酒と本をこよなく愛する酒飲み書店員による「酒飲み書店員大賞」と『本屋と図書館の間にあるもの』

伊藤 ちょっと話が変わりますけど、書店がいま苦しんでいるのは、やっぱり右肩上がりの方法論をいまだに信じてやっていることですかね。(中略)
 もっと時代をさかのぼれば、1970年代の初頭ぐらいの販売額まで落ち込むだろうと。そうすると、書店の適正な数はもっと絞られるだろうと。書店の数は今は1万軒ちょっとくらいに激減しているんですけど、さらに3割ぐらいは落ちるんじゃないかと。本屋がないという自治体が恐らく4割近くまで行くんじゃないかという気がするんです。

 『本屋と図書館の間にあるもの』(著/伊藤清彦・内野安彦、郵研社)には、このように書かれています。内野安彦さんと伊藤清彦さんの対談をまとめた本で、対談の進行は秋田県横手市平鹿図書館司書の石川靖子さん。
 本の帯に、著者の肩書きが記されていました。
元塩尻市立図書館長 内野安彦が敬愛してやまなかった、元さわや書店本店店長伊藤清彦との対談のすべてがここに!

 この本で、「酒飲み書店員大賞」が紹介されていました。

酒と本をこよなく愛する酒飲み書店員たちがオススメの1冊を決める、日本一敷居の低い文学賞「酒飲み書店員大賞」

 酒と本。いやぁ、好きだな、大好き。
 切っても切れない関係だと思ってしまうのは、どうしてなんでしょうか。

酒飲み書店員大賞(さけのみしょてんいんたいしょう)は、千葉県近辺の本と酒が好きな書店員と出版社営業が集まり、最も売り出したい本をコンペティションで決定する賞
第15回(2019年)
『川の光』 松浦寿輝 2018年5月 中公文庫
『美人薄命』 深水黎一郎 2013年4月 双葉文庫
『阪堺電車177号の追憶』 山本巧次 2017年9月 ハヤカワ文庫

第16回(2020年)
『小夏と麦の物語』 飛騨俊吾 2018年11月 双葉文庫

第17回(2021年)
『龍の耳を君に』 丸山正樹 2020年6月 創元推理文庫
『殻割る音』 中村汐里 2020年12月 小学館文庫

 第18回酒飲み書店員大賞受賞作は、『謎解き広報課』(著/天祢涼 幻冬舎)とのこと。

 Wikipediaに書かれている「千葉県近辺の本と酒が好きな書店員と出版社営業が集まり」というところで、ちょっと嫉妬してしまいます。フリーランスの編集者やライターは、なかなか情報交換する機会が得られないからです。
 また、ブックライターとして関わっている本は「これは私が書いた本なのです!」と書店にアピールしにくく、売り場をウロウロしては「よろしくお願いします!」と胸の中でつぶやいている状況。

 ただ、著者(小説家など)も、普段の生活で情報交換する場がなかなかないと思います。仕事で接するのは担当編集ぐらいで、多くの場合、「●●先生には△△」と固定されがちだからです。

 それから、一口に「本」といっても、数多くのジャンルがあります。
 実用書と文芸では、仕事の進め方が異なります。加えて、刷り部数もかなり違うようです。

 先日、エッセイの著者が「6刷で1万部」とツイートしていました。一方、3月発売の私が関わった実用書は、3刷で1万4000部になっていたのです。このことから、刷り方が全然違うのだと、驚いた次第です。
 なお、「3刷で1万4000部」は実用書でも「かなり強気」と判断されます。実用書というジャンルの中でも、出版社の方針で刷り部数は異なります。

伊藤 昔は10万部以上を言ってましたけど、今は2~3万部でもベストセラーと言っていますね。

 ベストセラーは何万部以上を指すのか?
 初版はどれくらい刷るのか?
 10年ほど前は、実用書で20万刷るのは、「ベストセラーだけど、まあ、あり得なくもない」という数字でした。ムックだと3万が初版という時代もあった記憶が……
 コミックは、部数がもっと多いのかなと思ってみたり。
 
 本のジャンルについては、興味深い話が『本屋と図書館の間にあるもの』に掲載されていました。

伊藤 (中略)例えば百田尚樹さんの『日本国紀』なんですけど、あれは僕ともう一人の司書さんと話をして、歴史書で入れるのは明らかに間違いだろうと。じゃあ、どうやってリクエストに応えようか。小説ならいいんじゃないかということで、9分類に入れました。913.6の〔ヒ〕です。歴史ではないよねと。

 この判断に、「なるほど!」とつい笑ってしまいました。確かに、小説ですね。
 同じ一冊の本でも、「どのジャンルに属するのか?」の判断が、人それぞれで違うわけです。

 余談ですが、書店でエッセイの棚に置かれていた本が、ビジネスの棚に移動したところ、飛ぶように売れたという話を聞いたことがあります。
 どの棚に本を置くのか。
 これは、読まれ方まで左右してしまう、とても重要な要素なのです。

 『本屋と図書館の間にあるもの』では、千葉県での本の取り組みがいくつか紹介されていて、「実は、スゴイ県だったのね」と見直してしまいました。県民なのに、知らなかった……
 取り組みの一つが、佐倉市のブックフェス。「志津地区を代表する書店と図書館、加えて県外の出版社18社がタッグを組み、さらにパワーアップした本のお祭り」とのこと。詳細については、以下の記事を参照してください。



 以下、『本屋と図書館の間にあるもの』から。

 本と人との関わりについて。
石川 本の所有者が亡くなると、次の世代の人にとって、本の多くがゴミなんですよね。

 本を知るきっかけについて。
石川 (中略)地元の人だよということをアピールする方法もあるんだなと。
伊藤 
 (中略)だから、僕がよかれと思って紹介する文芸書じゃなくて、もっとみんなが身近に感じることをきちんと書いたもののほうが、かえって喜ばれるのではないかと。 

 書店と図書館について。

伊藤 (中略)書店と図書館では、フェアの打ち方が違うんですね。図書館は同じものが1冊しかありませんが、書店の場合はフェアとなると同じものを10冊20冊、しかも10点20点と大きな島にして、そこにポップをつけたりして、やるわけですね。

内野 (中略)ほとんどの図書館では閉架にどんな本が入っているか、市民にはわからないので、私も初めて役所の人間として図書館に移動になって、それまでは開架しか見てなかったから、図書館の蔵書ってこんなものかなと思っていたけど、閉架書庫を見たときに感動しました。

伊藤 リクエストという制度は、いいんだろうけど、あれによって棚がかなりゆがめられるという考えもありますね。

内野 役所が先導しちゃうとだいたい長く続かないんですよ。役所が旗を掲げて、最初に補助金か何かお膳立てしてやってくださいというと、最後は市民が疲弊しちゃって役所にいいように使われて終わってしまったみたいな。

内野 本屋さんの中には、ほしくても新刊が届かないと、よく言うじゃないですか。
伊藤 だから、その言い訳は絶対に許さないですよ。それはあなたに知識がないだけだと。
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