どうして月経痛が起こるのだろうか ~子宮筋腫 その3 薬物療法と対症療法<西洋薬>
子宮筋腫は良性の腫瘍のため、日常生活に支障がなければ経過観察を行うことは珍しくありません。
また、症状の改善などのために薬剤が処方されたり投与されたりします。今回は西洋薬について調べてみました。
<痛み>鎮痛剤 保険適用
非ステロイド系消炎鎮痛剤が一般的によく使われています。
<過多月経>止血剤 保険適用
子宮内膜の出血を止める機能を改善する薬剤ですが、効果はあまり強くありません。
<過多月経による貧血>鉄剤(造血剤) 保険適用
過多月経で失われた血液中の鉄分を補うために、鉄剤が処方されます。
鉄剤でむかむか感などの胃腸症状が出ることがあるので、鉄剤と一緒に胃腸薬を飲むか、注射に切り替えます。
貧血については、体が慣れてしまって本人が気づいてなく、健康診断や献血でヘモグロビン値が低すぎて、初めて貧血に気づくこともあります。
<過多月経>ピル 保険適用
女性ホルモンのエストロゲンとプロゲステロンが主成分の薬剤です。妊娠中と似たような状態を作り出すことから「偽妊娠療法」と呼ばれています。
ピルを飲むことで血液中の女性ホルモン濃度が上がると、間脳の下垂体は「妊娠していて、すでに女性ホルモンが分泌されている」と判断して、卵巣に女性ホルモンを分泌しなさいという指令(FSH、LH)を出さなくなります。
こうして卵巣が休眠状態になるため、卵胞が発育せず、排卵が抑えられます。そして子宮内膜が厚くならないため、経血量が減少するのです。
中用量ピルと低用量ピルがあり、その違いはエストロゲンの配合量にあります。 配合量が多い中用量ピルは効果が強い反面、副作用のリスクが高くなります。
ピルを飲むことで血液中のプロゲステロンの濃度が高くなると、血栓ができるリスクが高まります。そのため、喫煙習慣や年齢(40歳以上)、高血圧、肥満といった血栓ができやすい状態の人には勧められていませんでした。
<過多月経>黄体ホルモン剤(ジェノゲストなど) 保険適用
プロゲステロンが主成分の薬剤。エストロゲンの分泌が保たれるので、更年期の症状や骨粗鬆症といった副作用がありません。
<過多月経>子宮内黄体ホルモン放出システム(IUS) 保険適用
プロゲステロンの一種であるレボノルゲストレルを、子宮内に直接放出する器具。商品名の「ミレーナ」がよく知られています。
子宮内膜の増殖を抑える働きがあるため、経血量を減少させて月経痛を軽くします。
子宮内にプロゲステロンが直接放出されるため、血栓症のリスクがある場合にも使用できます。
しかし、子宮の内部が変形していると、使えないことがあります。
なお、GnRHアゴニストとGnRHアンタゴニストを、GnRHアナログと総称することがあります。GnRHアナログとは、視床下部から分泌される自然のGnRHの数十倍から数百倍の強い生理活性を持つ人工ホルモンです。
GnRHアゴニスト(GnRH受容体作動薬) 保険適用
GnRH(性腺刺激ホルモン放出ホルモン)の受容体(レセプター)に結合する薬剤で、LHRHアゴニストとも呼ばれています。
この薬剤でGnRHへの下垂体の反応が弱まるため、エストロゲンの分泌量が減ります。閉経と似たような状態を作り出すことから「偽閉経療法」と呼ばれています。
受容体が反応しなくなるため(感受性の低下)、治療をやめても卵巣機能が戻ります。そのまま閉経するので、「逃げ込み療法」とも呼ばれています。
子宮筋腫が小さくなるので、手術前にGnRHアゴニストが投与されることがあります。
GnRHアゴニストを使い始めると、一時的にFSHが放出され、また、たくさんのLHが分泌されるので、エストロゲンの分泌量が増え、不正出血することがあります(フレアアップ現象)。その後、下垂体の受容体がGnRHに反応しなくなって、エストロゲンの分泌が低下します。
粘膜下筋腫の場合は、GnRHアゴニストを使うと大出血を起こしやすくなるため、その使用には慎重を期す必要があります。
点鼻薬と注射薬があり、どちらも最大6カ月間使用した後、6カ月間は休薬することになっています。それ以上使い続けると、ホットフラッシュ・不眠・イライラ・抜け毛などの更年期症状や、骨粗鬆症などの副作用が強くなるためです。
注射薬の場合、治療後は治療前のホルモン状態に戻るまで2~3カ月かかります。ですから副作用が現れた場合、薬をやめても2~3カ月間は症状が続く可能性もあります。
薬剤費は、1カ月約5000~8000円。
GnRHアンタゴニスト(GnRH受容体拮抗薬) 保険適用
GnRHアゴニストと同様に受容体に作用するのですが、それによって受容体の活動を抑制する薬剤で、経口剤(飲み薬)です。LHRHアンタゴニストとも呼ばれています。
