「出る杭は打たれる」のなら、どうする?
有名になったら突然
問題視された
20年以上も前になるでしょうか、美容器具の体験レポートを書いたときのこと。ものすごい反響で、ネットが発達していなかった当時は編集部の電話が問い合わせで鳴りっぱなし。美容器具も飛ぶように売れたのだそうです。
しかし、その数カ月後、「美容器具を販売していた美容研究家夫婦が逮捕された」という情報が編集部に入ってきました。
どうやら、どこかの医師が「これは美容器具ではなく医療機器ではないか! 法律違反だ、けしからん!!」と警察にチクったとか。
美容器具を開発したのは、夫の父親。この父親は、今から60年ほど前に美容に関する研究所を設立しました。マスコミにもたびたび登場し、著名人だったといえます。私の体験レポート掲載時には、美容器具が開発されてから20年ほどたっていて、多くの人に使われてきた実績がありました。
さらに、ある有名な研究者が美容器具を使った実験も行って、効果を検証していたのです。
さらに、その特集には、体験レポートのほかに医師の解説も掲載していました。その医師は医学系大学を定年退職した後、名誉教授になると同時に、とあるクリニックの院長に就任。くだけた表現になりますが、「かなり偉いおじいちゃん先生」だったわけです。私が「このような美容器具があるのですが……」と紹介したときも、「ふーん、いいんじゃないの」という感じで、取材に応じてくれました。
つまり、次のように「出る杭は打たれる」わけです。
○美容器具は長年にわたって販売されていたものである
○美容器具による不利益がない専門家(検証した研究者、コメントした医師)にとっては、医療上の問題がない商品である
○美容器具が飛ぶように売れて、美容研究家夫婦に大金が入ったようだ
○突然、美容器具が問題視され、販売していた美容研究家夫婦が逮捕された
その後は、美容器具ではなく医療機器として販売が再開されました。医師の診察を受けなければ入手できなくなったわけです。
しばらくして、私の体験レポートを本に掲載させてほしいと同僚から頼まれ、事実関係を確かめる必要が出たことから、美容研究家夫婦に会うことになりました。
私が「大変でしたね」と声をかけると、「ええ、あのときはとても……」と返事が。
警察から取り調べを受けて、平気でいられる人はほとんどいません。げっそりやつれてしまって、その後の精神状態にも悪影響があった人が多々います。美容研究家夫婦もかなり追い詰められた状況になっていたようです。
取材する中で思い出話なども出てきたのですが、「森さんが紹介してくれたおかげで、すごい反響があったので、うれしかったですね」と美容研究家夫婦が笑顔を見せてくれたので、ホッとしました。
美容研究家夫婦が感謝してくれていたことはありがたく受け止めるとして、私なりに教訓にすることにしました。
まず、美容研究家夫婦の夫のほうは、いかにも育ちのよいお坊ちゃまという印象でした。
父親が開発した器具やメソッド、さらには作り上げた組織とブランドを、そっくりそのまま受け継いだのでしょう。そのために、少しわきが甘かったように思えるのです。
美容研究家夫婦が組織の内部の頂点に君臨している状況で安心するのではなく、外部に人脈を増やしたり、情報源を持ったりしてしていたら、逮捕されるには至らなかったかもしれません。
もう一つ、医療に近い美容行為や器具は、医師に監修してもらったほうがいいということ。
独自の美容メソッドを考案して協会を作った私の知人は、「監修料が高い! 高すぎる!!」と愚痴をこぼしていましたが、それでも医師に監修してもらっています。安全のためにはお金を惜しまないほうがいいようです。
そして、注目を浴びるようになったときこそ、知識や理論などで武装する必要があるということ。
事実確認を
重要視したい
美容研究家夫婦に災難が起こった20年以上前と比べて、インターネットが飛躍的に発達しました。
その結果、誰もが簡単に情報発信ができるようになったわけです。
個人的な見解ときちんと断っているのならともかく、ウワサを聞きつけただけで事実確認をしていないのにクレームをつける例も少なくありません。
ネットニュース編集者の中川淳一郎さんは、『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書)に以下のように書いています。
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インターネットの利用料は格段に下がり、「普通の人」や「バカ」でもネットにつなげるようになった。
---
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ネットには四六時中「暇つぶし」のネタを探しまわっており、何かを見つけてはケチをつける人間が存在する。
