発達障害は「先天的だからといって固定したものではない」 『子どもの発達障害 誤診の危機』

 日本では「発達障害ブーム」が続いているそうです。「発達障害バブル」という言葉も見かけました。

 
 確かに、書店には「発達障害」と書かれた書籍が大量に並んでいます。インターネットでも「食事療法で発達障害を治す」「発達障害に効くサプリ」といった文言が散見されました。

 協調性に乏しい人について「あの人、発達障害だからさ~」と表現するケースも珍しくありません。
 教師も、手がかかる子どもに対して「発達障害の疑いが高い」と言いたがると聞きました。その結果でしょうか、特別支援学級の児童数が増えているとのこと。



 大人に対しても子どもに対しても、対人関係などで問題を抱えると「発達障害」と言いたくなるのが、今の日本かもしれません。




 発達障害への認知・理解が広がるほど、正しいものと、必ずしもそうではないものが混在し、頭を抱えたくなることがあります。
 このように、『子どもの発達障害 誤診の危機』(ポプラ新書)に書かれていました。著者の榊原洋一医師は、半世紀にわたって発達障害を研究してきた小児科医師です。

 発達障害の診断は、脳波やCT、医療的検査ではなく、医師の診察によります。医師の医療方針によっては、見解が異なることがあるのです。
そのために、誤診・過剰診断が行われているのだそうです。

 
 発達障害は診断名ではありません。「注意欠陥多動性障害」「自閉症スペクトラム障害(かつての自閉症、アスペルガー症候群、広汎性発達障害が統一された名称)」「学習障害」などの総称です。これら3つはまったく別の、それぞれが独立した障害であるため、対応や治療も異なるとのこと。
 そして知的障害については、今日の基準からすると発達障害ではないのですが、一般的には混同されているケースが多いのではないでしょうか。

 そのほかにもさまざまな原因があって、発達障害が正しく認知されていないということです。医療・教育・行政の現場でも、混乱を来しているのが現状。

 榊原洋一医師は、日本の医療制度が過剰検査につながっているのではないかと指摘しています。クリニックの台所事情によって、不要な検査も行っている可能性があるのです。

 そして、半年の診療期間で、自閉症スペクトラム障害と他院で診断された子ども100人の中で、約20人が誤診・過剰診断を受けていたと考えられるのだそうです。
 原因としては、新患の数が多く、1人の患者に割ける時間が短いこと。そして、自閉症スペクトラム障害の「スペクトラム」が「連続体」という意味のため、なんとなく診断してしまった可能性があることが挙げられていました。
 医師だからといって、病気を正しく理解できているとは限らないようです。

 誤診・過剰診断で不必要な薬が投与されていることを、榊原洋一医師は問題視しています。

 
  『子どもの発達障害 誤診の危機』では、一般常識の誤りについて、いくつか指摘されていました。

障害には早期発見・早期療育が有効である、という誰でも納得できそうな言葉を信じて、約40年前私たち小児科医は間違いを犯しました。
私は、自閉症スペクトラム障害(発達障害の一つ)は治らない、という常識が必ずしも正しくないと考えます。
もともと子どもは発達とともに次第に多動ではなくなり、自分を律することができるようになってくるのです。これは、注意欠陥多動性障害の子どもにも当てはまり、次第に多動が目立たなくなってくるのです。
先天的だからといって固定したものではないのです。
大人の注意欠陥多動性障害は、子ども時代の注意欠陥多動性障害が大人になるまで持ち越された状態だけではないということがわかったのです。つまり、大人になって初めて症状が表れることがあるということです。
発達障害は、圧倒的に男性に多い障害である、というのがこれまでの常識でした。男性に多いという点は、現在でもその通りですが、圧倒的にという形容詞ははずさなくてはいけないことがわかってきています。


 
 子どもの発達障害については、周りの大人たちに「どのように育ってほしいのか」という長期的な視点が欠けているのかもしれません。
 "障害"=大人にとって目の前にある不都合な言動で、"障害"を消すことに躍起になって、安易に診断が下されているのではないでしょうか。

「病名がつくと安心する」

 多くの人がそんな気持ちを抱いているようです。しかし、その"安心"の先にあるのは、「発達障害だからさぁ」という言い訳に満ちた人生なのでしょうか、苦しさや悩みも含めた充実した人生なのでしょうか。
 子どもたちと向き合いながら、大人も考えていきたいところです。
 
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