痛みやこりが解消して体を楽に動かせる! 靴の中敷きの効果
インソール(靴の中敷き)については、足のニオイ消しや靴のサイズ調整などでこれまでに使った経験がある人は多いでしょう。「靴の中に入れるものはすべてインソールなのですが、目的や役割で分類できるんです」と教えてくれたのは、義肢装具士の大平吉夫さん。
義肢装具士は義手や義足、装具を製作する専門家で、「医師の指示の下に、義肢及び装具の装着部位の採型並びに義肢及び装具の製作及び身体への適合を行うことを業とする者」と法律で定められています。インソールは装具の一種で、足に潰瘍ができたりひざ痛で歩行が困難になったりしたときなど、さまざまなトラブルの対策に使われています。
加えて、トップクラスのアスリートはパフォーマンスを高めるために、インソールを愛用しています。「特にプロゴルファーには多いですね」と大平さん。
人の目にさらされる機会がほとんどない、地味な存在のインソールですが、実に多様な機能を発揮しているようです。
「適合的インソール」と「機能的インソール」に
大別できる
インソールは、目的や役割で次の2つに大別できます。
①「適合的インソール」 糖尿病などによる足の病気や痛み、その他トラブルがあるときに、症状緩和のために使われる。消臭やサイズ調整が目的の場合も、こちらに含まれる。
②「機能的インソール」 スポーツ競技などでの関節への負担を減らし、パフォーマンスを上げるために使われる。
「適合的か機能的かを判断してから、私たちはインソールを作っています。もちろん、同時に2つの役割を果たすインソールもあります」と大平さんは説明してくれました。
インソールが足だけでなく全身にも影響を与えるのは、人間特有の体の構造のためです。
私たち人間は2本の足で立って、歩いています。そして、体重の約10%の重さである頭が最も高い位置に存在するという、非常に不安定な構造をしています。
全体重を支えているのは、狭い足の裏です。当然、足の裏に負担がかかります。
そのような足は、複雑な構造をしています。まず、両足合わせて骨の数が56個もあります。全身の骨の数が約206個なので、およそ4分の1の骨が足にあるというわけです。
そして、たくさんの骨や筋肉が腱・靱帯でつながれて、土踏まずの「内側アーチ」、小指の付け根からかかとまでの「外側アーチ」、親指の付け根から小指の付け根までの「横アーチ」を形成。3つのアーチが、着地時の衝撃を和らげるクッションの役目を果たしたり、立っているときのバランスを保ったりしているのです。
ただ、衝撃の緩和やバランス維持で働いているのは、足の裏だけではありません。全身の筋肉や関節がしなやかに動くことも、大きく関係しています。そのため、体の中で一部の筋肉の動きが悪くなると、複雑な構造をしている足が変形することで、全身のバランスを取るように対応するのです。「土踏まずがなくなってしまう『偏平足』は、その一つ。体を安定させるために起こる『代償』なのです」と大平さん。
例えば、長期にわたってハイヒールを履き続けた女性の場合、アキレス腱とふくらはぎの筋肉が縮んで硬くなっています。この状態でヒールの低い靴を履くと、アキレス腱とふくらはぎの筋肉が伸びない分、土踏まずをつぶして代償しています。
こうして偏平足になると、ふくらはぎの外側の筋肉が使われるようになってО脚になり、ひざに痛みが起こりやすくなります。
О脚になると、骨盤が後ろに傾き、背中が丸まります。
背中が丸まると、顔を前に突き出してバランスを取ろうとするため、肩こりや首の痛みが引き起こされます。
このように、足が変形すると、体の上へと悪影響が及ぶのです。
「実は、足自体の痛みよりも、ひざや腰の痛みのほうが早く現れるんです。足が痛むようになった時点で、体のバランスはかなり悪化しているというわけです」
体が疲れにくくなって
生活が楽になる
残念ながら、筋肉や骨は年齢とともに老化していきます。そのため、腰痛やひざ痛、肩こりなどは若い頃よりも起こりやすくなります。
「一つの節目が60代ですね。定年退職で生活のリズムが変わり、体を動かす機会が減ってしまう人は少なくありません。こうして筋肉が衰えてしまいやすいのです。また女性は閉経から10年ほどたった頃なので、その影響が現れやすいと言えます」と大平さん。
若い年代でも、普段からランニングやテニスなどの運動を行っている人は、足をじゅうぶんにケアしたほうがよさそうです。足が変形し、体のバランスがきちんと取れていない状態で運動を続けていれば、関節を傷めてしまいます。
偏平足になりかけていたら、土踏まずをサポートするインソールを使用することで全身のバランスが整って安定します。すると痛みやこりの解消はもちろん、体が疲れにくくなって生活が楽になるし、運動をもっと楽しめるようになります。
昔から「人は足から老いる」といわれています。私たちの体の土台である足をケアすると同時に、インソールを上手に利用するといいでしょう。
〇大平吉夫(おおひら よしお)
日本フットケアサービス株式会社 代表取締役社長。1993年 中部リハビリテーション専門学校卒業。1993年 有限会社えびす義肢共同設立 。2002年 米国Langer Biomechanics社 バイオメカニクス研修 。2005年 米国San Antonio Foot&Ankle Center Dr,Glenn A.Ocker,DPM(足病専門医)と顧問契約締結、米国Integrity Orthotic Laboratories ,Inc との装具製作技術提携を開始。2006年 日本フットケアサービス株式会社設立。
※この記事は、2018 年4月6日に大平吉夫氏をインタビューした内容をもとに作成しています。最新情報は大平氏に直接お尋ねください。
