサイトカインです。BAFFに関係する遺伝子に変異がある人が多いのは、マラリアが流行していた地域でした。そのため、感染防御のために有利な変異だったと考えられています。
IgGのくっつきやすさとBAFFの過剰発現は、マラリアの感染を防ぐには有利だったものの、自己免疫を引き起こし全身性エリテマトーデス(SLE)の原因にもなったわけです。
なお、マラリアの特効薬のキニーネは、キナの樹皮から採取される成分で、マラリアの特効薬でした。キニーネをヒントにして合成されたのがヒドロキシクロロキンが、全身性エリテマトーデス(SLE)の治療薬に使われています。
人類の歴史は、寄生虫や細菌、ウイルスが引き起こす感染症との闘いでした。また、環境の変化にも耐えなければなりません。そんな中、生存に有利な遺伝子を持つ個体が生き残り、その遺伝子を次世代に残すという自然選択を経て適応してきました
人類の歴史と免疫との関係
地球の誕生:46億年前
生命の誕生:38億年前
原核生物(細菌・古細菌)の登場:38億年前(35億年前という説も)
原核生物はCRISPR-Casシステムという獲得免疫を持ち、原核生物に感染するウイルス由来の核酸(DNAやRNA)の分解などを行って身を守ります。
■原核生物の新規な獲得免疫機構CRISPR/Casシステム
共生による真核生物の登場:21億年~20億年前
多細胞生物の登場:12億年~10億年前
脊椎動物の登場:5億3000年前
魚類に顎が出現:4億5000万年前
ヤツメウナギなど無顎類(顎がない魚)が主に吸い込みや濾過摂食であったのに対し、顎を持つ魚類(有顎類)は噛むことが可能になりました。こうして硬い食物や大型の獲物を捕食できるようになり、食性が劇的に拡大しました。
食性が多様化したことで、腸内で分解する栄養素の種類や量も変化しました。食物を効率的に分解する細菌が腸内に定着し、共生関係が始まりました。
また、T細胞とB細胞が関係する獲得免疫を持つようになりました。
サメやエイなどの軟骨魚類(有顎類)は、胸腺や脾臓を持ち、免疫グロブリン、抗体–T細胞受容体(Ab-TCR)、 MHCなどの遺伝子を持っています。T細胞とB細胞による免疫システムは、軟骨魚類の段階でほぼ完成しています。
無顎類と有顎類の間で獲得免疫が大きく変化したのは、トランスポゾン(ゲノム上を移動できるDNA配列。動く遺伝子とも呼ばれる)によるものではないかと考えられています。
なお、無顎類や、ウニなど棘皮動物(無脊椎動物)でも、食細胞と細胞傷害性細胞は持っています。
ヒトをはじめとした哺乳類の体内に病原菌などの侵入者が現れると、白血球と呼ばれる血球がこれらの異物を食べたり、物質を産生したりして侵入者から生体を守ろうとします。ウニに血液はありませんが殻の中には血球のような細胞(体腔細胞;図 1)がたくさん浮遊した液体(体腔液)があります。この浮遊している細胞の中には細菌などを取り込む作用がある細胞(貪食細胞) や抗菌作用のある色素(エキノクローム A)を含んだ細胞(赤色顆粒細胞)などがあり、相互に協力しながらウニの体を病原体から守る役割を担っています。また、哺乳類の場合は白血球が殺菌作用のある活性酸素を産生しますが、ウニの貪食細胞も活性酸素の一種である過酸化水素(H₂O₂)を産生することが知られています。哺乳類の場合、生体防御のもう一つの主役として白血球から産生される抗体というものがあります。この抗体は病原体ごとに体内で作られるもので、病原体にくっついて固まることで生体を守ります。ウニを含めた無脊椎動物の場合はこの抗体を産生する能力はありません。したがって、貪食細胞の食作用などが生体防御の仕組みにおいて特に重要な役割を担っていると考えられます。
脊椎動物の陸上進出:3億8500万年前
恐竜と哺乳類の出現:2億年前
哺乳類で、B細胞が免疫グロブリンE(IgE)を作るようになりました。
IgEは、IgGやIgAなど他の抗体と比較して血液中の濃度が非常に低いものの、マスト細胞や好塩基球の表面受容体に結合することでアレルギー反応を引き起こします。
本来の役割は、哺乳類において寄生虫や特定の異物を粘膜などで排除する防御機能です。体内に侵入した異物(アレルゲンや毒素)に結合し、くしゃみ、鼻水、かゆみ、下痢などの生体反応を引き起こして、それらを体外に排出する役割を担っています。 アレルギーは、この機能が現代の環境で不要な物質(花粉や食物)に反応してしまうことで起こります
ですから、アレルギーは哺乳類に見られ、鳥類やは虫類などには存在しません。
ホモ・サピエンスの出現:20万年前
農耕の始まり:1万2000年前
集団で穀物を育て、家畜を飼育するようになったことから、ペスト、天然痘、マラリアなど爆発的な感染症(エピデミック)が発生しました。
産業革命:260~280年前
都市化が進み、衛生状態が改善したことで、過去には生存に有利だった遺伝子変異が、自己免疫疾患やアレルギーや免疫疾患など)を引き起こす要因になりました。
1989年に英国の疫学者であるデビッド・ストラカン(David Strachan)が、幼少期の不衛生な環境が、逆にアレルギー性疾患の防御になるという論文を発表。これが「衛生仮説」で、衛生状態がよすぎるとアレルギーが増えるというものです。幼少期に微生物から適切な刺激を受けないと、免疫バランスが傾きやすくなるほか、免疫調整の失敗(制御性T細胞の不足など)で自己免疫疾患にかかりやすくなるという考えられました。
自己免疫疾患やアレルギーの発症が少ないことが統計学的に示唆されている生活環境兄弟姉妹の数が多い自然分娩で生まれた母乳で育った非衛生的な環境で育った抗生剤の使用が少なかった動物を飼育している
「衛生仮説」を発展させたのが「旧友仮説(Old Friends Hypothesis)」で、イギリスの免疫学者であるグラハム・ルック(Graham Rook)が提唱しました。人類が長らく共生してきた微生物(旧友)が、現代の衛生的な生活によって体から排除された結果、免疫系が暴走し、アレルギーや自己免疫疾患が増加したという理論です。
人類と共生してきた「旧友」で最大の規模を誇るのが腸内細菌です。
自己免疫疾患のクローン病は、活性化したマクロファージや単球、T細胞からTNF-α(腫瘍壊死因子)などの炎症性サイトカインが過剰産生され、口から肛門までの全消化管の正常な粘膜が誤って攻撃を受けて、慢性的な炎症、潰瘍、狭窄を引き起こす炎症性腸疾患です。腹痛や下痢、体重減少を特徴とし、再燃(悪化)と寛解(落ち着く)を繰り返します。
クローン病の原因の一つとして、腸内細菌の多様性が低下(ディスビオーシス)が挙げられています。
ここまでをまとめると、自己免疫疾患には遺伝子の変異という遺伝的な要素、腸内細菌など環境的な要素が関係していることになります。
さらにストレスが引き金になる場合もあります。ストレスがかかると、血液脳関門で免疫細胞をシャットアウトしている脳に、なんらかの抜け道ができて、血液中の免疫細胞が脳に入り込みます。その免疫細胞の中には自己抗原で活性化するものが含まれていて、脳に小さな炎症を引き起こすのです。そして神経回路を通じて、腸や胃などに悪影響を及ぼします。


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