「エフェクチュエーション」の世界観の説明に、不時着した飛行機のイラストが使われている理由とは?

  成功を収めてきた起業家から「長年の経験や苦労から何を学んだのか」を聞いて、思考プロセスや行動のパターンを体系化したのがエフェクチュエーション(Effectuation)。

■「今」を起点に何ができるか、かすり傷で済むのはどんな行動かを臨機応変に考える「エフェクチュエーション」


 そんなエフェクチュエーションについては、経営学を学ぶ人だけでなく、さまざまな立場の人がさまざまな持論を述べている傾向があります。
 そして最もバラつきがあったのが、「飛行機のパイロット」の原則 (Pilot-in-the-Plane Principle) 。それで、本家本元はどのように説明しているのかを調べることにしました。

 エフェクチュエーションのサイトでは、エフェクチュエーションのすべてが、惜しみなく説明されていました。英語なのですが。

■エフェクチュエーションのサイト

 「エフェクチュエーションの5つの原則」は直訳すると、以下のとおりです。
Means   BIRD-IN HAND
Affordabke Loss   FOCUS ON DOWNSIDE
Co-Creation Partnership  CRAZY QUILT
Leverage Contingencies     LEMONADE
Worldview:CONTOROL vs. PREDICTION

手段は「手中の鳥」
許容可能な損失は「下方に集中」
共創するパートナーシップ(結びつき)が「クレイジーキルト」
不測の事態をてこにする(きっかけにする)「レモネード」
世界観は「操作 対 予測」


 「操作 対 予測」という世界観の説明で、「飛行機のパイロット」の原則が登場するのですが、イラストについては胴体着陸した飛行機から脱出する様子が描かれています。着陸したのは水面でしょうか、草原でしょうか……



 まずは、「飛行機のパイロット」の原則については、何が書かれているのか確認しましょう。

By focusing on activities within their control, expert entrepreneurs know their actions will result in the desired outcomes. An effectual worldview is rooted in the belief that the future is neither found nor predicted, but rather made

----
 熟練した起業家は、自分がコントロールできる範囲内の活動に焦点を当てることで、自分の行動が望ましい結果をもたらすことを知っています。エフェクチュエーションにおける世界観は、「未来は発見されたり予測されたりするのではない。むしろ作リ出されるものなのだ」という信念に根ざしています。
----
The pilot in the plane principle emphasizes the importance of control, co-creation, and shaping the future in uncertain entrepreneurial environments. Effectual entrepreneurs, like pilots controlling an aircraft, steer their ventures by leveraging the resources they have at their disposal.

----
「飛行機のパイロット」の原則では、起業する際の先が見通せない(不確実な)状況で、コントロール、共創、そして、未来の形成が重要であると強調されています。
 エフェクチュエーション的な起業家たちは、飛行機を操縦するパイロットのように、自分が思いどおりにできる資源(リソース)を活用して、冒険的な事業(ベンチャー)を進めます(steer)。
 ただし、起業家たちは単独で行動する(navigate)わけではありません。起業家たちは、ほかの"パイロット"、つまり利害関係者、パートナー、消費者との共創に、積極的に取り組んでいます。そしてほかの"パイロット"は、事業に独自の資源と視点を運んできてくれます。
 このように協力するプロセスを通して、起業家たちはより幅広い手段が得られて、一人ではできなかったであろう、新しい機会を生み出すことができます。

 エフェクチュエーション的な起業家たちは、未来にただ適応するのではなく、未来を創造しようと努力します。起業家たちは、予測や広範な計画に依存することはありません。その代わりに、自分が選んだ「共創者」(彼らも事業のために努力している)とともに、行動と自分の意志(decisions)によって、未来を創り出すことに集中します。
 利用できる手段を活用し、他者と協力することで、起業家たちは積極的に起業家として一歩ずつ足固めしていき(mold their entrepreneurial journey)、自分の望む未来を構築することができます。

 「飛行機のパイロット」の原則は、先が見えなくなったときに(不確実な事実に直面したときに)、自分の主体性を擁護して(embrace)、事業を調整することを奨励します。「成功する事業は、協力的な取り組みによって築かれるものである」という認識は、共創の力を強く示すものなのです。
 単に未来に適応するのではなく、未来を形作ることで、起業家たちは革新的な解決策を生み出し、事業を前進させることができます。
----

