尿が作られる仕組みと出る仕組み その5 尿失禁と頻尿
尿の出をコントロールできずに無意識に尿を漏らしてしまう尿失禁。
日中に8回以上、夜間に1回以上、排尿のためにトイレに行く頻尿。
こうした尿の出の異常は、命に関わるわけではありません。ただ、日常生活に支障を来したり、「恥ずかしい」と思い悩んでうつっぽくなったりすると、さまざまなトラブルに発展する可能性もあります。
また、「漏らしてしまうかも……」「トイレに行けないかも……」といった不安感が、症状を悪化させる場合もあると専門家は話していました。
自分が悩んでいる症状のタイプを知って、適切に対処して、アクティブな日常生活を送っていきたいですね。
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photo by Jill Wellington (Pexels) |
尿失禁
尿失禁には、主に4つのタイプがあります。
①腹圧性尿失禁(SUI)
骨盤底筋群の緩みや尿道を絞める尿道括約筋の衰えで、おなかに力が入ったときに少量の尿が漏れる、いわゆる「ちょいもれ」の症状です。
くしゃみや大笑いをしたとき重い荷物を持ち上げたとき、ジャンプしたとき、などによく起こります。
女性の尿失禁の中で最も多く、週1回以上経験している女性は500万人以上といわれています。
加齢や出産、肥満などが原因に挙げられます。
保存療法は骨盤底筋群体操で、効果が出なければ尿道スリング手術(TVT手術、TOT手術)を検討します。
※尿道の下に治療用テープを通して固定する手術で、TVT手術とTOT手術では、治療用テープを通す位置が異なります。局所麻酔で手術時間20~30分ほど、傷跡は小さく、体の負担が少ない方法です。入院期間は2泊3日が目安です
②切迫性尿失禁(UUI)
突然、強い尿意を感じ(尿意切迫感)、我慢できずに尿が漏れてしまいます。腹圧性尿失禁とは違って、漏れる尿量が多いのが特徴です。
私が聞いた例では、外出から帰宅して玄関の鍵を開けようとしたときにいきなり尿意を感じ、鍵をガチャガチャしている間にジャーッと尿漏れしてしまったとのこと。「本当に恥ずかして、ショックで」と、その女性は話していました。
多くの場合、特に原因がないのに膀胱が収縮してしまい、トイレに行きたくなって、間に合わずに尿が流れ出ます。ただ、脳血管障害など原因が明らかなこともあります。
男性では前立腺肥大症、女性では膀胱瘤や子宮脱などの骨盤臓器脱も切迫性尿失禁の原因になります。
前立腺肥大症とは、加齢に伴って前立腺が大きくなり、残尿感や頻尿などが起こるようになった状態です。50~60歳代では50%、80歳代では90%で組織学的に前立腺の肥大が見られるそうです。
前立腺肥大症の治療に、α1遮断薬、PDE-5阻害薬、抗男性ホルモン薬、5α還元酵素阻害薬のほか、漢方薬の八味地黄丸が使われることがあります。
③溢流性(いつりゅうせい)尿失禁
自分で尿を出したいのに出せない、しかし、尿が少しずつ漏れ出てしまいます。
前立腺肥大症など、尿が出にくくなる排尿障害が必ず前提にあるので、溢流性尿失禁は男性に多い症状です。ほかに、直腸がんや子宮がんの手術後などに、膀胱周囲の神経の機能が低下している場合にも起こることがあります。
④機能性尿失禁
排尿機能は正常ですが、身体運動機能の低下や認知症が原因で尿を漏らしてしまいます。
歩行障害でトイレまで間に合わない、認知症のために別の部屋をトイレと勘違いして排尿できないなどのケースが挙げられます。そのため、介護や生活環境の見直しを行う必要があります。
※①腹圧性尿失禁と②切迫性尿失禁が合併した「混合性尿失禁」もあり、女性の尿失禁のほとんどは腹圧性尿失禁・切迫性尿失禁・混合性尿失禁が占めています。
※尿失禁があると、漏らさないようにしようとして、尿意がなくてもトイレに行きがちです。こうして膀胱に尿がたまっていないのに排尿する癖がつくと、膀胱が尿をためる力が弱くなります。そして頻尿になり、トイレの回数が増えて、膀胱に尿をためる力が弱くなって漏らしてしまい、早めにトイレに行くようになって……という悪循環に陥ってしまいます。
頻尿
1回の排尿量は、通常の人だと250~300ミリリットルなのですが、頻尿の人は100ミリリットル程度だといわれています。このように少しの尿しか膀胱にはたまっていないのにもかかわらず「トイレに行きたい」と感じるようになっているわけです。
頻尿については、主に5つの原因があります。
❶器質的膀胱容量の減少
膀胱が伸びにくくなったり、尿をためる量が減少します。
放射線治療後に起こることがあるほか、子宮筋腫などの腫瘍や妊娠の胎児で膀胱が圧迫されるために起こることもあります。
❷機能的膀胱容量の減少
尿排泄障害で膀胱に尿が残ってしまい、尿をためる容量が減少します。
排尿障害に加え、薬や神経障害が原因に挙げられます。
❸過活動膀胱
何らかの原因で膀胱が過敏になり、尿意が頻繁に起こります。尿意切迫感が主な症状で、頻尿だけでなく切迫性尿失禁も伴います。
寒さや水の音、トイレのドアへの接触で、尿意切迫感が生じがちです。
膀胱筋連携各療法や生活管理、骨盤底筋群体操のほか、薬物療法で、膀胱の過剰な収縮を抑える抗コリン薬、膀胱を弛緩させて耐えられる尿量を増やすβ3作動薬が使われています。漢方薬では、牛車腎気丸が使われています。
❹膀胱粘膜の刺激
膀胱粘膜の刺激によって、何度も尿意が起こります。
❺多尿
尿の量が増えてしまって、何度も尿を排泄することになります。
■参考資料
日本泌尿器学会
https://www.urol.or.jp/public/symptom/02.html
高知大学医学部泌尿器科学講座・泌尿器家 ※「泌尿器家」とサイトに書いてあるのです
http://www.kochi-ms.ac.jp/~hs_urol/diagnose_and_cure.html
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