「出る杭は打たれる」のなら、どうする?   『ウェブはバカと暇人のもの』

 インターネットの技術が飛躍的に発達しました。その結果、誰もが、無料で、簡単に情報発信ができるようになったわけです。
 ネットニュース編集者の中川淳一郎さんは、『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書)に以下のように書いています。

インターネットの利用料は格段に下がり、「普通の人」や「バカ」でもネットにつなげるようになった。
ネットには四六時中「暇つぶし」のネタを探しまわっており、何かを見つけてはケチをつける人間が存在する。

 ネットが発達する前よりも「出る杭は打たれる」可能性が高くなったのです。新聞紙や雑誌といったオールドメディアの時代にはなかった“炎上”が、今ではまったく珍しくありません。



 とはいえ、「出る杭は打たれる」のが嫌だからと、周囲にあまりにも気を遣って、深読みしながら生きるのも疲れそうです。

 クレーム関連本の多くに、「お客様は神様」としてクレームを大事にしなさいというのは時代遅れと書いてありました。
 誠意をもって合理的な説明や説得をしても、クレーマーは納得しません。語気の強いクレームほど、理解の欠如(知らない、わかっていない、そもそも何も考えていない……)から生じていることが多いからです。クレームを大事にした結果、クレーム担当者は心身を疲弊させ、重篤な病気になる危険性も高くなります。

 今では、クレーマーに「無理なことについては『無理です』とはっきり伝える」「複数で対応する」「解決案を提示しない」といった対応が勧められているとのこと。

 中川淳一郎さんは、性善説や幻想、過度な期待を捨てるべきだと、『ウェブはバカと暇人のもの』で書いていました。以下は本書からの引用です。

重要な情報を持っている人は、その情報をわざわざネットに書かない。

暇つぶしの道具としてインターネットを使っている「普通の人」か「バカ」の場合、双方向性は運営当事者にとっては無駄である。
 なぜなら、運営側に余計なストレスを与えるからだ。彼らの意見をいちいち汲み取っても、おもしろいサイトはできない。

問題は、編集人がネットでウケるネタを見極められなかったことと、一般人の文章執筆能力に限界があることだ。

ネットで叩かれやすい10項目

①上からものを言う、主張が見える
問題提起や主張はしないほうが得策。
 コロナ禍で医師がTwitter(現在のX)を使って、ワクチンやマスク着用の効用などを投稿していたのですが、こうした投稿が「上からものを言う」に相当するようです。

○発売から15年『ウェブはバカと暇人のもの』が話題 著者・中川淳一郎が実践する「炎上」を防ぐ唯一の方法

②頑張っている人をおちょくる、特定個人をバカにする
「恥ずかしい」などと余計なひと言を書かなければ、そこまでコメント欄は荒れなかっただろう。

 安い商品しか買えないことを卑下すると、同じ行動をしている人を「 おちょくる」「バカにする」ことにつながるケースもあるとのこと。


③既存マスコミが過熱報道していることに便乗する
1回だけ紹介するのはOK。

④書き手の「顔」が見える
 ①と同様に「主張」と捉えられるうえ、書き手への個人攻撃が発生する。

 書き手の「顔」を見せたほうが、書いた内容の信頼性が増し、書き手のブランディングにもつながるという意見がネット上で散見されます。オールドメディアにおいては、書き手の「顔」を見せることが重視されていました。
 一方、ネットでは、「医師が素人をバカにしている」的な捉え方もあって、確かに、Xに投稿している医師への個人攻撃が多数行われていました。開示請求を大量に行ったとXで報告する医師もいます。そんなことをしていたら、医師としての仕事の効率は落ちるでしょうね。

⑤反日的な発言をする

⑥誰かの手間をかけることをやる
 ただし、「迷惑をかける」対象の人が年収の高い人であればあまり叩かれないだろう。コンビニ店員やファストフード店店員のように、アルバイトで、それほど収入の多くない人の手間をかけることをするから怒られるのだ。