義肢装具士は義手や義足、装具を製作する専門家で、「医師の指示の下に、義肢及び装具の装着部位の採型並びに義肢及び装具の製作及び身体への適合を行うことを業とする者」と法律で定められています。インソールは装具の一種で、足に潰瘍ができたりひざ痛で歩行が困難になったりしたときなど、さまざまなトラブルの対策に使われています。
加えて、トップクラスのアスリートはパフォーマンスを高めるために、インソールを愛用しています。「特にプロゴルファーには多いですね」と大平さん。
人の目にさらされる機会がほとんどない、地味な存在のインソールですが、実に多様な機能を発揮しているようです。
「適合的インソール」と「機能的インソール」に
大別できる
インソールは、目的や役割で次の2つに大別できます。
①「適合的インソール」 糖尿病などによる足の病気や痛み、その他トラブルがあるときに、症状緩和のために使われる。消臭やサイズ調整が目的の場合も、こちらに含まれる。
②「機能的インソール」 スポーツ競技などでの関節への負担を減らし、パフォーマンスを上げるために使われる。
「適合的か機能的かを判断してから、私たちはインソールを作っています。もちろん、同時に2つの役割を果たすインソールもあります」と大平さんは説明してくれました。
インソールが足だけでなく全身にも影響を与えるのは、人間特有の体の構造のためです。
私たち人間は2本の足で立って、歩いています。そして、体重の約10%の重さである頭が最も高い位置に存在するという、非常に不安定な構造をしています。
全体重を支えているのは、狭い足の裏です。当然、足の裏に負担がかかります。
そのような足は、複雑な構造をしています。まず、両足合わせて骨の数が56個もあります。全身の骨の数が約206個なので、およそ4分の1の骨が足にあるというわけです。
そして、たくさんの骨や筋肉が腱・靱帯でつながれて、土踏まずの「内側アーチ」、小指の付け根からかかとまでの「外側アーチ」、親指の付け根から小指の付け根までの「横アーチ」を形成。3つのアーチが、着地時の衝撃を和らげるクッションの役目を果たしたり、立っているときのバランスを保ったりしているのです。
ただ、衝撃の緩和やバランス維持で働いているのは、足の裏だけではありません。全身の筋肉や関節がしなやかに動くことも、大きく関係しています。そのため、体の中で一部の筋肉の動きが悪くなると、複雑な構造をしている足が変形することで、全身のバランスを取るように対応するのです。「土踏まずがなくなってしまう『偏平足』は、その一つ。体を安定させるために起こる『代償』なのです」と大平さん。
例えば、長期にわたってハイヒールを履き続けた女性の場合、アキレス腱とふくらはぎの筋肉が縮んで硬くなっています。この状態でヒールの低い靴を履くと、アキレス腱とふくらはぎの筋肉が伸びない分、土踏まずをつぶして代償しています。
こうして偏平足になると、ふくらはぎの外側の筋肉が使われるようになってО脚になり、ひざに痛みが起こりやすくなります。
О脚になると、骨盤が後ろに傾き、背中が丸まります。
背中が丸まると、顔を前に突き出してバランスを取ろうとするため、肩こりや首の痛みが引き起こされます。
このように、足が変形すると、体の上へと悪影響が及ぶのです。
「実は、足自体の痛みよりも、ひざや腰の痛みのほうが早く現れるんです。足が痛むようになった時点で、体のバランスはかなり悪化しているというわけです」
体が疲れにくくなって
生活が楽になる
残念ながら、筋肉や骨は年齢とともに老化していきます。そのため、腰痛やひざ痛、肩こりなどは若い頃よりも起こりやすくなります。
「一つの節目が60代ですね。定年退職で生活のリズムが変わり、体を動かす機会が減ってしまう人は少なくありません。こうして筋肉が衰えてしまいやすいのです。また女性は閉経から10年ほどたった頃なので、その影響が現れやすいと言えます」と大平さん。
若い年代でも、普段からランニングやテニスなどの運動を行っている人は、足をじゅうぶんにケアしたほうがよさそうです。足が変形し、体のバランスがきちんと取れていない状態で運動を続けていれば、関節を傷めてしまいます。
偏平足になりかけていたら、土踏まずをサポートするインソールを使用することで全身のバランスが整って安定します。すると痛みやこりの解消はもちろん、体が疲れにくくなって生活が楽になるし、運動をもっと楽しめるようになります。
昔から「人は足から老いる」といわれています。私たちの体の土台である足をケアすると同時に、インソールを上手に利用するといいでしょう。
〇大平吉夫(おおひら よしお)
日本フットケアサービス株式会社 代表取締役社長。1993年 中部リハビリテーション専門学校卒業。1993年 有限会社えびす義肢共同設立 。2002年 米国Langer Biomechanics社 バイオメカニクス研修 。2005年 米国San Antonio Foot&Ankle Center Dr,Glenn A.Ocker,DPM(足病専門医)と顧問契約締結、米国Integrity Orthotic Laboratories ,Inc との装具製作技術提携を開始。2006年 日本フットケアサービス株式会社設立。
※この記事は、2018 年4月6日に大平吉夫氏をインタビューした内容をもとに作成しています。最新情報は大平氏に直接お尋ねください。
文/森 真希(もり・まき)
医療・教育ジャーナリスト。大学卒業後、出版社に21年間勤務し、月刊誌編集者として医療・健康・教育の分野で多岐にわたって取材を行う。2015年に独立し、同テーマで執筆活動と情報発信を続けている。
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