腎臓を巡る、長く、曲がりくねった物語 その7 生き延びるために必要なシステムRAASによって、命が脅かされるという皮肉
※フリーランスの編集者・ライターである『クラナリ』編集人(バリバリの文系)は、腎臓に関する記事や書籍に携わる機会が多いため、それに関連していろいろと考察しています。素人考えですが。
■臓器の重さランキング
1位 皮膚 体重の15%
2位 脳 体重の2~2.5%
3位 肝臓 体重の2%
4位 肺 体重の1.6%
5位 心臓 体重の0.5%
6位 腎臓 体重の0.5%以下
7位 膵臓 体重の0.1%
※『クラナリ』編集人がネット検索できた範囲でのランキング
※日本人の場合、胃の容量は1.2~1.6リットル、小腸の長さは約6〜7メートル、腸は約1.5メートル
※骨格筋は体重の40~50%、骨は15~18%、体脂肪は男性が10〜19%で女性が20〜29%とされているが、個人差が大きい
■安静時の血液配分ランキング
1位 肝臓・消化管 25~30%
2位 腎臓 20~25%
3位 骨格筋 15~20%
4位 脳 13~15%
5位 心臓の冠状血管 4~5%
6位 皮膚 3~6%
この2つのランキングに基づいて、水中国家の図も修正しました。
ランキングを見比べると、皮膚は重いのに血液の配分が少なく、逆に腎臓は軽いのに血液配分が多いことが見えてきます。
数字にして、ちょっと驚きなのは心臓が軽いこと。全身に十分な酸素や栄養を供給するために、1日になんと10万回も、ポンプとしてシュコシュコと血液を送り出しています。
血液を送り出す圧力といえる血圧(正確には、心臓から送り出された血液が血管壁を押す力)は、あまりに高くても、あまりに低くても、健康な状態は保てません。血圧が高くなれば、輸送路である血管に負担がかかります。低くなれば、体の隅々まで血液が届きません。
そのため、血圧をコントロールするシステムが、体にはいくつも備わっています。
ただ、どうやら血圧を低くするシステムは自律神経系ぐらいのようです。一方、血圧を高めるシステムは、秒単位の短期的なものから週単位の長期的なものまで、数多くあります。
理由として挙げられていたのが、「血圧が少々高くても生命にはすぐに影響を与えないが、血圧が低いと動けなくなるので危機に陥る」ということ。敵に襲われたときに、血圧が低いせいでボーッとして体が動かなければ、死に直結します。また、血圧を高くできた種が生き延びられたとも考えられますよね。血圧が高いほうが都合がよかったのです、これまでは。
血圧を高めるシステムのうちの1つが、腎臓と関係しているレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系(RAAS)です。RAASについては、『クラナリ』編集人が腎臓関連の書籍を編集した際、作図で非常に苦しみました。作図担当者に仕組みを伝えても、出てきた図がまったく違うものだったからです。「これは、わかりにくいんだな……」と実感していますが、そんな素人が説明してみましょう。
肝臓で作られるアンジオテンシノーゲンは、大きなタンパク質で、血流中を循環しています。ぶらぶらと動いているだけで、何かに働きかけることはありません(生理活性はほとんど認められていない)。
腎臓から分泌されるレニンというタンパク質分解酵素の作用で、アンジオテンシノーゲンはアンジオテンシンⅠという小さい物質に変化します。このアンジオテンシンⅠも、ぶらぶらと動いているだけで、何かに働きかけることはありません(生理活性はほとんど認められていない)。
肺をアンジオテンシンⅠが乗った血液が循環している間に、アンジオテンシン変換酵素(ACE)の作用で、アンジオテンシンⅠはアンジオテンシンⅡという、より小さい物質に変わります。アンジオテンシンⅡになった途端、さまざまな働きをします。
■アンジオテンシンⅡの働き
末梢血管収縮作用
副腎皮質でのアルドステロンの分泌を促進
細胞増殖や肥大や分化などに広く関与
腎臓でのエリスロポエチン産生を促進
アルドステロンは腎臓の遠位尿細管に働きかけて、血液中のカリウムを排泄させて、ナトリウムの再吸収を促進し、血液の水分量を増やします。その結果、血圧が上昇します。
消化器系の肝臓。
泌尿器系の腎臓。
循環器系の肺。
この3つが関係しているわけですが、腎臓と肺については、進化の歴史の中で、動物が陸上に進出する際に大きく発達した臓器です。
そのため、RAASは陸上で生き延びるために、私たちの祖先が獲得したシステムという見方がされています。そんな重要なシステムが、飽食・運動不足の現代の生活では高血圧を招くという、皮肉な結果となっています。シクシク。
■参考資料
RA系とバランスのいい医師の育成
アンジオテンシノーゲン
レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系(RAAS)は元来,生物が海から陸上へと進出する進化の過程で,海水と同じ組成の細胞外液を体内に保持し,陸上での生存を可能にするために発達し獲得された。一方,重症心血管疾患において賦活化されるRAASは,末梢血管抵抗を上昇させ,体液中のナトリウムを貯蓄させることで循環動態の維持に働く,いわば生体の代償機転と考えられる。しかしながら,その持続的過剰活性は心臓や腎臓,血管において肥大や線維化,酸化ストレス発生などを引き起こし,逆に病態を悪化させるようになる。このように,進化の時間軸からするとあまりに劇的に変化した現代の生活環境において,生命の維持に不可欠であるはずのRAASは,その生理学的意義に反し,様々な心血管疾患の病態形成に寄与している。レニン-アンジオテンシン系は循環調節や体液調節に重要な酵素・ホルモン系である1)。腎臓から分泌されるレニンは,肝臓で作られる血漿タンパク質であるアンジオテンシノゲン(AGT)に作用して,N末端からアンジオテンシンⅠ(ANGⅠ)を切り取る。ANGⅠは肺循環を通る間にアンジオテンシン変換酵素(ACE)により活性型のANGⅡに変換される。ANGⅡは強力な血管収縮作用,飲水誘起作用,アルドステロン分泌促進作用などを示し,ACE阻害剤やANGⅡ受容体のアンタゴニストは心不全,高血圧,水・電解質代謝異常などの治療において,重要なターゲットとなっている。
これまでに,AGTを含む血漿とレニンを含む腎抽出物をインキュベートしてANGⅠを産生し,それを精製することにより多くの動物でANGⅠの配列が決定されてきた(図1A)。調べられた動物は,円口類に属するヤツメウナギから哺乳類まで多様である2)。しかし,系統的に原始的な種では血漿AGT濃度やレニン活性が低く,十分な量のANGⅠを生成するためには百ミリリットル単位の血漿と数十グラムの腎臓組織を必要とする。そのため,まれにしか捕獲できない種や腎組織が未発達なメクラウナギなどでは,この方法を用いて配列決定に十分な量のANGⅠを生成することは不可能であった。
高齢時の体液貯留かつ低栄養を惹起する鍵分子はバソプレシンなのか?