フレアアップ現象がなく、GnRHアゴニストよりも副作用が出にくいとされています。そして薬をやめた後は元に戻りやすく、副作用もすぐに消えます。
ただアレルギーなどを起こすため、一般には使用されていません。
薬剤費は、1カ月約8000円。
選択的プロゲステロン受容体調節剤(SPRM) 保険適用外、日本では承認申請中
プロゲステロンの受容体に結合する薬剤で、子宮筋腫縮小・月経量減少が報告されています。
海外では、過多月経を伴う子宮筋腫に効果が高く、副作用が少ない薬剤として注目されています。
子宮内膜が厚くなる作用があるため、3カ月投与した後、2カ月休薬します。
エストロゲンの一種であるエストロジオールの分泌が低下しないため、更年期障害のような副作用が起こりにくくなっています。
ダナゾール 保険適用外
男性ホルモンのような作用がある薬剤で、経口剤(飲み薬)です。これを投与すると、エストロゲンが作られにくくなることから、子宮筋腫の成長を止める効果があります。
副作用として男性化する、つまり脂性になってニキビができたり、体毛が濃くなったり、しゃがれ声になったりする可能性があります。
そしてピルと同様に、血栓症のリスクがある人には使いません。
4カ月投与した後、休薬します。
〇参考資料
東京女子医科大学 産婦人科
https://www.twmu-obgy.com/medical/shikyu.html
第 65 回日本産科婦人科学会学術講演会専攻医教育プログラム
子宮筋腫ー その治療法と適応についてー
http://jsog.umin.ac.jp/65/handout/004_ueda.pdf
さがらレディースクリニック
https://www.sagara-clinic.com/trivia/article_09.html
産婦人科クリニック さくら 院長ブログ
http://www.cl-sacra.com/archives/705/3
また、症状の改善などのために薬剤が処方されたり投与されたりします。今回は西洋薬について調べてみました。
対症療法
子宮筋腫による月経痛や過多月経などの症状については、対応する薬剤が処方されます。<痛み>鎮痛剤 保険適用
非ステロイド系消炎鎮痛剤が一般的によく使われています。
<過多月経>止血剤 保険適用
子宮内膜の出血を止める機能を改善する薬剤ですが、効果はあまり強くありません。
<過多月経による貧血>鉄剤(造血剤) 保険適用
過多月経で失われた血液中の鉄分を補うために、鉄剤が処方されます。
鉄剤でむかむか感などの胃腸症状が出ることがあるので、鉄剤と一緒に胃腸薬を飲むか、注射に切り替えます。
貧血については、体が慣れてしまって本人が気づいてなく、健康診断や献血でヘモグロビン値が低すぎて、初めて貧血に気づくこともあります。
<過多月経>ピル 保険適用
女性ホルモンのエストロゲンとプロゲステロンが主成分の薬剤です。妊娠中と似たような状態を作り出すことから「偽妊娠療法」と呼ばれています。
ピルを飲むことで血液中の女性ホルモン濃度が上がると、間脳の下垂体は「妊娠していて、すでに女性ホルモンが分泌されている」と判断して、卵巣に女性ホルモンを分泌しなさいという指令(FSH、LH)を出さなくなります。
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FSH(卵胞刺激ホルモン)とLH(黄体化ホルモン)は、卵巣に「女性ホルモンを分泌しなさい」と指令を出す |
こうして卵巣が休眠状態になるため、卵胞が発育せず、排卵が抑えられます。そして子宮内膜が厚くならないため、経血量が減少するのです。
中用量ピルと低用量ピルがあり、その違いはエストロゲンの配合量にあります。 配合量が多い中用量ピルは効果が強い反面、副作用のリスクが高くなります。
ピルを飲むことで血液中のプロゲステロンの濃度が高くなると、血栓ができるリスクが高まります。そのため、喫煙習慣や年齢(40歳以上)、高血圧、肥満といった血栓ができやすい状態の人には勧められていませんでした。
<過多月経>黄体ホルモン剤(ジェノゲストなど) 保険適用
プロゲステロンが主成分の薬剤。エストロゲンの分泌が保たれるので、更年期の症状や骨粗鬆症といった副作用がありません。
<過多月経>子宮内黄体ホルモン放出システム(IUS) 保険適用
プロゲステロンの一種であるレボノルゲストレルを、子宮内に直接放出する器具。商品名の「ミレーナ」がよく知られています。
子宮内膜の増殖を抑える働きがあるため、経血量を減少させて月経痛を軽くします。
子宮内にプロゲステロンが直接放出されるため、血栓症のリスクがある場合にも使用できます。
しかし、子宮の内部が変形していると、使えないことがあります。
