「洗いすぎると汚くなるのです」 皮膚病の原因は洗いすぎだった
人間が一生を共にするパートナー。それが細菌です。
私たちは、オギャーと産声を上げる前に母親の産道などで細菌と出合います。この瞬間に、消化管や口の中、皮膚などに細菌を棲まわせるのです。
細菌が最も多くいるのが腸で、その数は100兆~1000兆個。人体を構成する細胞が約60兆個ということは、腸の中だけで細胞の数よりはるかに多い細菌がいるわけです。腸内細菌は、悪玉菌の感染を予防したり、免疫活性を上げたり、人間が消化できない栄養分を消化したり、さまざまな役目を果たしています。人間と細菌は、まさに「共栄共存」の関係。
これほど慣れ親しんでいる細菌なのですが、日本人にはなぜか「たくさんの菌がいるのは汚いことだ」という概念が植え付けられているようです。テレビでは「除菌」「抗菌」グッズのコマーシャルが、繰り返し流れてきます。生まれたときから私たちは多種多様な菌と仲良く暮らしてきたはずなのに……
「行き過ぎた除菌・抗菌は健康に悪影響を与える」と警鐘を鳴らす細菌学者や医師は多く、「清潔すぎる環境に育った子どもは免疫の発達が弱く、アレルギー性疾患になりやすい」などの研究報告もあります。
身近な細菌について、どうやら私たちが誤解していることが多すぎるようです。
「洗いすぎると
汚くなるのです」
科学技術の進歩で、人間の体に棲む細菌の研究が急激に進んでいます。
1950年代に腸内細菌の培養研究が進み、どのような構成をしているかが明らかになってきました。しかし、腸内細菌のほとんどが酸素を嫌うため、培養できる細菌はほんの数割に過ぎなかったのです。
ところが1990年代に入って遺伝子を解析する技術が進展し、2000年代には「メタゲノム解析」で一括して遺伝子情報を調べられるようになりました。そのおかげで、培養困難な腸内細菌が発見されるようになったのです。こうしてアメリカやヨーロッパなど各国で腸内細菌の研究が進められ、続々と論文が発表されています。
こうした研究の結果、人間の腸や口の中、皮膚、鼻など、体の穴という穴すべてに棲む細菌たちは、互いに勢力争いをしたり、一致団結したりしながら複雑なネットワークを作っていることがわかってきました。
例えば皮膚。「ばい菌をやっつけよう!」と殺菌消毒成分を含む石けんで体を洗っている人も多いのではないでしょうか。実はこれが、皮膚の細菌に悪影響を与え、「バリア機能」を低下させているのです。
皮膚の表面には「皮膚常在菌」がいます。その数は、手の表面の皮膚で1平方センチ当たり約1000個といわれています。皮膚常在菌には、善玉菌である「表皮ブドウ球菌」と悪玉菌の「黄色ブドウ球菌」などがあります。
表皮ブドウ球菌は、皮脂や汗をエサにして、皮膚の表面を弱酸性に保ちます。こうして、アルカリ性を好む黄色ブドウ球菌やカビなどの繁殖を防いでいるのです。
ところが、殺菌消毒成分を含む石けんで体を洗うと、皮膚常在菌が洗い流されます。石けんはアルカリ性であるため、皮膚の表面もアルカリ性に傾きます。そして悪玉菌たちが勢力を伸ばすというわけです。
『清潔はビョーキだ』など多数の著書がある東京医科歯科大学名誉教授の藤田紘一郎氏は、東京医科歯科大学の皮膚科を受診した患者を調べたところ、およそ3人に1人が洗いすぎによる疾患だと報告していました。「洗いすぎると汚くなるのです」と藤田氏は語っています。
細菌も人間社会と同様に
「バランス」が大事
日常よく耳にする「善玉菌」「悪玉菌」「日和見菌」という言葉を最初に使ったのは、腸内細菌学のパイオニアである東京大学名誉教授の光岡知足氏です。
光岡氏は、腸内細菌の生態系である「腸内フローラ」は人間社会の縮図のようだと語っていました。
人間社会はさまざまなタイプの人がいることでバランスが保たれています。悪がはびこれば社会は腐敗するが、すべての悪を排除しようとする「排他主義」では全体の調和が崩れます。
腸内フローラも、善玉菌が2割あれば、大多数の日和見菌も安定し、悪玉菌からの影響を受けにくいのです。人間社会と同様、「悪玉さえ追っ払ってしまえばいい」という単純な勧善懲悪では、腸内フローラの調和が崩れます。善玉菌を一定の割合に保つことが重要なのです。
