自分自身ではなく、やり方・道具・環境を変えよう 『発達障害サバイバルガイド』
この本のタイトルは『発達障害サバイバルガイド』なのですが、書かれている内容は万人に役立つ生活術です。
著者の借金玉さんは、30代半ばの男性。大学生の頃にADHA(注意欠陥・多動性障害)と診断されています。
◎ADHA(注意欠陥・多動性障害)の特徴
自罰感情が強い→不便で不快な生活を志向してしまう、「贅沢は敵」と思い込んでしまう先延ばし癖がある
気が散りやすい→カフェで仕事や勉強はできない
感覚が過敏である
多くの人が大なり小なり、上記の特徴を持ち合わせているのではないでしょうか。ですから、本書に書かれている生活術は、誰もが知っておいて損はありません。
そしてしみじみ感じたのは、現代人の私たちが「伝統的で意味がない」と省略しがちな行事と習慣などに、実は効力があったこと。年賀状、晴れ着、お参り、お歳暮・お中元、正午と夕方の町内放送などは、必要な儀式なのだと、本書を読んで思い至ったわけです。
◎ポイント
一元化ルーティン化
儀式化
行事と習慣が持つ一つの意味は、人間関係の維持。疎遠になった人とも年賀状をやり取りすることで、関係性は保てます。また、お歳暮・お中元も同様、感謝を伝えるだけでなく、相手と緩くつながっていくことに役立ちます。
もう一つの意味は、オン・オフを切り替えること。時間の感覚が鈍くなると、ダラダラと生活をして、昼も夜もなくなってしまうしまうわけです。
しかし、「毎月18日にはお参りする」というように決めておくと、その日に合わせてスケジュールを立てるので、生活にリズムを生まれます。ポッポーと鳴く鳩時計は最近すっかり見なくなりましたが、時計が教えてくれなければ私たちは時間がわからないので、鳩時計の代わりにスマホの機能などを利用するのもいいかもしれません。
以下は、『発達障害サバイバルガイド』(著/借金玉 ダイヤモンド社)の内容を私なりにまとめたものです。かなり私見が入っているので、ぜひオリジナルを読んでもらえたらと思います。
■正しく設備投資をして、最小限・最低限のレベルで衣食住を整える
衣食住で最低限必要なのは、清潔で見苦しくない服と、代謝・消費に見合った栄養、心身に負担をかけない衛生環境。さらに、衣食住で余計な出費を避けることです。
本書で例として挙げられていたのは、「洗濯機を買うのがもったいないから、クリーニング屋を使う」。中古で2万円程度で買える洗濯機を、「貧乏だから買えない」とまるで自分を罰するかのように購入せず、なぜかクリーニング屋やコインランドリーを使って逆に支出を増やしているわけです。
必要な視点は、家事の手間を減らして生活を楽に回していくこと。
〇衣→洗濯機、肌触りのいい肌着、着心地のいい定番で無難な服(男性ならジャケット+シャツ+パンツ+革靴<合皮でOK>)、つるしっぱなし&箱に入れる収納(畳まない)、「ミニマリスト」と公言(私が追加)
〇食→食器洗浄機、ちょっといい炊飯器、リュウジさんのレシピ本(私が追加)
〇住→よく眠れる寝具、「本質ボックス」、複数のゴミ箱、固定できるものはすべて固定、キーファインダー、疲れない机といす、自動掃除機(私が追加)
本質ボックスとは「部屋の中で定位置が決まってないモノは、全部ひとつの箱にぶっこむ」というもの。次の運用ルールが本書に記されています。
〇箱は、中身が見えるスケルトンか、網目状のもの。フタはつけない
〇本質ボックスは、最大3つまで。それ以上増やさない
〇本質ボックスからモノがあふれたら、捨てる
さらにゴミ箱については、「自分が座る場所のすぐ横に、ゴミ箱を置く」こと。これでゴミが部屋にあふれないようになるとのこと。いくら部屋が狭くても、著者は数歩歩いてゴミを捨てることはしなかったのだそうです。
■自宅での衣食住に投資する
自分の部屋が汚くて嫌だからホテルに泊まる、カップが汚いからコーヒーを喫茶店で飲む、後片付けが面倒だから居酒屋で酒を飲む……といったことが恒常化していたら、お金はたまらず、生活が破綻します。
ですから、居心地のよい自宅作りを心がけます。
また、薪を背負った二宮尊徳のようにどんな環境でも人間は勉強や仕事ができると思われがちですが、ADHAには無理。専用の空間を整えることが大事なようです。
■苦手なことには気持ちがいいこと・大好きなことを組み合わせる
例えば、朝起きるのが苦手な人がスイーツ好きの場合。「朝スイーツ」を習慣化して、起きる楽しみを作ります。
また、朝日が差し込む部屋で、カーテンを5cmほど開けて寝るようにし、朝が来たら太陽の光を浴びるのもいいでしょう。この方法は睡眠障害を改善する方法として、医師も推奨していました。
それから、寝る時間になってもスマホをどうしても手放せないのなら、寝る前のホットアイマスクを習慣化します。目が使えないために、スマホを強制終了できるだけでなく、リラックス効果で安眠に導かれます。