薬物療法
子宮筋腫の成長を促すエストロゲンの分泌を止めることで、子宮筋腫が大きくならないようにする薬物療法を紹介します。なお、GnRHアゴニストとGnRHアンタゴニストを、GnRHアナログと総称することがあります。GnRHアナログとは、視床下部から分泌される自然のGnRHの数十倍から数百倍の強い生理活性を持つ人工ホルモンです。
GnRHアゴニスト(GnRH受容体作動薬) 保険適用
GnRH(性腺刺激ホルモン放出ホルモン)の受容体(レセプター)に結合する薬剤で、LHRHアゴニストとも呼ばれています。
この薬剤でGnRHへの下垂体の反応が弱まるため、エストロゲンの分泌量が減ります。閉経と似たような状態を作り出すことから「偽閉経療法」と呼ばれています。
受容体が反応しなくなるため(感受性の低下)、治療をやめても卵巣機能が戻ります。そのまま閉経するので、「逃げ込み療法」とも呼ばれています。
子宮筋腫が小さくなるので、手術前にGnRHアゴニストが投与されることがあります。
GnRHアゴニストを使い始めると、一時的にFSHが放出され、また、たくさんのLHが分泌されるので、エストロゲンの分泌量が増え、不正出血することがあります(フレアアップ現象)。その後、下垂体の受容体がGnRHに反応しなくなって、エストロゲンの分泌が低下します。
粘膜下筋腫の場合は、GnRHアゴニストを使うと大出血を起こしやすくなるため、その使用には慎重を期す必要があります。
点鼻薬と注射薬があり、どちらも最大6カ月間使用した後、6カ月間は休薬することになっています。それ以上使い続けると、ホットフラッシュ・不眠・イライラ・抜け毛などの更年期症状や、骨粗鬆症などの副作用が強くなるためです。
注射薬の場合、治療後は治療前のホルモン状態に戻るまで2~3カ月かかります。ですから副作用が現れた場合、薬をやめても2~3カ月間は症状が続く可能性もあります。
薬剤費は、1カ月約5000~8000円。
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下垂体にあるGnRHの受容体に結合して、FSH(卵胞刺激ホルモン)の分泌をストップ |
GnRHアンタゴニスト(GnRH受容体拮抗薬) 保険適用
GnRHアゴニストと同様に受容体に作用するのですが、それによって受容体の活動を抑制する薬剤で、経口剤(飲み薬)です。LHRHアンタゴニストとも呼ばれています。
フレアアップ現象がなく、GnRHアゴニストよりも副作用が出にくいとされています。そして薬をやめた後は元に戻りやすく、副作用もすぐに消えます。
ただアレルギーなどを起こすため、一般には使用されていません。
薬剤費は、1カ月約8000円。
選択的プロゲステロン受容体調節剤(SPRM) 保険適用外、日本では承認申請中
プロゲステロンの受容体に結合する薬剤で、子宮筋腫縮小・月経量減少が報告されています。
海外では、過多月経を伴う子宮筋腫に効果が高く、副作用が少ない薬剤として注目されています。
子宮内膜が厚くなる作用があるため、3カ月投与した後、2カ月休薬します。
エストロゲンの一種であるエストロジオールの分泌が低下しないため、更年期障害のような副作用が起こりにくくなっています。
ダナゾール 保険適用外
男性ホルモンのような作用がある薬剤で、経口剤(飲み薬)です。これを投与すると、エストロゲンが作られにくくなることから、子宮筋腫の成長を止める効果があります。
副作用として男性化する、つまり脂性になってニキビができたり、体毛が濃くなったり、しゃがれ声になったりする可能性があります。
そしてピルと同様に、血栓症のリスクがある人には使いません。
4カ月投与した後、休薬します。
〇参考資料
東京女子医科大学 産婦人科
https://www.twmu-obgy.com/medical/shikyu.html
第 65 回日本産科婦人科学会学術講演会専攻医教育プログラム
子宮筋腫ー その治療法と適応についてー
http://jsog.umin.ac.jp/65/handout/004_ueda.pdf
https://www.sagara-clinic.com/trivia/article_09.html
産婦人科クリニック さくら 院長ブログ
http://www.cl-sacra.com/archives/705/3
文/森 真希(もり・まき)
医療・教育ジャーナリスト。大学卒業後、出版社に21年間勤務し、月刊誌編集者として医療・健康・教育の分野で多岐にわたって取材を行う。2015年に独立し、同テーマで執筆活動と情報発信を続けている。
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