どうして世界は不均衡なのだろうか 『銃・病原菌・鉄』

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ある社会が他の社会と衝突し、勝者が敗者を征服して取り込む、あるいは消滅させていく。人類史の過程において何度も繰り返されてきたことである。これによって歴史は大きく動き、世界地図における民族の分布が塗り替えられていった。

その勝敗を決めた要因とは何か。それはたんに銃器や金属製の武器の有無だけではなかった。 政治形態、戦闘要員を支える社会基盤、戦闘用の馬の存在、情報の伝達と保持のための文字文化の存在、さらには、その社会がもつ病原菌も大きく影響していたのである。

--- 袖の文章より抜粋





 15~17世紀の大航海時代に、文明がそれほど発達していなかったヨーロッパ諸国が、なぜ他の地域を凌駕したのだろうか……

 そんな疑問に対する答えが、ヨーロッパ諸国の人々が銃・病原菌・鉄を持っていたこと。そして、農耕民族か狩猟採集民族かの違いでした。



 農耕民族は、おとなしくて温厚。

 狩猟民族は、勢い任せで乱暴。

 これは大間違いで、真逆だったというわけです。



 この本で、特にショッキングで印象に残ったのは、1835年に、ニュージーランドの農耕民族であるマオリ族の人々が、チャタム諸島に住む狩猟採集民族のモリオリ族を殺しただけでなく、食べてしまったことでした。



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彼らは、もめごとはおだやかな方法で解決するという伝統にのっとって会合を開き、抵抗しないことに決め、友好関係と資源の分かち合いを基本とする和平案をマオリ族に対して申し出ることにした。

 しかしマオリ族は、モリオリ族がその申し出を伝える前に、大挙して彼らを襲い、数日のうちに数百人を殺し、その多くを食べてしまった。

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 狩猟採集民族は、自然の恵みを受け取るしかないわけで、それを仲良く分配すると同時に、いさかいが起こらないように人口調整を行っていました。そもそも狩りで移動するのについてこられない幼子や病人は、置いてきぼりになっていたわけです。

 狩猟採集民族は、自分たちを環境に適応させる文化でした。



 一方の農耕民族は、畑作や稲作のために定住します。同時に家畜を飼います。すると多くの食糧が得られるので、人口は増え続けます。また、農業を効率よく行うために、組織化も進みます。

 その結果、増加する人口に見合う食糧生産のための土地を求め、外の地域へと目を向けるわけです。

 農耕民族は、農業のために環境を壊しながら、他の地域に進出し、戦闘によって土地を奪い去る文化を作っていったわけです。



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モリオリ族とマオリ族とが衝突にいたる過程は、短い期間であっても、環境が経済や技術、社会構成、そして戦闘技術に影響をおよぼしうることを如実に物語っている。

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 狩猟採集民族のモリオリ族を虐殺・食人・奴隷化したマオリ族は、残虐な人々に見えますが、農耕民族の文化では「それが妥当なやり方」と判断されたのでしょう。



 また、農耕民族は家畜を飼うことで、動物からウイルスを感染。多くの人が死にますが、生き残った人には抗体ができました。

 狩猟採集民族での生活では、抗体はできません。そのため、農耕民族と接触した狩猟採集民族は、感染症にかかり、バタバタと死んでいったのです。



 そのほか、集団生活を送り、組織化した農耕民族には、税という制度が生まれ、記帳するために文字が生まれました。ですから情報伝達が容易にできました。

 狩猟採集民族については、生活において文字を使う必要がありません。情報弱者であったわけです。



 以上のように、農耕民族が「持つ人」として、「持たざる人」の狩猟採集民族を追い払っていったというのが、人間の歴史だといえそうです。



 そのほかには、技術などを持っていたにもかかわらず、支配階級が技術放棄を促したために「持たざる人」になり、植民地化されたというケースもありました。

 それが中国です。羅針盤と火薬、紙、印刷は「中国の四大発明」と呼ばれていますが、大航海時代は中国ではなく、中東を経由して羅針盤が伝わったヨーロッパに訪れました。

 当時の明の皇帝たちは、発明よりも国内の政治的争いのほうに興味があったのかもしれません。



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政治や技術の分野において、中国が自分たちよりも遅れていたヨーロッパにリードを奪われてしまった理由を理解することは、すなわち、中国の長期にわたる統一とヨーロッパの長期にわたる不統一の理由を理解することになる。

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 大航海時代のヨーロッパは、中国とは対照的に、政治的に統一されていませんでした。この本ではコロンブスの例が出ていましたが、大航海がしたいと申し出たところ、3人の君主に断られ、4人目の君主に聞き入れられたのだそうです。

 統一されていない分だけ、チャンスもあったということになります。



 ヨーロッパが統一されてこなかったのには、入り組んだ海岸線や山脈など、地形も関係しているようです。



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地域による文明の格差や差異は、地理や資源といった地の利による長年の結実であり、人種とは本質的に無関係である。

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 人間社会の展開に与えたと考えられる環境上の要因として、次の4つが挙げられていました。

1 栽培化や家畜化の候補となりうる動植物の分布状況が大陸によって異なっていた

2 農作物や家畜は栽培・飼育技術とともに、各地に伝播していったが、伝播の速度には地理的要因が大きく影響していた(東西方向には気象条件が近いことから伝播しやすいが、南北方向には困難だった)

3 高い山や砂漠などで地理的に孤立していた

4 大陸の広さと人口が違っていた(人間が多いほど競争があり、発明も多く、新しい技術を取り入れる機会がある)



 人種や民族として劣っているから征服されたとか、優れているものが勝つということとは異なる視点が必要なのかもしれません。歴史について、もう一度考え直したくなる一冊でした。







 

 


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