■大きいホワイトボードにメモを一元化する
筆者によると、メモをなくして痛い目に遭ったことが多々あったとのこと。メモやスケジュールは一元化することが重要のようです。
確かに、過去に私がいた職場でも、ホワイトボードに情報は一元化されていました。
■1枚のクレジットカードですべての支出を管理する
家計簿をつけるのは無理なので、1枚のクレジットカードですべてを支払い、1カ月単位で見返して自分の支出傾向を確認するとよいそうです。
ただし、複数のクレジットカードは持たないほうがいいでしょうね。私は過去に、たくさんのクレジットカードを持ったせいで支出を把握できず、クレジットカードの支払いに別のカードでキャッシングをしていて、ほぼ経済破綻した一家を取材したことがあります。
■ネットスーパーを利用する
スーパーで特売品を衝動買いして食料品を腐らせるリスクを減らすために、ネットスーパーで必要な食料品だけを補充する習慣をつけるといいそうです。
■浪費するのが「めんどくさい」場所で暮らす
固定費とは、通常、家賃や水道光熱費を指しますが、「コンビニの横に住んでいるせいで、つい会社帰りによってお菓子を買う」という「つい」も固定費に含まれると筆者は述べます。そして、日常感覚に根差した"節約"、ちょっと安い弁当、ちょっと安い靴などは、家計のバランスを整えるのに何の効果も発揮しないようです。
ですから、家賃が安い上、周りにコンビニやラーメン屋、カフェ、飲み屋、パチンコ店などがない場所に住むといいとのことです。
■オンとオフの区切りを、儀式化する
発達障害傾向の人は、「仕事に全く集中できない」状態と「仕事に集中し過ぎて不眠不休」の過集中の状態に陥ることが珍しくないようです。
「仕事に全く集中できない」状態から抜け出すには、集中するための儀式を作っておくといいとのこと。著者は石けんを使った手洗いだそうですが、肌荒れを起こすリスクがあるので私は水だけをお勧めします。そのほか、スクワットや着替え(仕事着を決めておく)でもかまいません。
過集中については、私が作文教室を開いている際に、そのような子どもに遭遇しました。ほうっておくと、いつまでも作業を続けてしまうのです。
過集中対策として、他人が「やり過ぎだよ」と声をかけてくれない環境で、タイマーやアラーム(1時間ごとに鳴る鳩時計方式)を利用したほうがよいと思いました。
■向いていない仕事を避ける
①「成果」評価型業務→数字で評価される営業職や企画職など。ADHA特製の強い人間が多く就労
②「成果物」評価型業務→専門技能を生かしたクリエイター。プログラマーやデザイナーなど。ADHA特製の強い人間が多く就労
③「作業」評価型業務→チーム単位で業務を行うマルチタスクの事務職など。
④マネジメント型業務→進捗管理やマネジメントなど。
「全部ダメ」は思考停止なので禁止。自分の特性を知って、できる仕事を見つけましょう。
■情報を「A4用紙1枚にまとめる力」を養う
「知識を手に入れ、まとめ、行動する」能力、つまり「A4用紙1枚にまとめる力」が、社会で自立して生きていくためには必要と筆者は語ります。
これは筋トレと同じで、慣れであり訓練でもあります。学力や才能とは関係ありません。ですから、日々、実践して慣らしていきましょう。
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今の世の中、「自分を変えよう!」というメッセージが氾濫していませんか。「キラキラした自分」「正しい人生を送る」ためかどうかは知りませんが、SNSには朝活やセミナーに参加している様子や、ホテルでランチやお茶会をしている風景をアップしたり、はたまた、自分の顔や体形を加工した写真をアップしたりしている人がけっこう目につきます。
こんなところで無理をしたところで、日常生活が楽になって生きやすくなるわけでもありません。著者も「SNSで自分を偽るのも、おすすめできません」と書いていました。
さらには、「人間関係を変えよう!」と、「○○という言葉がけをしよう」「○○を演出しよう」といった表面的テクニックも嘘くさいというか、やはり無理があります。
自分自身や周りの人ではなく、自分のやり方・道具・環境を変えることで、適当に社会と折り合いをつけながら生活を送ること。そこそこのお金で楽しく暮らせるような教養、アルコールやギャンブルに飲み込まれない文化を身につけることが、人生の資産なのかもしれないと、本書を読みながら思ったのでした。
教養について、本書では「メキシコ人の漁師とハーバード大卒のコンサルタント」の話が引用されていました。
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