「動物」について、 超文系人間が調べてみた
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生物多様性のAI画像 |
動物の特徴の一つは、前と後ろがあることだ。https://diamond.jp/articles/-/223067
とても驚きました。確かに、植物には前と後ろはありません。ちなみに動物の前は、口があるほうなのだそうです。
このフレーズから、「そもそも、動物って何だろう?」という疑問が湧き、調べてみることにしたのです。
生物を動物と植物に二大別するのは伝統的観念であったが,現在では生物界の区分に関して種々の新しい意見が提出されている.このような分類の場合でも,単細胞のものを原生生物として区別するというような点を除けば,動物に関する古くからの観念に余り変化は及ばない.しかし,生物界全体の進化の過程が明らかにされないかぎり,生物界における動物の位置を確保すること,したがって動物の定義を確実にすることは不可能である.~(中略)~C. von Linneの分類では哺乳類・鳥類・爬虫類(両生類を含む)・魚類・昆虫類・蠕虫類の6綱がたてられた.この分類はJ.B. Lamarck, G.L. Cuvierらによって改革され,K.G.P. Leuckartの時代に至って現代的分類体系の基礎が作られた.現世の全動物種数は100万以上と言われる.【岩波書店「生物学辞典」】
※C. von Linne カール・フォン・リンネ、J.B. Lamarck ジャン=バティスト・ラマルク(1744 - 1829年)フランスの博物学者、G.L. Cuvier ジョルジュ・キュヴィエ(1769 - 1832年)フランスの博物学者、K.G.P. Leuckart カール・ジョージ・フレドリック・ルドルフ・ロイカート(1822 - 1898年) ドイツの生物学者
どう‐ぶつ【動物】 の解説1 生物を二大別したときに、植物に対する一群。多くは自由に移動することができ、植物などの作り出した有機物を栄養として摂取する。細胞壁がなく、種々の器官が分化し、神経系・感覚器官・排出器官・呼吸器官などをもつ。原生動物に分類されるものではほとんど植物と区別できないものもある。生態分布として、水生動物と陸生動物とに分けられる。2 人類以外の動物。特に、哺乳類をいう。獣類。
デジタル大辞泉
いろいろと調べたところ、動物については
1 多細胞生物である
2 植物ではない(光合成を行わない、従属栄養生物〈自分で栄養を無機物から取り出せない生物〉=だから口があり前・後ろがある)
3 菌ではない
という非常に微妙な立ち位置のようです。
なお、ミドリムシは単細胞生物で、光合成を行いますが、植物ではなく原生生物(protists、真核生物のうち、菌界にも植物界にも動物界にも属さない生物の総称)です。
また、多細胞の動物は後生動物(metazoa)と呼ばれます。
動物は脊椎があるかどうかで、無脊椎動物と脊椎動物に分類されます。
また、形から、放射相称、二放射相称、左右相称などが区別されます。
さらに、発生の過程で胚葉(germ layer)という細胞の構造が見られるかどうかで、無胚葉動物、二胚葉動物、三胚葉動物と区別されます。
胚葉には、外胚葉と内胚葉、中胚葉の3種類の細胞の層があります。
三胚葉動物には、これら3つの層が見られます。一方、二胚葉動物では、外胚葉と内胚葉が見られ、中胚葉がありません。
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内閣府のPDFより |
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カエルの発生 原腸胚から神経胚まで(Wikimedia Commonsすじにくシチュー) |
上の図にある陥入した(凹んだ)部分の原口(げんこう)が口になるのが旧口動物、原口が肛門になるのが新口動物です。
旧口動物に分類されるのは、扁形動物、輪形動物、線形動物、軟体動物、環形動物、節足動物です。
新口動物に分類されるのは、棘皮動物、原索動物、脊椎動物です。
