正しいことが本当に役に立つとは限らない

 雑誌のライターとして、ある理学療法士を取材したときのこと。

 彼は日本人の受け身の姿勢を嘆いていました。
 アメリカでは自宅で熱心にリハビリに取り組む人が多いのに、日本人は自分でリハビリを行わず、痛みもこりも医療機関で治療を受けて治してもらう態度なのだそうです。

 彼の手法は解剖学的な観点から考案された、誰でも自分で安全にできるすばらしいもので、私は彼の記事を作るのが大好きです。
 しかし。
 彼の手法ではやるべき動きが多く、しかも90秒ほど静止する必要があるのです。
 内心「彼が伝えている手法は正しいし、効果は確実に出ると思うけど、多くの読者はやらないだろうな」と私は思っていました。

 もちろん彼は「自分の手法をすべてやる必要はない」「皆さんのできる範囲で、長く継続してほしい」とメッセージを送っています。
 一方の読者は、「すべてやる必要がないなら、やる必要のある手法だけ教えてほしい」「『できる範囲』というのが自分ではわからない」と思っているのです。

 私が編集者だった頃は、「もうちょっと動きの数を絞っていただけませんか? 3つぐらいだと、読者もやる気が出るんですけど」「じっと静止するのが案外難しくて、もうちょっと短くできませんか?」などと取材時に話していました(今はライターなのでゴチャゴチャ言いませんが)。
 読者が記事を読んでやる気になるかどうか、実際に試すかどうかを、正しさよりも優先してきました。

 正しいことが本当に役に立つとは限らない。

 健康法については、雑誌の記事がきっかけで読者が興味を持ったら、次の段階で正しい手法を理学療法士の本や講座などで自ら進んで学ぼうとします。
 まずはやる気を引き出すことを優先して、エンジンがかかったら正しさを追求していく方向性のほうが、うまくいきやすいということです。



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