私たちは、オギャーと産声を上げる前に母親の産道などで細菌と出合います。この瞬間に、消化管や口の中、皮膚などに細菌を棲まわせるのです。
細菌が最も多くいるのが腸で、その数は100兆~1000兆個。人体を構成する細胞が約60兆個ということは、腸の中だけで細胞の数よりはるかに多い細菌がいるわけです。腸内細菌は、悪玉菌の感染を予防したり、免疫活性を上げたり、人間が消化できない栄養分を消化したり、さまざまな役目を果たしています。人間と細菌は、まさに「共栄共存」の関係。
これほど慣れ親しんでいる細菌なのですが、日本人にはなぜか「たくさんの菌がいるのは汚いことだ」という概念が植え付けられているようです。テレビでは「除菌」「抗菌」グッズのコマーシャルが、繰り返し流れてきます。生まれたときから私たちは多種多様な菌と仲良く暮らしてきたはずなのに……
「行き過ぎた除菌・抗菌は健康に悪影響を与える」と警鐘を鳴らす細菌学者や医師は多く、「清潔すぎる環境に育った子どもは免疫の発達が弱く、アレルギー性疾患になりやすい」などの研究報告もあります。
身近な細菌について、どうやら私たちが誤解していることが多すぎるようです。
「洗いすぎると
汚くなるのです」
科学技術の進歩で、人間の体に棲む細菌の研究が急激に進んでいます。
1950年代に腸内細菌の培養研究が進み、どのような構成をしているかが明らかになってきました。しかし、腸内細菌のほとんどが酸素を嫌うため、培養できる細菌はほんの数割に過ぎなかったのです。
ところが1990年代に入って遺伝子を解析する技術が進展し、2000年代には「メタゲノム解析」で一括して遺伝子情報を調べられるようになりました。そのおかげで、培養困難な腸内細菌が発見されるようになったのです。こうしてアメリカやヨーロッパなど各国で腸内細菌の研究が進められ、続々と論文が発表されています。
こうした研究の結果、人間の腸や口の中、皮膚、鼻など、体の穴という穴すべてに棲む細菌たちは、互いに勢力争いをしたり、一致団結したりしながら複雑なネットワークを作っていることがわかってきました。
例えば皮膚。「ばい菌をやっつけよう!」と殺菌消毒成分を含む石けんで体を洗っている人も多いのではないでしょうか。実はこれが、皮膚の細菌に悪影響を与え、「バリア機能」を低下させているのです。
皮膚の表面には「皮膚常在菌」がいます。その数は、手の表面の皮膚で1平方センチ当たり約1000個といわれています。皮膚常在菌には、善玉菌である「表皮ブドウ球菌」と悪玉菌の「黄色ブドウ球菌」などがあります。
表皮ブドウ球菌は、皮脂や汗をエサにして、皮膚の表面を弱酸性に保ちます。こうして、アルカリ性を好む黄色ブドウ球菌やカビなどの繁殖を防いでいるのです。
ところが、殺菌消毒成分を含む石けんで体を洗うと、皮膚常在菌が洗い流されます。石けんはアルカリ性であるため、皮膚の表面もアルカリ性に傾きます。そして悪玉菌たちが勢力を伸ばすというわけです。
『清潔はビョーキだ』など多数の著書がある東京医科歯科大学名誉教授の藤田紘一郎氏は、東京医科歯科大学の皮膚科を受診した患者を調べたところ、およそ3人に1人が洗いすぎによる疾患だと報告していました。「洗いすぎると汚くなるのです」と藤田氏は語っています。
細菌も人間社会と同様に
「バランス」が大事
日常よく耳にする「善玉菌」「悪玉菌」「日和見菌」という言葉を最初に使ったのは、腸内細菌学のパイオニアである東京大学名誉教授の光岡知足氏です。
光岡氏は、腸内細菌の生態系である「腸内フローラ」は人間社会の縮図のようだと語っていました。
人間社会はさまざまなタイプの人がいることでバランスが保たれています。悪がはびこれば社会は腐敗するが、すべての悪を排除しようとする「排他主義」では全体の調和が崩れます。
腸内フローラも、善玉菌が2割あれば、大多数の日和見菌も安定し、悪玉菌からの影響を受けにくいのです。人間社会と同様、「悪玉さえ追っ払ってしまえばいい」という単純な勧善懲悪では、腸内フローラの調和が崩れます。善玉菌を一定の割合に保つことが重要なのです。
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