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7.海の生きもののつながり(系統樹) 川崎市より |
体腔とは、体壁と内臓との間の隙間です。体腔は、中胚葉由来の細胞層に裏打ちされていない原体腔(=無体腔+擬体腔)と、中胚葉由来の細胞層に裏打ちされている真体腔が区別されています。
動物のルーツとなりそうだと考えられているのが、立襟鞭毛虫(たてえりべんもうちゅう)という原生生物です。動物に一番近い関係にある単細胞生物で、多細胞化に重要な遺伝子はなく、たとえ似た遺伝子であっても構成が違うとのこと。
動物(界)の分類(門)については、ザックリとまとめると、以下のとおりです。 なお、とても詳しいのは、「動物系統学(=無脊椎動物学)」の情報ページで、高知大学理工学部 海洋生物学研究室 遠藤広光教授が作成しているウェブページです。
■動物の分類体系
ザックリとした動物(界)の分類(門)
海綿動物
無胚葉動物で、組織や器官はありません。口と肛門を明確に分けることができないので、旧口動物・新口動物といった分類はされません。
平板(へいばん)動物
神経系を持たない動物で、センモウヒラムシの一種だけ。口と肛門を明確に分けることができないので、旧口動物・新口動物といった分類はされません。
刺胞(しほう)動物
その名のとおり、刺を発射させる細胞(刺胞細胞)を持っています。
多くは放射相称の構造をしていて、クラゲ類、サンゴ類、イソギンチャク類などが含まれます。二胚葉動物で、口があって肛門がないため、口から食べ物を食べて、体内の空所である腔腸(こうちょう)で消化し、食べカスは口から吐き出します。旧口動物・新口動物といった分類はされません。
有櫛(ゆうしつ)動物
クシクラゲなどの海の生き物で、二放射相称であり、体の表面を放射状に取り巻く繊毛の束「櫛板(くしいた)列」が8列あることが特徴です。クシクラゲは刺胞動物のクラゲと似ているため、かつては刺胞動物と有櫛動物をあわせて腔腸動物門に分類されていました。
単純な神経系を持ち、免疫や発生、神経機能に関与するものなど、あらゆる動物に認められる全ての種類の遺伝子が、有櫛動物はでは欠如しているとのこと。
植食性の動物プランクトンを捕食するうえに、代謝によってアンモニアやリン酸を多量に排出することから、植物プランクトンの現存量の変動に対して影響を持つのだそうです。旧口動物・新口動物といった分類はされません。
※プランクトンは、ドイツの海洋生物学者ヴィクトル・ヘンゼンによって、1887年に「漂流するもの」という意味のギリシャ語πλανάω(planáō)から命名。遊泳能力が比較的弱く、水中に浮かんでいる生物。
--- ここから旧口動物
扁形動物
プラナリア、ヒラムシ、コウガイビル、サナダムシなどの左右相称動物です。ほかの三胚葉性動物とは異なり、中胚葉は筋細胞と間充織が表皮と腸管の間を埋める状態。体腔がない無体腔動物です。
旧口動物で、消化管が備わっていて、腸の中で細胞外消化をします。 循環器官(血管)や特別な呼吸器官(えら)がなく、拡散によって全身に栄養や酸素を運んでいます。
消化管内では消化酵素により食物の分解が行われます。それにプラスして、腸の内壁には食細胞があって、ある程度分解された食物を食作用によって細胞内に取り込んで細胞内消化もするようです。肛門がないため、食べカスは口から外に出します。
全身の細胞の代謝によって生じた老廃物は、原腎管(腎臓のような機能を持つ器官)へ集められ、排出孔から外に出されるそうです。
岡山大学のグループが、広塩性(生物が塩分濃度変化の広い範囲に生存できる性質)のヒラムシで、抗利尿ホルモン系の祖先型を同定して「プラチトシン系」と命名し、抗脱水に必須であることも発見したとのこと。
渦虫綱
プラナリア、ナミウズムシ、コウガイビルなど。海水、淡水、湿地で生活し、腹面を覆う繊毛を使って、はうように移動します。有性生殖のほかに、体が分裂して無性的に増えるものもあります。動物の死骸や腐敗物を食べます。
単生綱
フタゴムシなど。魚のえらや体表、両生類の膀胱に寄生します。
吸虫綱
肝蛭(かんてつ)、肝吸虫、横川(よこがわ)吸虫、日本住血吸虫など。脊椎動物の消化管や肝臓、腎臓、血管内などに寄生します。
