心臓は内臓ではなかった問題
5つの器官系で構成される内臓の、全体としての特徴は何だろうか。形態学的には、体の内部にある器官系である。しかし、体内の器官系でも心臓や脾臓など、内臓に含まれないものは多い。また、機能的には、いずれも植物性器官系である。だが、同じ植物性器官系でも循環器系は、内臓には含まれない。つまり、やや歯切れは悪くなるが、内臓とは体の内部にある植物性器官系の一部を指す、というほかないのである。
※植物性器官系とは、栄養の摂取、呼吸、生殖など、動物にも植物にも共通して認められる「植物性機能」を受けもつ器官系
※筋系、感覚器系、神経系などは動物性器官系
えっ? 心臓や脾臓は内臓に含まれない???
非常に驚いてしまいました。
ただ、「内臓」「臓器」「器官」は、違いがわからず、なんとなく使ってきた言葉です。そんなわけで、今回はこれらの言葉について調べてみました。
まず、内臓。冒頭で引用した内容がなかなか信じられず、ネット検索をしました。
GoogleAIは、次のように説明しています。
心臓は内臓に含まれます。内臓とは、体腔と呼ばれる胴部の大きな空所に収められている器官の総称で、心臓や消化器、呼吸器、排出器、生殖器などが含まれます
しかし、皆さんもすでにご存じでしょうが、それを鵜呑みにしてはいけません。ネット上で「医師が書いた」「専門家が書いた」という文章に誤りがけっこう多いからです。
『ブリタニカ国際大百科事典』『改訂新版 世界大百科事典』だと、「心臓は内臓には含めない」と説明されていました。
内臓ないぞうviscera消化器,呼吸器,泌尿器,生殖器,内分泌器に属する器官をいう。内臓の多くは胸腔と腹腔内にあるが,鼻や口のように体表に近いものもある。古くは脳や心臓も内臓とされていたが,現在では,神経系と循環器系に属する器官は内臓とはしない。
内臓 (ないぞう)viscusからだの内部の腔所にある諸臓器の総称。俗に臓腑,はらわたともいう。メスやピンセットなどを使って細かく解剖しなくても,簡単に取り出せるような臓器が古くから内臓と呼ばれてきた。漢方医学で五臓(心,肝,腎,肺,脾)六腑(胃,大腸,小腸,膀胱,胆,三焦)といわれたものが内臓である。ただし,六腑のなかで三焦がなにものをさすかは昔も今も不明である。今日の解剖学において内臓学として取り扱うのは消化器,呼吸器,泌尿生殖器および内分泌器であって,臓器を取り出すことの難易など今では問題としない。心臓は明らかに胸部の内臓に属するが,これは循環器の大本をなす部分として,多くの場合内臓学から除かれている。また脾臓は腹部の内臓にまちがいないが,これも循環器に属するものとして内臓学からは除外されることがある。古くは脳も内臓の一つとして数えられたことがあるが,これは神経系の最も主要な部分であり,今日では当然内臓の外におかれている。→五臓六腑執筆者:小川 鼎三+藤田 恒夫
臓器の単数形がviscusで、複数形がviscera。その語源を調べると次のとおりでした。
visceral(adj.)1570年代、「内面の感情に影響を与える」として、フランス語のviscéralと中世ラテン語のvisceralis「内部の」から直接派生し、ラテン語のviscera、複数形で「内臓、身体の内部の一部」を意味するviscusからきていますが、その起源は不明です。内臓は感情の中心と見なされていました。
イメージとしては、日本語の「はらわた」というところでしょうか。「はらわたが煮えくり返る」など、感情を内臓と結びつけた表現があるからです。
古い時代だと、内臓は「キモ」と呼ばれていたとのこと。
ヒトの内臓の名称について,本居宣長は,古事記伝の中で「いはゆる五臓六腑の類を上代には凡て皆伎毛(キモ)と云しなり(各別に名あるは,後にからぶみの五臓六腑の名の字に就いて設けたるものなり)」と述べている[5].つまり,「上代では,内臓は全て「キモ」と呼んでいた.個々の内臓の名称は,当時の中国からの名称から付けられたものなのだ」と言っているのである.
大和言葉による人体内臓の名称https://www.jstage.jst.go.jp/article/bjrh/2/0/2_23004/_pdf/-char/en
「肝(きも)を冷やす」という慣用句があり、「キモ」は漢字だと肝臓だけを指しているように捉えてしまいますね。
生物学では、「器官」という言葉が使われています。
個体(organism)-器官系(organ system) system)-器官(organ)-組織(tissue)-細胞(cell)
個体から細胞へ
https://www.tmd.ac.jp/artsci/biol/pdf/intro.pdf
最小の単位が細胞。
形が同じ細胞が集まって、組織となります。〈例〉筋組織、神経組織、結合組織など
いくつかの種類の組織が集まって、特定の働きを持つのが器官。〈例〉血液を全身に循環させる働きを持つ心臓
器官がいくつか集まって、個体ができるということですね。
「器官」は動物・植物を問わず、使われる言葉です。
「器官」の中で、動物に関してだけ「臓器」という言葉を使い、「臓器」の中で胸腔や腹腔内にある植物性器官系の一部には「内臓」という言葉を使うということになります。
※フリーランスの編集者・ライターである『クラナリ』編集人(バリバリの文系)は、腎臓に関する記事や書籍に携わる機会が多いため、それに関連していろいろと考察しています。素人考えですが。
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