 ありがちなのは、「迷惑をかける」対象が公務員の場合、市役所に電話をかけるようにあおるといった「迷惑をかける」行動がエスカレートすること。「オレたちの税金で、いい生活を送ってんだろう」という思いがするのでしょうか。
 「迷惑をかける」対象の人でネットの反応は大きく異なります。


⑦社会的コンセンサスなしに叩く
 情報発信をするにあたっては、「これは自分の思い込みかどうか? 世間のコンセンサスを得られるかどうか?」ということは、キチンと一呼吸おいて考えたほうがいい。
 自分がひどい目に遭ったと思い込むと、「自分=被害者」意識が強くなりがちです。しかし、周りの人からは「自業自得ではないか」「むしろ加害者だろ」と見られているケースは珍しくありません。
 最近では、新幹線のグリーン車で撮影していたYouTuber夫婦が、うるさいと注意してきた男性を「ひどい」と動画投稿したら、視聴者から「お前たちのほうが非常識」と非難されていました。
 俯瞰して自分の行動を振り返るのが、「キチンと一呼吸おいて」ということなのでしょう。


⑧強い調子のことばを使う
 同じ意味の内容を言うにしても、強い調子のことばを使うと非難される。「ショボい」「パクる」「恫喝」などは強い言葉のため、反感を買う。

⑨誰かが好きなものを批判・酷評する

 「誰かが好きなもの」の例として、宮崎駿アニメ、ジャニーズ(今はSTARTO社)が挙げられていました。

⑩部外者が勝手に何かを言う
 部外者が勝手なことを言うと批判を受ける可能性があるため、「地方のおもしろいネタ」は書かないほうがいい。当事者が書くのであれば、自己防衛のためにも、「自分もその一員である」ことは明記すべきだ。

 

ネットでウケるネタ 

①話題にしたい部分があるもの、突っ込みどころがあるもの
②身近であるもの(含む、B級感があるもの)
③非常に意見が鋭いもの
④テレビで一度紹介されているもの、テレビで人気があるもの、ヤフートピックスが選ぶもの
⑤モラルを問うもの
⑥芸能人関係のもの
⑦エロ
⑧美人
⑨時事性があるもの

ネットでうまくいくための5つの結論

1.ネットとユーザーに関する性善説・幻想・過度な期待を捨てるべき
2.ネガティブな書き込みをスルーする耐性が必要
3.ネットではクリックされてナンボである。かたちだけ立派でも意味がない。そのために、企業にはB級なネタを発信する開き直りというか割り切りが必要
4.ネットでブランド構築はやりづらいことを理解する
5.ネットでブレイクできる商品はあくまでモノが良いものである。小手先のネットプロモーションで何とかしようとするのではなく、本来の企業活動を頑張るべき

ネットがなかった時代にもともと優秀だった人は、今でもリアルとネットの世界に浮遊する多種多様な情報をうまく編集し、生活をより便利にしている。ネットがない時代に暇で立ち読みやテレビゲームばかりやっていた人は、ネットという新たな、そして最強の暇つぶしツールを手に入れただけである。結局は、リアルの世界で活躍している人が、多額の報酬を得たり、スポットライトを浴びるのである。

 もう、ネットに過度な幻想を持つのはやめよう。
 企業は「ネットで商品が語られまくり、自社ファンが自然に増える」と考えるのはやめよう。一般の人は「ネットがあれば、私の才能を知り、私のことを見出してくれる人が増える」と考えるのはやめよう。
 そうではなく、企業は「ネットはあくまでも告知スペースであり、ネットユーザーに合わせたB級なことをやる場である」とだけ考えることでようやく人々から見てもらえる。
 一般の人は「ネットはただ単にとんでもなく便利なツールであり、暇つぶしの場である」と考えることでネットと幸せなつきあい方ができるようになる。

 人は、ご飯を食べて体を育て、人と会って友情を培い、勉強をすることによって学校へ入り、そこでさまざまなことを学び、学校を卒業することによって社会進出の礎・資格を獲得し、恋愛をすることによって人生にスパイスが与えられ、性交することによって快感を得て子どもを作り、仕事をすることによって社会とのつながりを感じ、愛する人に死なれることによって悲しみを覚える。
 私たちの人生、なんとリアルな場の占める割合が多いのだろうか。これら人生の大部分を占める要素にネットはどれだけ入り込めたのか?
 大したことはない。
 かなり入り込まれている人はヤバい。
 もう少し外に出て人に会ったほうがいい。
 なぜなら、ネットはもう進化しないし、ネットはあなたの人生を変えないから。
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 ここからは、雑誌編集者だった頃の体験です。

