どうして「わかりにくさ」が発生するのか その1

  作文に関して精神論を持ち出したくはないと思っています。しかし、「わかりにくさ」には書き手の熱意と謙虚さが大いに関係しているのは、事実なのです。


 20年以上にわたって、編集者として大量の文章を読んできました。すると、伝わってくるのです。「ああ、やる気がなくて、適当に書いたな」などと。
 決して上手とはいえなくても、「伝えたい」という熱意が感じ取れる文章は、読み手も引き込まれる場合が多々あります。

「たどたどしくても、感動的」と、よく引き合いに出されるのが野口英世のお母さんの手紙@公益財団法人 野口英世記念会


 「ええっ! 別に作文なんかしたくないのに。受験とかのために書かされてるんだから、熱意なんかないよ」

 そんな声が聞こえてきそうです。
 まあ、そうですよね。文章を書いてお金を稼ぐライター業とは違って、学校の作文にはご褒美的なものはないのだし。

 やる気を出すには、ちょっとしたテクニックがあるのです。
 『クラナリ』編集人がニュースサイトのライターをやっていた頃、「こんなつまらない話で、原稿を書けって言われてもね~」と感じたことが多々ありました。その頃に生み出したテクニックです。
 それが「自分が面白いと思ったテーマと、なんとか結び付ける」というもの。精神論っぽく思えるかもしれませんが、これはテクニック。やればやるほど上達します。

 ここで、実際の例を紹介しましょう。

 「子どもには昔ながらの玩具を与えるべきだ」という研究結果を盛り込んで、原稿を書くように依頼が来ました。
 ただ、実際には子どもはゲーム機やタブレットで遊んでいるわけです。「昔ながらの玩具」には見向きもしません。ですから、現実離れした内容の原稿なんて、あまりにもつまらなくて、書く気が起こりませんでした。

 では、どうしたのかというと、0歳児の我が子にスマートフォンを与えた落合陽一氏の話題を、原稿に盛り込んだのです。私は落合氏は特に好きでもありませんが、「へえ、0歳児にねぇ」とネットニュースで知って興味は持っていました。
 さらに、子どもを実験台にするわけにもいかないので、昔ながらの玩具がいいか、ゲーム機やタブレットで遊んでもいいか、比較した研究もないことがわかりました。
 こうして、以下の書き出しで原稿を書きました。
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 昨年、3歳ぐらいの幼い男の子が、スマホやタブレットなどを3台操作していると思われる写真がツイッターにアップされて、私たちを驚かせた。
 アカウントの主は、「現代の魔法使い」と呼ばれている、筑波大学准教授・学長補佐の落合陽一氏。なんと落合氏は、息子が誕生したその日に、専用のスマホをプレゼントしたのだそうだ。

 科学者でありメディアアーティストでもある落合氏。最近では子育てに関してもメディアで発言している。
 0歳児にスマホを贈った彼の子育て論には「なるほど」と思える一方で、「こんなに幼い子どもがスマホを使っていても大丈夫なのだろうか」と不安がわいてくる。

 デジタル時代の子育てについて、アメリカでもさまざまな論争があるそうだ。
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 なお、この原稿については、「ギャラ未払い問題」などが発生していたためにお蔵入りになっています。
 自分の体験からも、お金などといったご褒美的なものがなければ、やる気が出ないのは実感としてわかります。

 それでも、「文章を書こう」という熱意を持つには、自分の興味のテリトリーに文章を引っ張り込もうとすること。すると「伝えたい」という熱意も生まれてくるのです。

 とはいえ、熱意だけを押し付けられても、読み手はしんどいもの。自分勝手に話を進めてしまうと、理解してもらえません。
 ですから、「誰かに読んでもらえたら、有り難い」という謙虚さは、忘れないようにしたいものです。
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