腎臓を巡る、長く、曲がりくねった物語 その9 それで、体に入ってきた脂質はどこでどうなるのか?
※フリーランスの編集者・ライターである『クラナリ』編集人(バリバリの文系)は、腎臓に関する記事や書籍に携わる機会が多いため、それに関連していろいろと考察しています。素人考えですが。
腎臓を巡る、長く、曲がりくねった物語 その2 水中国家のエネルギー問題 消化管 で「脂質は糖質やタンパク質とは別ルート」と紹介しました。では、どんなルートをたどっているのでしょうか?
まずは脂質についてのおさらいから始めましょう。
私たちが体内に取り込んでいる脂質には、トリアシルグリセロール、コレステロールなどがあります。
脂質:トリアシルグリセロール
トリアシルグリセロール(TAG、TG、別名「中性脂肪」「トリグリセリド」)は、食べ物に含まれている脂質で最も多く、グリセロールと3つの脂肪酸が結合したものです。
![]() |
トリアシルグリセロール(農林水産省サイトより) |
グリセロール(別名「グリセリン」)は、3個のヒドロキシ基(−OH)を持つ、3価のアルコールです。
体内では、グリセロールはATPによって活性化されグリセロール3-リン酸となって脂質の合成に使われたり、酵素の働きでジヒドロキシアセトンリン酸になって解糖系または糖新生に利用されたりします。
脂肪酸は、炭素(C)と水素(H)と酸素(O)の3種類の原子で構成され、炭素が鎖状につながった一方の端にカルボキシル基(-COOH)がついています。炭素の数、そして炭素同士のつながり方などの違いで、脂肪酸の種類や性質が決まります。
食品に含まれる脂肪酸には飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸があります。
不飽和脂肪酸は、脂肪酸を構成する炭素の結合の仕方によって一価と多価に、多価はさらにn-6系とn-3系とに分けられます。植物油に含まれるオレイン酸は一価不飽和脂肪酸、リノール酸はn-6系、α-リノレン酸はn-3系の多価不飽和脂肪酸に分類されています。
脂質:コレステロール
ステロールは、動植物界に広く存在する脂質で、植物ステロールとコレステロールがあります。シクロペンタノフェナントレン環を骨格として持つ化合物であるステロイド類の中で、骨格の3位にヒドロキシ基を持ち、炭素数が27~30のものをステロールといいます。
植物ステロールは、ほとんど人間の体内に吸収されません。
コレステロールは、細胞を包む細胞膜の主成分です。
![]() |
コレステロール(Wikipediaより、一部改変) |
また、ホルモン(副腎皮質ホルモン、性ホルモンなど)の原料になるほか、胆汁の主成分である胆汁酸の原料となって脂肪やビタミンの吸収を助ける働きをします。
このように、コレステロールは細胞の働きの調節や栄養素の吸収などに関わっていますが、エネルギー源として使用されることはありません。
体に必要なコレステロールは、約2~3割が食べ物から、残り約7~8割は糖質や脂肪酸を原料として主に肝臓で作られます。そのほか、小腸や皮膚などでもコレステロールは作られていて、体内で作られたコレステロールは「内因性コレステロール」と呼ばれています。コレステロールは夜間に活発に合成されます。
食べ物で摂取したコレステロールは「外因性コレステロール」と呼ばれています。
体内での経路
食べ物に含まれているトリアシルグリセロールとコレステロールは、十二指腸で胆汁と出会います。胆汁には界面活性作用、おおざっぱにいえば、食器洗いでベトベトの油汚れを落とす洗剤のような作用を持っています。
そして膵臓から分泌されるリパーゼという消化酵素の働きで、トリアシルグリセロールは、グリセロールと脂肪酸に分解されます。そして小腸絨毛上皮細胞から吸収されます。
吸収された後は、グリセロールと脂肪酸はトリアシルグリセロールに再合成されます。
コレステロールは胆汁で小さく分散されているので、こちらも小腸絨毛上皮細胞から吸収されます。
小腸で、トリアシルグリセロールとコレステロールは、アポタンパク質と結合して、リポタンパク質になります。
あくまでもイメージですが、「大阪のみたらし団子」を例にすれば、トリアシルグリセロールとコレステロールはあんで、アポタンパク質とリン脂質がもちとなって包み込むことで、血液を流れられる状態になるわけですね。
![]() |
