進化医学について、超文系人間がざっくりまとめてみた 脱線 人工の生命とホムンクルス
17世紀に、オランダの学者ニコラス・ハルトゼーガー(1656-1725 年)がスケッチした「精子の頭部にいる小人(ホムンクルス)」に、『クラナリ』編集人はビックリしてしまいました(進化医学について、超文系人間がざっくりまとめてみた その2 evolution? transmutation?)。現代であれば間違いなくトンデモ学説ですが、当時は真剣に「卵子に小人が!」「いや、精子だ。だって顕微鏡で見えたんだもん」と議論していたのでしょう、きっと。
歴史をさかのぼって調べていけば、今、私たちが正しいと信じていることも、少々疑ってみる必要を感じてしまいます。もちろん、疑い過ぎると、やっぱりトンデモ方向に進むということが、時代で証明されているわけです。ポイントは「信じ過ぎない」「疑い過ぎない」というバランスでしょうか。
話をホムンクルスに戻すと、『クラナリ』編集人が最初に知ったのは「ペンフィールドのホムンクルス」。
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「ペンフィールドのホムンクルス」(ブリタニカ百科事典© Sharon Price-James Fine Art) |
カナダの脳神経外科医ペンフィールド(1891-1976年)が電気刺激を使って、大脳のどの部分が、全身のどの部分をつかさどっているのかを確認し、その領域の広さを人間の体で模式化したのが「ペンフィールドのホムンクルス」です。「脳の中で、手をつかさどる領域が広い」などと一目でわかって便利ですが、見た目は怖いですね。
ホムンクルス(homunculus)は、ラテン語の「人間(homo)」から派生して「小さな人間」を意味するのですが、人造人間や動物の原型(最小の生命体?)など、さまざまな使われ方をしてきたようです。
生命はどうやって発生するのか?
人工的に、人間などの生物は作れるのか?
私たちの先祖は、このことに深い関心を寄せてきたようです。
今回は人工の生命とホムンクルスという言葉との関係を調べてみました。
古代の伝説
「ギルガメシュ叙事詩」のエンキドゥ
「ギルガメシュ叙事詩」は4000年前に成立したとされている人類最古の長編叙事詩である。古代ウルクの王ギルガメシュが主人公であり、エンキドゥは神が粘土から作った人間です。
ちなみに、TVアニメ「Fate/Grand Order -絶対魔獣戦線バビロニア-」でエンキドゥが登場しているとのこと。
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左がエンキドゥで、右がギルガメシュ?(「Fate/Grand Order -絶対魔獣戦線バビロニア-」) |
ギリシャ神話のタロース(タロス)
ギリシャ神話は紀元前11世紀から紀元前2世紀までに、ギリシャ半島に居住したアーリア民族が残したとされています。ギリシャ神話に登場するタロースは、クレーテー島を守る青銅の巨人です。鍛冶の神ヘーパイストスまたはダイダロスによって作られたとのこと。
カードゲームに使われているようです。
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青銅の巨人 タロス 上 バディファイト ギガ・フューチャー |
ユダヤ伝説のゴーレム
ユダヤ教経典「タルムード」は、紀元200年に編纂された「ミシュナ」と紀元3世紀から6世紀のパレスチナとバビロニアで学習された「ゲマラー」から成り立っています
ゴーレムはヘブライ語で「未完成のもの」を意味し、タルムードでは神が大地からアダムを生み出す前の胎児を指していました。後に伝説化され,自分で動く泥人形となりました。
「プラハのゴーレム」伝説があり、ラビ(ユダヤ教の神父)のイェフダ・レーヴ・ベン・ベザレル(1525 - 1609年)がゴーレムで反ユダヤ主義の攻撃から人々を守ったとされています。
こちらもやっぱりカードゲームに使われていました。
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遊戯王カード 千年の宝を守りしゴーレム |
アリストテレスの「自然発生説」
アリストテレス(紀元前384-紀元前322年)は、世界には生命のもととなる「生命の胚珠」が広がっていて、この胚珠が物質を組織して生命を形作ると主張しました。
自然発生説とは、「生物は、親からのみならず日常の至るところで発生する」「昆虫やダニなどの微小な生物は、親となる生物がいなくても、泥や汗などの無生物から自然に発生する」というものでした。
アリストテレス以降、自然発生説がベースとなった「動物が自分自身のミニチュア版から発達した」という考え方がヨーロッパでは一般的でした。
イスラム錬金術
ジャービル・ブン・ハイヤーン(721 – 815年)は、錬金術による生命の創造(タクウィン)を一つの目標にしていました。生命を想像する方法として、動物の形をした容器を見つけ、その中に動物の体液を入れ、その容器を天球の模型の中心に置いて熱を加えるというものがありました。
ヨーロッパ錬金術
ホムンクルスという言葉を、パラケルスス(1493-1541年)は「人造人間」の意味で用いました。『De homunculis(ホムンクルスの書)』(1529-1532年?)と『De natura rerum(自然物質の発生)』(1537年)の中で、ホムンクルスについて言及し、錬金術によって作り出せると考えました。
前成説
前成説は、卵子か精子、または受精卵の中に、成体の原型がすでに出来上がって入っているとする説です。アリストテレスの「自然発生説」がルートにあります。
17 世紀に顕微鏡を使った観察が広まり、卵子に原型があるとするものを卵原説(卵子論者)、精子とするものは精原説(精子論者)が出てきました。
イタリアの医師であるマルチェロ・マルピーギ(1628 - 1694年)は卵原説派で、ニワトリの卵に胚を見出したことから、卵に原型があるとしました。
一方、冒頭で紹介したニコラス・ハルトゼーガー(1656-1725 年)が顕微鏡で精子を観察し、頭部にいる小人を発見したと主張。 精子はホムンクルスであり、女性の胎内で子どもへと成長するのだとしました。
劇作でのロボットの登場
「人造人間」として「ロボット」という言葉が最初に使われたのは、チェコの劇作家カレル・チャペック(1890〜1938年)が1920年に発表した戯曲「R.U.R.」でした。「プラハのゴーレム」伝説の影響もあったそうです。
robot(n.)1923年、「機械のような人」または「行動が完全に機械的な人」として誕生したこの言葉は、1920年の演劇「R.U.R.」(「ロッサムズ・ユニバーサル・ロボッツ」)の英語翻訳から来ています。それはカレル・チャペック(1890-1938)によって書かれ、チェコ語のrobotnik「強制労働者」から来ています。これは、robota「強制労働、義務的なサービス、骨折り仕事」という言葉から来ていて、さらにrobotiti「働く、骨を折って働く」という言葉から派生しています。これは、古代スラブ語のrabota「奴隷のような労働」、rabu「奴隷」(古代スラブ語の*orbu-に由来し、PIE(印欧祖語)の*orbh-「地位が変わる」という意味から来ています。詳しくはorphanを見てください)。そういうわけで、このスラブ語の単語はドイツ語のArbeit「労働」(古高ドイツ語のarabeit)と言葉のルーツを共有しています。この演劇は、1922年10月9日のシアター・ギルドでの公演デビュー以来、ニューヨークで大変な好評を博しました。ローソンによれば、この言葉はカレル・チャペックの演劇によって広まりましたが、「元々は彼の兄弟のヨゼフ(二人はよく共同で作業していました)によって造られたもので、最初は短編小説で使っていました。」とのことです。それゆえ、「人間のような機械で、人間の代理として仕事をこなすように設計されたもの」という意味になります。
■参考文献
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