飲水と摂食には密接な関係がある。高齢者において、摂食低下による低栄養状態(低アルブミン血症)および体液貯留(慢性心不全)はよく遭遇する病態である。これは、抗利尿ホルモン(バソプレシン)分泌増加による体液貯留と同時に摂食が抑制されている可能性があり、バソプレシンの情報伝達メカニズムに何らかの破綻が起こっていることが考えられる。
高齢者では,細胞内液量が減少し各臓器の機能が低下しているため,若年者に比して水・電解質異常を来しやすい.血清ナトリウムの異常は最も頻度の高い電解質異常であり,抗利尿ホルモンであるバソプレシンの相対的高値にて抗利尿ホルモン不適合分泌症候群(SIADH)が,その欠乏にて中枢性尿崩症が引き起こされる.重症の低ナトリウム血症においては,浸透圧性脱髄症候群の予防のために,血清ナトリウム濃度の補正は1日8~10 mEq/Lに留めることが重要である.
高齢者の不眠
https://www.jpn-geriat-soc.or.jp/publications/other/pdf/review_geriatrics_49_267.pdf
※「えっ! 皮膚は臓器にカウントするんですか?」問題。
高齢期に発症する SAS で注意すべきことは,肥満傾向が認められなかったり,いびきが中年期の SAS と比較して小さい場合があること,また日中の眠気についての自覚症状が乏しい傾向があることから,SAS の存在を見落としやすいという点である.日中の眠気がある場合でも,加齢に伴う睡眠の変化によって生じるものとの区別がつきにくい.
高齢者の睡眠時呼吸障害が夜間頻尿や尿失禁に関連する可能性が報告されている.RDI(Respiratory Disturbance Index)が 25 以上の群は RDI が低値である群と比較して,夜間,排泄のために覚醒する頻度が高かった28)
.睡眠時呼吸障害が夜間頻尿をもたらす機序としては,胸腔内の陰圧により心血管系が膨張することによって,心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)の分泌が増加し,この ANP の働きにより,ナトリウムと水分の排泄が促進され,バソプレッシンやレニン―アンギオテンシン系が抑制されることが考えられる29)
※「えっ! 皮膚は臓器にカウントするんですか?」問題。
京都大学大学院医学研究科皮膚科学の椛島健治教授は、以下のように述べていました。
皮膚は、脳や腎臓や肝臓などと同様に、特定の形態と重要な生理作用を持つ「臓器」であることがわかってきました。
※余談ですが、間質を"新しい臓器"にカウントすべきだという主張が2018年にあったようですね。
顕微鏡の進歩で、間質の働きを観察できるようになったとのこと。
ヒトの器官で最大の器官が新たに発見される 2018年3月29日(木)14時20分
「皮膚の下にあり、消化管や肺、泌尿器系に沿ったり、動脈や静脈、筋膜を囲んだりしている層は、従来、結合組織と考えられていたが、実は、体液を満たし、相互に連結し合う区画が、全身にネットワーク化されたものであることがわかった」とし、「これを間質という新たな器官として定義すべき」と世界で初めて提唱した。
体重のおよそ20%に相当する体液で満たされた間質は、強度の高いコラーゲンと柔軟性のあるエラスチンという2種類のタンパク質による網目構造で支えられており、臓器や筋肉、血管が日常的に機能するように組織を守る"衝撃緩衝材"のような役割を担っている。
また、注目すべき点として、体液の移動通路としての働きがある。この体液がリンパ系に流れ込むことで、いわば、免疫機能を支えるリンパの元となっているのだ。
従来、顕微鏡での解析では、固定により生化学反応を停止させた組織が使われてきたため、間質そのものを観察することができなかった。固定によって、体液が流れ出て、体液で満たされていた区画を囲むタンパク質の網目構造が平たくつぶれてしまっていたからだ。
「生きた組織を共焦点レーザーエンドマイクロスコープ顕微鏡で観察することで、その空間が拡張され、液体で満たされていることがはっきりした」「一度見たものを忘れることはできない」(シース教授)
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