ビオチン療法と自己免疫疾患


 ビオチン療法は、掌蹠膿疱症(しょうせきのうほうしょう※)に対して、ビタミンB群の一種であるビオチンを摂取する治療法です。前橋賢医師(故人)は、ビオチンにプラスして、酪酸菌(宮入菌)を主成分とする整腸剤のミヤBM(ミヤリサン製薬)、そしてビタミンCの摂取も指導していました。

※掌蹠膿疱症は、自己免疫性疾患です。免疫細胞が扁桃炎や歯周病などの感染病巣に過剰に反応して、皮膚(主に手足)のタンパク質を誤って攻撃して発症します。同じ原因で、腎臓の糸球体に炎症が起こるのがIgA腎症です。

ビオチンは皮膚炎に対し,2 mg/日で保険適用があるが,有効とするこれまでの報告は,それを超える 4.5~9 mg/日の高用量療法を行っている.





 ビオチンは、水溶性であるビタミンB群の一種で、「ビタミンB7」「ビタミンH」とも呼ばれています。
ビオチン(Wikipediaより)


 ビオチンは、脂肪酸・グルコース・アミノ酸の代謝に関連する4つの酵素(アセチルCoAカルボキシラーゼ、 プロピオニルCoAカルボキシラーゼ、3-メチルクロトニルCoAカルボキシラーゼ、 ピルビン酸カルボキシラーゼ)の働きを助けます(補酵素)。
 そして、人間の体内で、腸粘膜の維持や免疫機能にビオチンは関わっています。
 また、免疫応答や細胞の生存などに関係するNF-κB(エヌエフ・カッパー・ビー、核内因子κB)の活性化を抑えて、皮膚の健康維持や炎症の抑制にも重要な役割を果たします。

細菌などの病原体が身体に侵入してくると、免疫系がそれを異物(抗原)として認識・排除するための様々な反応を発動します。B 細胞による抗体の産生は、その重要な反応のひとつです。B 細胞の表面にある抗原受容体(BCR)が抗原を受け取ると、細胞内でシグナルが誘導されます。シグナルは、多様な経路をたどり、核内に伝わって、機能、増殖、分化を決定する転写因子を活性化します。活性化した転写因子は、B 細胞の活性化や免疫応答に必要な遺伝子を発現させます。転写因子である NF-κBは、このような B 細胞活性化の中心的役割を担っています。したがって、NF-κB の活性化に関わる分子が欠損すると、免疫不全を招き、逆に NF-κB の過活性は、自己免疫疾患やがんを誘導します。このことから、NF-κB 活性化の機構を理解し、適切に調節することが、これらの病気を制御するために大切と考えられます。



 ビオチンがかなり欠乏すると、以下の症状が引き起こされます。
○皮膚異常(炎症、脱毛、粘膜症状、掌蹠膿疱症、アトピー性皮膚炎、急性・慢性湿疹、脂漏性湿疹、小児湿疹)
○神経障害(筋緊張低下、知覚異常、痙攣、発達遅延)
○食欲不振、吐き気,悪心
○うつ症状

 長期にわたって血液透析を受けている患者さんに、上記の症状と神経障害が見られます。そして、ビオチン投与で神経障害が改善したという報告もありました。 
 加えて、ビオチンの主な代謝物であるビオチン-d-スルホキシドやビスノルビオチンなどが、腎機能の低下で尿として排泄されていないというデータがあります。

 植物や細菌、酵母などが、以下の経路でビオチンを合成します。

ピメリン酸→ピメリル-CoA→7一ヶトー8一アミノペラルゴン酸→7,8-ジアミノペラルゴン酸→デチオビオチン→ビオチン

 人間の体内でビオチンは作り出されないので、食事で摂取したものか、腸内細菌が産生したものを大腸から取り入れるかのどちらかになります。
 食品の中でビオチンは、遊離型またはタンパク質結合型で存在しています。タンパク質結合型のビオチンが体内に入ると、まず消化管の酵素(胃からのプロテアーゼと小腸・膵臓からのペプチダーゼ)の働きで、ビオシチン (ビオチニル-L-リジン) とビオチンオリゴペプチドに分解され、次に腸管の中で遊離ビオチンになります。
 遊離ビオチンは、小腸上皮細胞の刷子縁膜にあるSMVT(Sodium-dependent Multivitamin Transporter、ナトリウム依存性マルチビタミントランスポーター)という輸送体で取り込まれています。

 ビオチンを産生する腸内細菌には、以下があります。
○バクテロイデス・フラジリス
○フソバクテリウム・バリウム
○カンピロバクター・コリ

 一方、腸内には、ビオチンを消費する(遊離ビオチントランスポーターを持つ)細菌もあります。
○ラクトバチルス属 ※耐酸性が高い
○プレボテラ属 ※通常では胃で生きられない
○ビフィズス菌 ※酸素に弱い、胃酸や胆汁などでほとんど死滅
○ルミノコッカス属  ※耐酸性が高い
 ネズミの実験では、腸内の酸性度が高いとき(腸管pHの低下時)に、ビオチンの取り込みが促されると確認されています。乳酸菌は乳酸を産生し、酸性度を高めます。


■主な参考資料
PPP community

皮膚疾患における扁桃摘出術の適応を考える


腎臓病におけるビオチン・エピジェネティックスを指向したNMRメタボロミクス研究

日本人の水溶性ビタミン必要量に関する基礎的研究 

扁桃病巣感染症

掌蹠膿疱症性骨関節炎に関する研究

ビオチン及び SMVT による腸の恒常性維持機構

ビタミンB群の栄養における腸内細菌叢の中間的役割とヒトの健康への影響

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