「スキンケアの常識」こそアトピーの元凶だと皮膚科医が問題点を指摘

 起床後に洗顔料で顔を洗い、化粧水や乳液といった基礎化粧品をつける。出かける前に化粧をする。帰宅後に化粧を落とし、入浴中に洗顔料で顔を洗う。おふろ上がりと寝る前に、基礎化粧品などを塗る……これが多くの女性の習慣です。

 「こんな生活では、皮膚のバリア機能が破壊されます」と須階富士雄医師(芝皮フ科クリニック院長)は苦い顔をしていました。

 女性たちの「スキンケアの常識」が、皮膚科医の目には「皮膚のバリア機能を破壊する非常識な行為」に映るようです。問題点はどこにあるのでしょうか。

洗顔料は泡立てればいいというものでもなさそう……

「肌に優しい洗顔料」は
存在しない

 最初に、皮膚の仕組みを簡単におさらいしましょう。

 人間の皮膚の表面にある表皮には、4つの層があります。いちばん下の基底層で作られた角化細胞が有棘層、顆粒層を経て角質層に到達し角質細胞になります。角質細胞は2週間ほどで垢になってはがれ落ちます。これが新陳代謝です。

 角質層をブロック塀にたとえると、角質細胞はブロックのように積み上がっています。そして、角質細胞の間をセメントのように埋めているのが細胞間脂質です。さらに、皮脂と汗が混ざってできた皮脂膜が、角質層をカバーしています。こうした構造で外部からの異物の侵入や、内部からの水分の蒸発を防ぎ、皮膚のバリア機能を発揮するのです。

 「新陳代謝が行われている皮膚は、そもそも洗う必要がないのです。それなのに、何度も洗うから皮脂膜が形成されなくなっています」と須階医師。

 洗顔料の主成分である界面活性剤は、水と油をなじみやすくする物質です。界面活性剤の問題点も、須階医師は指摘していました。

 「細胞間脂質のセラミドなどは、界面活性剤で流出します。その結果、角質細胞がはがれ落ちてしまうのです」

 「洗顔後もしっとり」する洗顔料もあります。しかし、「洗い流した後も界面活性剤の作用が残って、細胞間脂質が溶け出すからしっとりと感じるわけです。そもそも、『肌に優しい洗顔料』は存在しません」と須階医師は断言。

 界面活性剤は乳液・クリームにも配合されています。基礎化粧品も、皮膚のバリア機能を破壊しているのです。

 体も洗いすぎれば皮膚のバリア機能を破壊されます。その結果、カサカサに乾燥したり、外部から異物が侵入してかゆみが生じたりしやすくなるのです。まさにアトピー性皮膚炎の症状です。

「アトピーはもはや子どもの病気ではなく、40代、50代の患者さんが増えています。アレルギーより、誤ったスキンケアによるバリア機能の低下のほうがアトピーに大きくかかわっている証拠だと言えます」

患者のタイプによって
保湿剤を使い分ける

 須階医師がアトピー性皮膚炎の患者に最初に行うのは、カウンセリングです。

 そして、症状に合わせて保湿剤を処方します。「赤みがあるか、どの程度乾燥しているか、かゆみは強いかなど、1人ひとり違います。タイプによって保湿剤を使い分けることが重要です。乾燥が激しくかゆみがある場合には、私が開発したセラミドの前駆体(セラミドが生成される前の段階にある物質)の保湿クリームを使うこともあります」と須階医師。

 「アトピーの患者さんに接してきて思うのは、ご自分の皮膚を観察していないということ。どんな治療法がある、どこにクリニックがあるなど、外部の情報に気を取られすぎています。それよりも皮膚をじっくりと見てください。習慣を変えて、保湿することで、日々、症状は改善していきます。そして3カ月ぐらいで目に見える変化が現れるはずです」

須階富士雄(すがい ふじお)
1962年、東京都生まれ。89年、聖マリアンナ医科大学を卒業後、東京慈恵会医科大学皮膚科に入局。東京慈恵会医科大学附属柏病院・町田市民病院での勤務を経て、96年に芝皮フ科クリニックを開院。

※この記事は、2017年9月26日に須階医師をインタビューした内容をもとに作成しています。最新情報は須階医師に直接お尋ねください。


文/森 真希(もり・まき)
医療・教育ジャーナリスト。大学卒業後、出版社に21年間勤務し、月刊誌編集者として医療・健康・教育の分野で多岐にわたって取材を行う。2015年に独立し、同テーマで執筆活動と情報発信を続けている。

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