 不時着や胴体着陸といったワードは登場しませんでした。

 そのため、あくまでも個人的な推測ですが、「ヤバイ事態になっても、『自力でできることで、なんとかしよう』『周りに似た考えの人がいたら協力しよう』と考えて、行動し続ければ、どこかに着地できる」ということが、「飛行機のパイロット」の原則ではないかと。
 トラブルに見舞われたとき、目的地に行くことに固執したり、「どうしよう」と考え事にふけったりしていると、墜落するリスクが高くなります。
 車や船と違って、飛行機は止まったら落ちて、乗客は死にます。それを回避するためには、着陸するまでは、ひたすら飛行機を操縦するしかありません。

 事業についても、どこか着地点に到達するために、起業家は自分で事業を動かし続けるしかないということでしょうね。


 なお、「飛行機のパイロット」の原則に関する英文を訳してみたのですが、なかなかつらいものが……
 ただ、結論は、「自分の人生は自分でコントロールしたいじゃん」「先のことばかり気にしちゃいけないよ」「今できることを、やっていこうよ」のようですね。



---
 人類の歴史と同じぐらい、パーソナル・コントロールを求めるための必死の努力は、古くからあるものです。つまり、原始的で、生まれながらのものということ。
 人生で起こる出来事を、いや、自分の全人生をコントロールしたいとほとんどの人が望んでいます。そして、こうしたコントロールするための努力は、歴史と文化に共通して見られるものです(spanの動詞は「及ぶ」だが、意訳)。これらに関する証拠はたくさんあります。
 現在における「コントロールするための努力」の場、メカニズム、手段は、昔とは違います。しかし、議題は依然として残っています。
 実際、心理学研究によると、人間の行動の多くは、なんらかの形でコントロールしようと努力することに関連していて、本質的に人間の健康な機能に結びついていることが示唆されています。
 例として、パーソナル・コントロールは自尊心の発達とストレスの軽減に関連しています。ですから、コントロールを失うと無力感や憂うつ感が高まる可能性が高くなります。
 言い換えれば、自分の人生をコントロールしたいという願望があるからといって、あなたが「コントロールフリーク」になるわけではありません(友人が何と言おうと!)。むしろ、それは正常で健康です。

---
※パーソナル・コントロールとは、「自分自身の行動を、不快な出来事 (状況) に対して望ましい結果をもたらすことが可能であるとする評価、 及びこれに関する信念もしくは能力 」

 予測した未来にたどり着くのではなく、未来は自分で創る。
 これがエフェクチュエーションの世界観なのかもしれません。


※エフェクチュエーションを提唱したサラス・サラスバシー教授の文章の和約がありました。

なぜ起業家は「起業家的」なのか?

 この文章には、「飛行中のパイロット」という表現はありませんでした。ただ、面白い例が挙げられていました。なお、『クラナリ』編集人が改行を加えています。

 夕食を作るという単純な作業を用いて、この2つのタイプの推論を対比させることができるでしょう。
 特定のメニューを与えられたシェフが、そのメニューの中から自分の好きなレシピを選び、材料を仕入れ、設備の整った自分のキッチンで料理を作るのは、コーザル思考の一例です。
 一方でエフェクチュアル思考の例としては、シェフが事前にメニューを与えられず、見知らぬキッチンに案内され、戸棚の中から有り合わせの食材を探し出して、それを使って料理を作らなければならないような状況が挙げられます。

 結びには、次が書かれていました。
 起業家は起業家的です。それは経営者的や戦略家的であることとは違います。なぜなら、彼らはエフェクチュアルに考えるからです。 
 彼らは、人間の行動によって形成されるまだ見ぬ未来を信じています。そして、この人間の行動が未来をコントロールできる限りにおいて、未来を予測しようとエネルギーを費やす必要がないことを認識しています。 
 実際、未来が人間の行動によって形作られるものである限り、未来を予測しようとすることはあまり意味のないことです。むしろ、未来を実現するための意思決定や行動に携わっている人たちを理解し、一緒に仕事をするほうがはるかに有益なのです。
Powered by Blogger.