条虫綱
日本海裂頭条虫、有鉤(ゆうこう)条虫、無鉤条虫など。脊椎動物の消化管に寄生します。
輪形動物
ワムシなど。
線形動物
カイチュウなど。
線形動物と輪形動物は、同じグループ(袋形動物)に属していましたが、近年分類されました。左右相称動物で、三胚葉性動物です。偽体腔を持ち、繊毛で運動します。旧口動物です。原腎管があります。
軟体(なんたい)動物
イカやタコ、オウムガイ、ウミウシ、アサリ、ホタテ、カキ、カタツムリ、ナメクジなど、左右相称動物で、三胚葉性動物、旧口動物です。頭・胴・足の3つの部分で構成されています。胴は外套膜に覆われ、外套膜から殻が分泌されます。
軟体動物には、体節(たいせつ)がありません。
動物の体が、頭から尾にかけて互いによく似た外観、構造をもつ部分の繰り返しにより成り立っている場合、この繰り返しの単位を体節とよぶ。その典型的な例はゴカイ、ミミズなど環形動物にみられる。ミミズの各体節中には一対の腎管(じんかん)、腹神経節、横行血管、体腔(たいこう)などの構造が各一セット収められている。(中略)高等な動物は、表面からはそれとは認められないが、体節構造の名残(なごり)をもつ。原索動物のナメクジウオの筋節や、脊椎(せきつい)動物の脊椎骨は、これらの動物の体もやはり体節構造に基づいてつくりあげられることを示している。
体節とは、将来椎骨や肋骨、骨格筋、皮膚といった組織に分化する細胞群であり、一定の時間(マウスではおよそ2時間)ごとに、未分節中胚葉(presomitic mesoderm, PSM)とよばれる未分化な細胞の中から、ひとかたまりの細胞集団がくびれ切られることによって形成されます。
環形(かんけい)動物
ミミズ、ヒル、ゴカイなど、左右相称動物で、三胚葉性動物、旧口動物です。体は細長く、体節でできています。
左右相称で、真体腔です。脳のような神経の塊があり、神経系が発達しています。
節足(せっそく)動物
昆虫や甲殻類、クモ、ムカデなど、外骨格と関節を持つ左右相称動物で、三胚葉性動物、旧口動物です。たくさんの体節でできています。
--- ここから新口動物
棘皮(きょくひ)動物
ウニ、ヒトデ、クモヒトデ、ナマコ、ウミユリなど、成体は五放射相称で、三胚葉性動物です。石灰質のプレートで囲まれた体腔を持ちます。管足と呼ばれる触手が全身を覆っています。
新口生物で、口は片側の表面中心にあり、肛門は反対側表面の中心にある。
原索(げんさく)動物
ホヤやナメクジウオ、ギボシムシなどで、左右相称動物で、終生あるいは幼生期に消化管の背側に脊索が存在します。三胚葉性動物で、新口生物です。
脊椎(せきつい)動物
左右相称動物で、三胚葉性動物、新口生物です。脊索を囲むように軟骨性あるいは骨性の脊椎が形成されます。中枢神経は管状で脊索の背方にあり、前方では脳が形成されます。
※無腸動物
名前のとおり、腸管がなく、体腔や原腎管といった器官もありません。形が単純なので、以前は原始的な動物と考えられて、扁形動物門渦虫綱に分類されていました。
それが、1990年代以降の新たな分子的研究によって、無腸動物は棘皮動物などと一緒の分類群に収められるようになりました。無腸類が単純なのはこれまで考えられていたように原始的だからではなく、進化の過程で体腔や肛門、鰓孔などの構造を失って単純化したためだと考えられています。
■参考資料
“パイオニア”動物でひもとく海から淡水、陸上への進出をもたらしたシンギュラリティ
生物学概論 I (物部キャンパス) 2008
動物の進化
深まるクシクラゲの謎
「きれい」だけじゃない 海遊館
無腸類と藻類の共生進化
7.海の生きもののつながり(系統樹) 川崎市
日本近海で初の珍渦虫の新種を発見 ―動物の起源や進化過程を探る糸口に―
串本海域公園の特色
露崎史朗 (TSUYUZAKI Shiro, 植物生態学・環境保全学)
小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)
プランクトンの世界 国立科学博物館
系統分類:無腸類は単純な生き方を選んだ
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