2028年までに本の流通ルートとジャンルが増え、若い世代が本に親しむようになるんじゃないか問題

出典:業界の現状及びアクションプラン(案)について【書店】(事務局資料④)

 「再販制度」とは「再販売価格維持制度」の略称です。その名のとおり、たとえ売れ残った商品でも、小売店が再び販売する際には、最初に決められた価格を守るように義務付けた制度です。

 日本では、本(書籍と雑誌)や新聞などに再販制度が適用されています。そのため、本の割引セールは行われてきませんでした。

 世界を見ると、ドイツとフランスには再販制度があります。イタリアにもあるにはあるのですが、「かなりアバウトで弾力的」と評されていました。
 ちなみにアメリカやカナダでは再販制度自体が違法です。

 イギリスでは、書籍店組合が1812年に組織され、本の再販制度では最も古い歴史を持つ国です。再販制度は、1852年に一度撤廃されたものの、1957年に「定価本販売協定 (Net Book Agreement )」として復活して、1995年まで続きました。定価本販売協定から離脱する出版社が増えて、1995年には制度が形を成していなかったようです。
 再販制度が崩壊した背景として、次が挙げられます。
○出版コストの上昇
○長引く需要低迷
○大手出版社が定価本販売協定を離脱して、ベストセラーの値引き販売を開始

 そして、1997年に定価本販売協定は違法と判断され、現在はイギリスに本の再販制度はありません。



 日本については、出版社と書店の間をつなぐ卸売業の取次は、1878(明治11)年に誕生しました。薬品と本を扱うなど、さまざまな取次が現れ、当時は小売りを行っていたところも珍しくありませんでした。出版と取次、小売りが分化していったのは、明治の中頃と考えられます。

 そして再販制度は1919(大正8)年に始まりました。

 第二次世界大戦後の1949(昭和24)年に、取次の日本出版販売株式会社(日販)と東京出版販売株式会社(後のトーハン)が創業し、この2社が本の流通の6~7割程度をカバーしました。

 日本での本は委託販売制度で、出版社は作った本の販売を取次を経由して書店に委託し、書店が仕入れた本が一定期間内で売れなかった場合は出版社に返品できます。

  一方、イギリスでは注文買い切り(条件付き返品許容)が主流です。そして本の流通は取次を介さず、出版社と書店との直取引になっています。

 1995年に実質的に再販制度がなくなったイギリスでは、大きな混乱はなかったとものの、値引き合戦で安くなった本がある一方で、専門書などが高騰したとのこと。
 また、当たり前の話ではありますが、輸送費は運ぶ距離が長くなるほど高くなります。イギリスでは、遠隔地ほど本が高くなったようです。日本に置き換えると、東京で印刷された本は、関東だと安く手に入り、北海道や九州だと輸送費がプラスされて高くなるという現象です。

 出版コストが上昇し、スマホの台頭で本の需要が低迷した上、本の価格が二極化したイギリスなのですが、だからといって本離れが加速したわけではないようです。

 2024年10月にイギリスの書店協会が行った調査で、Z世代とミレニアル世代は、その上の世代よりも書店で本を購入するしているようだという結果が出て、『ガーディアン』紙は「若い世代はSNSに夢中で本を読まなくなったというような先入観は疑問を持つべきだ」と報じたとのこと。


 再販制度と委託販売制度がセットで続く日本では、全国の書店数が2025年末で9993店にまで減ったと報じられていました。



 そして本の流通の6~7割程度をカバーするといわれている、日販・トーハンという二大取次が、取次事業が足を引っ張って2026年3月期の連結決算で赤字となりました。



 取次については、配本や返品といった流通面だけでなく、お金の面でも重要な役割を果たしています。
 取次が出版社から本を委託されたタイミングで、売れた場合の売上金の2~9割程度を前払いしています。その本が書店で売れなかったときは、取次に戻され、前払金から売上金額を引いたお金を請求します。返品率が高まっている近年、取次に前払金から売上金額を引いたお金を請求される前に、新たに本を出版してその前払金を受け取る出版社は珍しくありません。
 これが「自転車操業」だといわれる点ではありますが、出版社にしてみれば「1冊本を出すと、○月までに〇円は必ず取次からの入金がある」と予想がつくので、「○月にデザイナーには○円、印刷には○円を支払えばよい」と計画も立てやすく、安心感はあるはずです。

 なお、すべてが上記の「自転車操業」というわけではなく、前払いが行われていない出版社もあります。

 ここまで、主にイギリスと日本で、本を取り巻く事情を見てきたわけですが、個人的には2028年までに、イギリスと似たような流れが日本で起こるのではないかと予想しています。

○取次が、前払いを段階的になくしていく。
○取次が、取次・書店のマージンの見直しを出版社に申し入れる。
○マージンの見直しが受け入れられずに委託販売制度から離脱すると同時に書店と直取引をはじめ、再販制度からも抜ける出版社が現れる。
○大手出版社が試験的に再販制度から抜ける。


取次からの運賃交渉というフェーズではない
国が定める「最低運賃」に対し、出版業界として負担方法を決めると
いうフェーズ


トラック新法成立後の世界~滅びの危機か、再生の夜明けか~
http://www.torikyo.jp/topics/data/20260129/file.pdf



 近い未来、さまざまな経路で本が流通するようになりそうです。前払いを前提にしていた出版社は、根本から経理を見直すことになるでしょう。雑務もかなり増えるはずです。
 書店についても、「全国で、同じ日に、同じ本が店頭に並ぶ」という風景が消えて、各店で品ぞろえが異なりそうです。仕入れを取次任せにできないため、確かな情報管理が求められるでしょう。AIが補ってくれる分野だと思いますが。

 それでフリーランスはどうなるかというと、ますます収入が不安定に。外部編集の業務委託費も「実売部数を基準に計算し、発売日の数カ月後から入金開始」というようなパターンが出てきても不思議ではありません。
 11年以上の記事ですが、ロンドンのクィーン・メアリー大学の調査によると、プロの作家の平均年収はわずか1万1千ポンド(200万円前後)で、執筆業だけで生活ができているのは10人に1人だったとのこと。

 なお、Xでは「吉本ばななレベルの作家だからこそnoteでしっかり稼ぐ、という時代なんだろう」という意見がありました。

吉本ばななレベルの作家でもnoteでちまちま金を稼ぐのか……ではなくて、吉本ばななレベルの作家だからこそnoteでしっかり稼ぐ、という時代なんだろう。今回の記事が寄稿だったらせいぜい数万〜の実入りだろうけどnoteドリームによって桁が2つ3つ違う収入に。本物によるどでかいホームランの現場を見た


今見たら、1万651人が高評価。

500円を1万人以上が購入して、500万円以上の収入。
2000円のハードカバー、初版2万部でも印税は400万。

もう、そういう時代なんだよ。
出版社はいつまで、殿様商売が出来るか?
800万円から1000万円は行くよ、あのnote。

 
 本作りに関わる外部スタッフも、さまざまな手法を駆使して、これからを生き抜く時代なのでしょう。






英国書籍再販制度の成立に関する歴史的一考察
岩本明憲





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