リポタンパク質(LDL コレステロールとは? その測定法の問題点と解決策は?より) |
このときのリポタンパク質は「カイロミクロン」という大きな粒子です。
リポタンパク質は、組成によって比重や大きさが異なり、次の5種類に分けられています。
![]() |
リポタンパク質の種類(LDL コレステロールとは? その測定法の問題点と解決策は?より) |
![]() |
リポタンパク質の分類(血漿タンパクの種類と機能より) |
〇CM(カイロミクロン、キロミクロン)
最も密度が低く(0.95g/mL以下)、直径100nm以上の非常に大きなリポタンパク質です。小腸から吸収された外因性コレステロールを運んでいます。
血液に乗って全身に運ばれている間に、脂肪組織や心臓の血管内皮に結合したリポタンパク質リパーゼ(LPL)の作用でトリアシルグリセロールを失い、カイロミクロンレムナントになって肝臓に取り込まれ、肝臓ではVLDL(超低密度リポタンパク質)に作り替えられます(レムナントは残り物という意味)。
カイロミクロンレムナントから分離したトリアシルグリセロールは、グリセロールと脂肪酸に分解され、細胞内に取り込まれます。
脂肪酸は細胞小器官(オルガネラ)で代謝され、リン脂質合成やエネルギー産生に利用されます。また、脂肪細胞の中に蓄えられます。
リン脂質は、分子の中にリン原子をリン酸エステルの形で含む脂質の総称。 エステル結合(-COO-)を持つ化合物がエステルです。
リン脂質は、細胞を包む細胞膜の必須成分です。
※1nm=10のマイナス9乗m(10億分の1メートル)=0.001μm(1000分の1マイクロメートル)
〇VLDL(超低密度リポタンパク質)
密度が 0.95~1.006g/mL、直径が30~70 nm のリポタンパク質で、肝臓で合成されます。VLDLは、肝臓などで合成されたトリアシルグリセロールやコレステロールエステル(コレステロールと脂肪酸が結合したもの)を体の隅々まで運んでいます。毛細血管壁にあるリポタンパク質リパーゼの作用を受けると、トリアシルグリセロールの大部分を失って、IDL(中間密度リポタンパク質)やLDL(低密度リポタンパク質)になります。
〇IDL(中間密度リポタンパク質)
密度が1.006~1.019g/mL、直径が25~35 nmで、肝性トリグリセリドリパーゼ(HTGL)の作用などでLDL(低密度リポタンパク質)になります。
〇LDL(低密度リポタンパク質)
LDLとは、肝臓から出てきたVLDLなどリポタンパク質が小さくなったもので、血液中で最も多く存在します。密度は 1.006~1.063 g/mLで、直径が18~25nm。この中に含まれるコレステロールをLDLコレステロールといいます。全身の組織や細胞は、主にLDLからコレステロールを取り込み、細胞膜やホルモンを作ります。LDLは血管壁に入り込んで動脈硬化の原因になるので「悪玉コレステロール」と呼ばれることがあります。
〇HDL(高密度リポタンパク質)
HDLは、腸上皮細胞と肝臓で合成されています。密度は1.063~ 1.21 g/mLで、直径が5~12nm。細胞で使われなくなったコレステロールを肝臓に運ぶリポタンパク質で、この中に含まれるコレステロールをHDLコレステロールといいます。HDLは血管からもコレステロールを引き抜いて回収するので、「善玉コレステロール」と呼ばれることがあります。
HDLは肝臓へ戻ってきて、VLDLになって再びコレステロールを運んだり、胆汁酸になって小腸へ送られて便として排出されたり、小腸で再吸収されて再び肝臓へ送られたりします。
あくまでイメージですが、HDLが野球ボールだとすると、カイロミクロンは小型の気球レベルに大きくて密度が低いというわけですね。
このように、体に入ってきたコレステロールとトリアシルグリセロールは、カイロミクロンというボールになって、リンパ管に入って、心臓から全身へと運ばれるのです。
以上のことから、脂質については体内で何度も再合成されるほか、不要なものは便として排出されているようです。
脂質が血液中で異常に多くなる「脂質異常症」では、粥状動脈硬化などを招き、腎臓の血管でも動脈硬化が起こります。ですから、脂質異常症と腎臓との関連性が指摘されています。
■参考資料
日本動脈硬化学会
LDL コレステロールとは? その測定法の問題点と解決策は?
農林水産省
Leave a Comment