ジンバブエ・ドルの思い出
私は2002年7月12日からの13日間、アフリカに行っていました。南アフリカ、ナミビア、ジンバブエ、ボツワナの4カ国です。
このときにジンバブエで使われていた通貨は、ジンバブエ・ドル。そして今では、ジンバブエ・ドルは存在しません。
背景にあったのは、ジンバブエという国が抱えている「信用」という問題でした。
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ジンバブエ・ドル |
ジンバブエの面積は、日本よりやや大きい38.6万平方km。
1888~1965年はイギリスの植民地でしたが、反植民地闘争を経て1980年に独立しました。その当時は、肥沃な農地の70%を少数の白人が所有するという状態をでした。
反植民地闘争の指導者が、ロバート・ムガベ(1924~2019年)で、独立後は37年間、大統領(当初は首相)の職にありました。
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Wikipediaより |
しかし、2000年には、黒人が勝手に白人の農場を占拠し始め、ムガベ前大統領はそれを認める形で、白人の農場を黒人に分配する土地改革を行いました。その結果、農業生産性が低下し、食料が不足するようになりました。
そして金融政策によって、外資系企業が撤退。国内に出回る製品が不足しました。
一方、労働者からの賃上げ要求に対応したりするために、ジンバブエ・ドルをどんどん発行しました。
「お金はあっても、物がない」状況で、物価がどんどん上がっていきます。すると、国が「安値で売らないといけない」という法律を作りました。その結果、企業は、調達コストよりも安く製品を売らなければならなくなり、次々と倒産。町には失業者があふれ、社会不安が増大しました。
そして政権への批判が高まると、ムガベ前大統領は独裁政治を行うようになりました。それに対しEU、米、英、豪、加、北欧諸国が、資産凍結などの制裁を行いました。
2008年の終わりには、年2億%以上というハイパーインフレになり、2015年にジンバブエ・ドルは通貨としての廃止が決定。通貨発行が停止した後の数年間は、米ドルや南アフリカランドで商取引が行われていました。
ジンバブエは、自由に通貨を発行できる権限を政府が持っていたために、政府が権限を乱用して通貨廃止という結果になっています。これは珍しいことではありません。
日本では、1941年10月に、大政翼賛会によって宣伝読本『戦費と国債』を150万部配られました。この本には、以下のような記述があるそうです。
(問)国債がこんなに激増して財政が破綻する心配はないか。
(答)国債がたくさん増えても全部国民が消化する限り、少しも心配は無いのです。国債は国家の借金、つまり国民全体の借金ですが、同時に国民がその貸し手でありますから、国が利子を支払ってもその金が国の外に出て行く訳ではなく国内で広く国民の懐に入っていくのです。(中略)従って相当多額の国債を発行しても、経済の基礎がゆらぐような心配は全然無いのであります。
しかし実際は違いました。物価統計を見ると、開戦の1941年から敗戦の45年までで1.8倍、その後49年までで急上昇して78.5倍、合わせて戦前水準の140倍以上(日本銀行「本邦経済統計」東京小売物価指数)になっています。
ハイパーインフレや預金封鎖など、戦中戦後の日本は経済的に混乱をしていました。そのしわ寄せは、結局、国民に来るのです。
政府の借金が膨張すると、国債の信用問題になります。
こうしたケースを回避するために、主要国は、中央銀行が国債を直接買い入れることを、原則として禁じています。
歴史的には、政府が無節操に通過を発行するのは危ういといえるのですが、それに反対の立場を取る人々がいます。彼らの主張の根拠になっているのが、現代貨幣理論(MMT)。
自国通貨建ての国債は、どんなに刷っても、財政は破綻はしない。だから、インフレが起きるまでは、財政赤字を気にしなくてよいという立場です。
また、税金についても、MMTは独特の考え方をしています。
財務省のホームページには、税金の役割は以下のように説明されています。
「税」の役割
1:財源調達機能
税制は、前述のような「公的サービス」の財源を調達する最も基本的な手段として位置づけられており、これが税制の最も直接的かつ重要な役割です。
2:所得再分配機能
所得税や相続税の累進構造等を通じ、歳出における社会保障給付等とあいまって、所得や資産の再分配を果たす役割を果たしています。
3:経済安定化機能
税制は、好況期には税収増を通じて総需要を抑制する方向に作用し、不況期には逆に税収減を通じて総需要を刺激する方向に作用することで、自動的に景気変動を小さくし経済を安定化する役割を果たしています。
しかし、MMTでは、税金の存在理由が財源ではありません。財源は、国債を大量に発行し、それを中央銀行が買い上げる(国債と紙幣を交換する)ことで行うわけです。
税金は、1万円札のような紙幣(原価20円ほど)を、お金として流通させるために存在すると考えます。税金の役割は、インフレの抑制で、インフレになったら税率を上げて通貨が出回る量を減らします。
最近では、MMTという言葉をよく目にするので、経済の素人ながら、自分なりに調べてきました。調べる中で頭に浮かんだのが、ジンバブエの国境の施設に飾られていたムガベ大統領(当時)の大きな似顔絵と、今も自宅のどこかに眠っているジンバブエ・ドルの高額紙幣でした。
アフリカ旅行中に、ジンバブエからボツワナに移動した際、ジンバブエ・ドルを両替してもらおうとすると、どこも受け付けてくれませんでした。財政を間違えると、国が信用を失い、その通貨は価値を失うのですね。
■関連用語
マネタリーベース(ベースマネー)
=日本銀行券(お札)発行高+貨幣(コイン)流通高+日銀当座預金(一般の銀行が日銀に預けている預金)
=現金通貨+日銀当座預金
マネーストック
=日本銀行券発行高+貨幣流通高+預金(私たちが銀行に預けている預金)
=現金通貨+預金
M1=現金通貨+要求払預金(普通預金など、すぐに解約できるもので、定期預金は含まれない)
M2=現金通貨+預金全般(ゆうちょ銀行などを除く)
M3=現金通貨+預金全般
■参考資料
日本の「財政」も「年金」も破綻しないので心配はいらない
https://diamond.jp/articles/-/180759
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