 数十年前、美容器具の体験レポートを書いたときのこと。ものすごい反響で、ネットが発達していなかった当時は編集部の電話が問い合わせで鳴りっぱなし。美容器具も飛ぶように売れたのだそうです。

 しかし、その数カ月後、「美容器具を販売していた美容研究家夫婦が逮捕された」という情報が編集部に入ってきました。
 どうやら、どこかの医師が「これは美容器具ではなく医療機器ではないか! 法律違反だ、けしからん!!」と警察にチクったとか。

 美容器具を開発したのは、夫の父親。この父親は、今から60年ほど前に美容に関する研究所を設立しました。マスコミにもたびたび登場し、著名人だったといえます。私の体験レポート掲載時には、美容器具が開発されてから20年ほどたっていて、多くの人に使われてきた実績がありました。
 さらに、ある有名な研究者が美容器具を使った実験も行って、効果を検証していたのです。

 さらに、その特集には、体験レポートのほかに医師の解説も掲載していました。その医師は医学系大学を定年退職した後、名誉教授になると同時に、とあるクリニックの院長に就任。くだけた表現になりますが、「かなり偉いおじいちゃん先生」だったわけです。私が「このような美容器具があるのですが……」と紹介したときも、「ふーん、いいんじゃないの」という感じで、取材に応じてくれました。

 まとめると、次のとおりです。
○美容器具は長年にわたって販売されていたものである
○美容器具による不利益がない専門家(検証した研究者、コメントした医師)にとっては、医療上の問題がない商品である
○美容器具が飛ぶように売れて、美容研究家夫婦に大金が入ったようだ
○突然、美容器具が問題視され、販売していた美容研究家夫婦が逮捕された

 その後は、美容器具ではなく医療機器として販売が再開されました。医師の診察を受けなければ入手できなくなったわけです。

 しばらくして、私の体験レポートを本に掲載させてほしいと同僚から頼まれ、事実関係を確かめる必要が出たことから、美容研究家夫婦に会うことになりました。

 私が「大変でしたね」と声をかけると、「ええ、あのときはとても……」と返事が。
 警察から取り調べを受けて、平気でいられる人はほとんどいません。げっそりやつれてしまって、その後の精神状態にも悪影響があった人が多々います。美容研究家夫婦もかなり追い詰められた状況になっていたようです。

 取材する中で思い出話なども出てきたのですが、「紹介してくれたおかげで、すごい反響があったので、うれしかったですね」と美容研究家夫婦が笑顔を見せてくれたので、ホッとしました。
 美容研究家夫婦が感謝してくれていたことはありがたく受け止めるとして、自分なりに教訓にすることにしました。

 まず、美容研究家夫婦の夫のほうは、いかにも育ちのよいお坊ちゃまという印象でした。
 父親が開発した器具やメソッド、さらには作り上げた組織とブランドを、そっくりそのまま受け継いだのでしょう。そのために、少しわきが甘かったように思えるのです。
 美容研究家夫婦が組織の内部の頂点に君臨している状況で安心するのではなく、外部に人脈を増やしたり、情報源を持ったりしてしていたら、逮捕されるには至らなかったかもしれません。

 もう一つ、医療に近い美容行為や器具は、医師に監修してもらったほうがいいということ。
 独自の美容メソッドを考案して協会を作った私の知人は、「監修料が高い! 高すぎる!!」と愚痴をこぼしていましたが、それでも医師に監修してもらっています。安全のためにはお金を惜しまないほうがいいようです。

「勝って兜の緒を締めよ」

 戦国時代に北条氏綱が残した言葉だとされています。注目を浴びるようになったときこそ、知識や理論などで武装して、気を引き締めたほうがよさそうです。





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