瞬時に作文ができるChatGPTを使うと、たった一人で本を年に300冊出版できるらしいが、果たしてそれが「出版文化」なのか問題
2022年11月30日に、チャットGPT(以下、ChatGPT)が開発されました。それから3カ月半の間に、ChatGPTを使った電子書籍が200冊以上も出現したのだそうです。
キンドルストアでは、著者もしくは共著者にチャットGPTの記載がある電子書籍が今年2月半ば時点で200冊を超えた。しかし、多くの著者がチャットGPTを利用したことを開示していないため、AIを使って書かれた本の数を正確に把握するのは不可能に近い。チャットGPTを使って小説や自己啓発本を出版し、手軽に稼ぎたいと考える人々が増えると、停滞していた出版界は大揺れになりそうだ。この手の「新米ライター」に人気なのが挿絵入りの児童書。ユーチューブやTikTok(ティックトック)には、そうした本を数時間で作成する方法を解説するチュートリアルが数百件も投稿されている。テーマは「素早く金持ちになる方法」やダイエット、ソフトウエアのコーディング、料理レシピなどだ。ホワイト氏は、だれでもやる気と時間さえあれば、AIを使うだけでこうした本を年に300冊書ける、とユーチューブで語っている。
ChatGPTは、API(※)の一種で、AIチャットボットとのこと。
チャットボットとは、「チャット(chat)」と「ボット(bot)」を組み合わせた言葉です。
チャットは、本来は人間同士のおしゃべりを意味していました。今では、インターネットを利用したリアルタイムのコミュニケーションで、テキストを双方向でやり取りする仕組みを指しています。ボットは「ロボット」を略した言葉で、人間の代わりに自動的に実行するプログラム。
そしてAIチャットボットは、AI(人工知能)を活用した「自動会話プログラム」です。人間と人工知能を組み込んだコンピュータとの間で、おしゃべりのようにテキストをやり取りします。
※「API(Application Programming Interface:アプリケーション・プログラミング・インターフェース)」は、「アプリケーションとプログラムをつなぐ(仲介する)もの」で、外部のアプリケーションや機能を利用するために、APIはアプリケーションやWEBサービスに組み込まれることが多々ある
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ChatGPTのロゴ |
ChatGPTを開発したのは、サンフランシスコにあるOpenAI。
GPT(Generative Pre-trained Transformer:ジェネレーティブ・プレトレインド・トランスフォーマー)は大規模言語モデル(LLM)で、大量のテキストデータから言語学習を行い、人間と同じような文章を生成することができます。
2015年に、イーロン・マスク氏らが非営利組織としてOpenAIを設立しましたが、現在は営利活動を行っているとのこと。CEOは、Sam Altman(サム・アルトマン)。
2022年11月30日にOpenAIがChatGPTを公開しました。
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Sam AltmanのTwitterのアイコン |
以前のチャットボットは、人間によってパターン化された対応しかできなかったので、会話として成立しないことも多々ありました。
しかし、ChatGPTは、オリジナルのテキストを生成することができます。つまり、私たちが論文やエッセイ、詩を書くように、ChatGPTも文章を作れるのです。そのため、生成型(ジェネレーティブ)AIと呼ばれています。
OpenAIとペンシルベニア大学の研究者たちは、「GPT:LLMの労働市場への影響の可能性に関する初期の考察」という論文を、2023年3月17日に発表したとのこと。
プログラミングとテキスト執筆のスキルはLLMの影響を受けやすく、科学的、批判的思考スキルを必要とする職業は影響を受けにくいことが示されたという。
これまでにも「AIが仕事を奪う」と話題になってきましたが、今回の論文ではGPTは以下の仕事ができると示唆されていました。
数学者
税理士
金融分析
ライター・作家
デジタル系のデザイナー(ウェブサイトなど)
会計士
監査人
ニュース評論家・リポーター・ジャーナリスト
法律関係のアシスタント(秘書、事務員)
臨床データ管理者
気象予報士
ブロックチェーンのエンジニア
書記官
同時通訳者
校正者
コピーライター
通信士
また、最近のニュースでは、さまざまな問題点も指摘されています。
チャットGPT巡る学校向け指針、文科省が検討…「瞬時に作文」悪影響に懸念質問に応じて自然な文章を作成する対話型AI(人工知能)「チャットGPT」を巡り、文部科学省が教育現場での取り扱いを示すガイドライン(指針)の検討を始めたことがわかった。
世界で話題のChatGPTに残る懸念、嘘をつくAIは使えるのかChatGPTはもっともらしい研究を提示し、その内容を要約してくれた。ところが、その論文の名称をインターネットで検索したところ、全く見つからなかった。ChatGPTが架空の論文を偽造した可能性が高い。
「チャットGPT」個人情報保護に穴 他人の会話の一部など、見られる状態に対話型AI(人工知能)「ChatGPT(チャットGPT)」で今週障害が起き、他人の会話の一部や決済情報などが見られる状態にあったと公表した。
対話型AIの衝撃、仕事や教育も激変 ネット検索競争は新時代に米国では既にニューヨーク市やロサンゼルス市などの公立学校で利用が禁止された。学生がリポート作成などに使用する恐れがあるためだ。
話を冒頭のロイターの記事「アングル:チャットGPTに書かせた本、アマゾンでセルフ出版ブーム」に戻しましょう。
ChatGPTで文章を作成し、AIでイラストを自動生成させて、ネット上で見つけた装丁をベースにAIでデザインをしてもらったら、確かに、あっという間に本はできるでしょう。慣れれば、1年で300冊の本を作ることができます。
問題は、「誰がそんな本を買って読むのか」。ChatGPTが作成するのは「○○っぽい」「なんちゃって」文章になるはずです。いってみれば文章の量産。
しかし、私たち人間が読める文章は限られています。食べる量と読む量も、限界があるということ。量産された食品が廃棄されるように、量産された本も読まれずに廃棄されます。電子書籍については、「廃棄される」よりも「消えていく」「放置される」という表現のほうが適しているかもしれません。
日本の場合は、新刊が1年で約7万点出版されていますが、今後、ChatGPTで作られた電子書籍を加わったら十数万点に膨れ上がるかもしれません。
ただ、人間の能力的に読む量に限界があることと、「買って読むほどのもの」とは判断されなければビジネスとして成立しにくいことから、一時的なトレンドに過ぎないでしょう。本をたくさん作ったところで、何の役にも立たないのです。
文化庁は、文化について次のように説明しています。
文化は,人々に楽しさや感動,精神的な安らぎや生きる喜びをもたらし,人生を豊かにするものであり,豊かな人間性を 涵養(かんよう) する上で重要です。
「○○っぽい」「なんちゃって」文章(内容も文体も)が詰まった本が渋滞するような状況で、「豊かな人間性を 涵養」されるのかが大いに疑問ですね(涵養はゆっくりと養われること)。
また、市川市のサイトでは、図書館は文化施設に分類されています。量産された本も税金で買い取るのか、保管場所をどのように確保するのか、そもそも文化とは何か、立ち止まって考えるタイミングなのかもしれません。
■参考資料
「AIの進化と日本の戦略」 東京大学教授 松尾豊
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