「馬車」が語源のコーチングには、どんな特徴があるのだろうか? その1『コーチング・バイブル』
「コーチング」という言葉を、さまざまな場面で目にするようになりました。コーチングは馬車、トレーニングは列車が語源とのこと。
コーチングの語源は Coach、すなわち馬車である。人をその人が望むところまで送り届けるという意味であり(EverdandSelman1989)、大勢を同じ目的地に送る Train、トレーニングとは対照的な言葉である。コーチとは本来、人に寄り添い成長を支える存在であり、指導者ではなく相手の能力を引き出す存在である。
https://iba.kwansei.ac.jp/iba/journals/studies/studies_in_BandA_2016_p31-42.pdf
そのようなコーチングに、どのような特徴があるのでしょうか?
今回は「世界標準のコーチング・テキスト」とアマゾンのページで広告されている『コーチング・バイブル 人の潜在力を引き出す協働的コミュニケーション』(著/ヘンリー キムジーハウスほか 東洋経済新報社)をもとに、コーチングについて検討しました。
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photo/Anton Uniqueton |
Co-Active Corchingの基礎となるのが、「4つの礎」です。
4つの礎
〇その人すべてに焦点を当てる
〇今この瞬間から創る
〇本質的な変化を呼び起こす
〇子どもだからとか失敗者だからとか、いろいろな理由で相手を見下しちゃいけないよ
〇悩みを一つひとつ切り離しすぎちゃいけないよ、「木を見て森を見ず」にならないようにね
〇過去にこだわっちゃいけないよ、今に全集中!
〇小手先じゃあダメだよ
そしてコーチングを受ける人(クライアント)の行動は「3つの指針」と関係があるのだそうです。
3つの指針
バランス→よりバランスのとれた人生に向かうか否か
プロセス→人生というプロセスをより深く味わうか否か
コーチとクライアントは、主従ではなく、対等に協力し合う「協働的」関係にありまあす。なぜ協力するのかというと、クライアントの人生を充実させ、バランスをよくし、変化する過程を大事にできるようにするためです。
そんなコーチに必要な資質が、以下の5つです。
5つの資質
直感→勘やひらめき
好奇心→思い込みや決めつけを捨てて、先入観なしに興味を持つこと
行動と学習→そのまんま
自己管理→自分の感覚などに振り回されず、クライアントに常に意識を向けること
コーチングに入る前には、会議(セッション)を行います。
導入セッション
発見→いろんなテストをして、クライアントの今の状況を知ると同時に協働関係を築く
計画→クライアントがコーチングを受ける動機を知り目標設定
教育→コーチングを受ける上で知っておいてほしいことを伝える
傾聴
傾聴には3つのレベルがあります。
レベル1:内的傾聴
相手の話を聞きながら、「それは自分にとって何を意味するのか」に意識が向いている状態。
例として、ランチを取るために入ったお店で「今日のAセットとBセットは何ですか?」と聞いている場合。お店の人の話よりも、自分が食べる料理に意識が向いています。
レベル2:集中的傾聴
上記の例で、接客するお店の人のほうです。「今日は何にしますか?」と問いかけ、お客さんの反応を見ながら対応するという聞き方です。「ちょっと、最近胃がもたれていて……」とお客さんが答えたら、「でしたら、Bセットがお勧めです」などと、自分の都合ではなくお客さんの状態に注意を向けています。
レベル3:全方位的傾聴
「あたかもあなたとクライアントが宇宙の中心にいて、あらゆるところから同時に情報を受け取っているかのように耳を傾けるということ」と、この本には書かれていました。
「空気を読む」という感じで、自分と相手だけでなく、周囲の人や状況も感じ取りながら、クライアントの話に耳を傾けるということです。
傾聴と関係が深いコーチング・スキルが、以下の5つ。
コーチング・スキル
明確化のスキル→質問・言い換え・視点の転換を組み合わせて、イメージをはっきりさせる
俯瞰のスキル→「木を見て森を見ず」の逆で、「そのほかの人への影響は?」「長い目で見ればどうでしょうか?」と全体像をとらえるように促す
比喩のスキル→詩的に問いかける
認知のスキル→要は褒めることで、できるだけ具体的に
直感
直感と関係が深いコーチング・スキルは以下の5つ。
コーチング・スキル
感じたままを口にする
好奇心
単純に「はい」「いいえ」だけでは答えられないような「開かれた質問」は、好奇心がベースとのこと。
コーチング・スキル
設問のスキル→「なんで?」「なんで?」質問を、すぐクライアントに答えさせず、宿題として持ち帰らせること
行動と学習
コーチング・スキル
ブレインストーミングのスキル→「役に立たないアイデアは存在しない」「自分が出したアイデアにこだわらない」を基本原則としてアイデアを出し合う
要望のスキル→コーチからの要望に対しクライアントに「はい」「いいえ」「逆提案」の3つの選択肢があると示す
挑戦のスキル→クライアントに挑戦させることらしいのですが、最初は無理なことをやらせようとして、クライアントに逆提案をさせるのがポイント
構造化のスキル→自分で決めたことを実行できるように工夫する(例えば朝7時に起きたいときには目覚ましをかける)
自己管理
コーチング・スキル
許可取りのスキル→コーチングで主導権を握っているのはクライアントということを、「ちょっといいですか?」といった一歩引いた声がけで示す
核心のスキル→話が脱線するときなどに、核心を突いた発言をするように心がける
励ましのスキル→「大丈夫、できますよ」などと後押しする
浄化のスキル→クライアントのいら立ちや愚痴を吐き出させる
視点転換のスキル→別の角度から見る
区別のスキル→混同していることを区別する
フルフィルメント
フルフィルメントは既出で、充実感や「いきいき」という感じ。
充実感と快感とは異なります。
例えば、部活動の練習で体はつらいんだけど、「やった!」という充実感はある。貧しいし、忙しいのだけど、「やった!」という充実感はある……
このように体が楽=快、衣食住にゆとりがある=快、というわけではありません。
充実感に深く関係するのは、価値観。価値観は、道徳ではなく、原理原則でもありません。つまりは、正しさや「みんなに当てはまる」こととは無関係。
バランス
コーチがクライアントの価値観に沿った行動を見極めて、バランスを取るための5つのステップ。
5つのステップ
2 選択→選択肢があるということに気づくこと
3 コーアクティブ・ストラテジー→コーチとクライアントが一緒に行動計画を立てる
4 決意→決意が固まるまで待つ
5 実行→何ができたか、できなかったのかを確認
プロセス
プロセス・コーチングの道筋にあるのは、7つのステップ。
7つのステップ
2 クライアントとその「何か」を探求する
3 クライアントがその「何か」を深く体験する
4 クライアントのエネルギーに変化が起きる
5 クライアントのエネルギーが動き出す
6 クライアントが新たな力を手にする
7 クライアントに新たな動きが起こる
これで思い出したのは、「軽く車とぶつかって、その車は逃げていき(要はひき逃げ)、軽くケガをした子ども」のケース。
以前に、大勢の子どもたち(子どもの同級生)が我が家にやってきて、「A君が車に引かれた」など騒いでいました。A君は泣いていて、ひじをすりむいています。それがあまりにもうるさいので、A君だけ引き離して話を聞きました(ステップ1)。
A君はみんなと自転車に乗っていて、車と軽くぶつかり、倒れてしまったのですが、車は一度止まった後、立ち去ったとのこと。本人は車と衝突したわけではなく、ひかれたわけでもなく、ケガは軽くて、ただ車にぶつかったのがショックだった模様(ステップ2)。
それで、子どもたち全員と、事故現場へ。どんな状況だったのかを確かめ、どうやらA君は左右を確認せずに道路へ飛び出したのだな……などと。A君にはそんなことを告げませんが、とにかく現場がわかりました(ステップ3)。
A君が転んだときに打った場所が腫れる可能性もあるため、アイシングを施し、A君の母親(仕事中なのか、出ないので留守電に)と学校に事故のことを連絡。
するとA君は「今日は歯医者に行く日だったんだ」と言い始め、予定どおりに歯医者に行くと言うので、自宅まで送っていきました(ステップ5~7)。
ちょっと違う気もしますが、こんな感じかもしれません。
クライアントがコーチに伝える問題は、言ってみればパズルの1ピース。その1ピースをどうするかではなく、パズル全体、つまりクライアントの人生全体の問題に取り組まなければならないようですね。
また、コーチがご機嫌取りになることなく、クライアントに嫌われても、あえて厳しい問いを投げかけたり、つらい真実を伝えたりすることも大事なのだそうです。
コーチがクライアントに何かを教えてあげたいと感じたときは、以下の4つのポイントを確認。
確認ポイント
2 コーチは「コーチ」という立場ではなく、「専門知識や経験を持つ人」という立場になっているか
3 クライアントがその情報を求めているのか
4 コーチが伝えた情報にクライアントがこだわり過ぎていないか
コーチングは、職業というより、効果的なコミュニケーションを行うための基本的なルールとのこと。実際、私は子育てのコーチングの本の編集に携わりました。
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