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情報発信に便利なネットが発達したばかりに、20年以上前よりも「出る杭は打たれる」可能性が高くなったのです。新聞紙や雑誌といった紙の時代にはなかった“炎上”が、今ではまったく珍しくありません。
とはいえ、「出る杭は打たれる」のが嫌だからと、周囲にあまりにも気を遣って、深読みしながら生きるのも疲れそうです。
クレーム関連本の多くに、「お客様は神様」としてクレームを大事にしなさいというのは時代遅れと書いてありました。
誠意をもって合理的な説明や説得をしても、クレーマーは納得しません。その結果、クレーム担当者は心身を疲弊させ、重篤な病気になる危険性も高くなるのです。
ちなみに、尼崎事件の主犯である角田美代子も、有名なクレーマーだったそうです。阪神電鉄の当時社員として対応をしていた男性は巻き込まれる形で、角田美代子の手先として事件(傷害致死などの罪)に手を染めることになったのだとか。人生をめちゃめちゃにされてしまったわけです。
今では、クレーマーに「無理なことについては『無理です』とはっきり伝える」「複数で対応する」「解決案を提示しない」といった対応が勧められているとのこと。
生業というのはささやかな営みなのですが、ちょっと目立つような活動になってくるとクレームが発生しやすいでしょう。
しかし、語気の強いクレームほど、理解の欠如(知らない、わかっていない、そもそも何も考えていない……)から生じていることが多いのです。
中川淳一郎さんは、性善説や幻想、過度な期待を捨てるべきだと書いていました。
「出る杭は打たれる」のは仕方がないこととして、打たれたら自分はどう振る舞うのか、一度考えておくのもいいのかもしれませんね。
問題視された
20年以上も前になるでしょうか、美容器具の体験レポートを書いたときのこと。ものすごい反響で、ネットが発達していなかった当時は編集部の電話が問い合わせで鳴りっぱなし。美容器具も飛ぶように売れたのだそうです。
しかし、その数カ月後、「美容器具を販売していた美容研究家夫婦が逮捕された」という情報が編集部に入ってきました。
どうやら、どこかの医師が「これは美容器具ではなく医療機器ではないか! 法律違反だ、けしからん!!」と警察にチクったとか。
美容器具を開発したのは、夫の父親。この父親は、今から60年ほど前に美容に関する研究所を設立しました。マスコミにもたびたび登場し、著名人だったといえます。私の体験レポート掲載時には、美容器具が開発されてから20年ほどたっていて、多くの人に使われてきた実績がありました。
さらに、ある有名な研究者が美容器具を使った実験も行って、効果を検証していたのです。
さらに、その特集には、体験レポートのほかに医師の解説も掲載していました。その医師は医学系大学を定年退職した後、名誉教授になると同時に、とあるクリニックの院長に就任。くだけた表現になりますが、「かなり偉いおじいちゃん先生」だったわけです。私が「このような美容器具があるのですが……」と紹介したときも、「ふーん、いいんじゃないの」という感じで、取材に応じてくれました。
つまり、次のように「出る杭は打たれる」わけです。
○美容器具は長年にわたって販売されていたものである
○美容器具による不利益がない専門家(検証した研究者、コメントした医師)にとっては、医療上の問題がない商品である
○美容器具が飛ぶように売れて、美容研究家夫婦に大金が入ったようだ
○突然、美容器具が問題視され、販売していた美容研究家夫婦が逮捕された
その後は、美容器具ではなく医療機器として販売が再開されました。医師の診察を受けなければ入手できなくなったわけです。
しばらくして、私の体験レポートを本に掲載させてほしいと同僚から頼まれ、事実関係を確かめる必要が出たことから、美容研究家夫婦に会うことになりました。
私が「大変でしたね」と声をかけると、「ええ、あのときはとても……」と返事が。
警察から取り調べを受けて、平気でいられる人はほとんどいません。げっそりやつれてしまって、その後の精神状態にも悪影響があった人が多々います。美容研究家夫婦もかなり追い詰められた状況になっていたようです。
取材する中で思い出話なども出てきたのですが、「森さんが紹介してくれたおかげで、すごい反響があったので、うれしかったですね」と美容研究家夫婦が笑顔を見せてくれたので、ホッとしました。
美容研究家夫婦が感謝してくれていたことはありがたく受け止めるとして、私なりに教訓にすることにしました。
まず、美容研究家夫婦の夫のほうは、いかにも育ちのよいお坊ちゃまという印象でした。
父親が開発した器具やメソッド、さらには作り上げた組織とブランドを、そっくりそのまま受け継いだのでしょう。そのために、少しわきが甘かったように思えるのです。
美容研究家夫婦が組織の内部の頂点に君臨している状況で安心するのではなく、外部に人脈を増やしたり、情報源を持ったりしてしていたら、逮捕されるには至らなかったかもしれません。
もう一つ、医療に近い美容行為や器具は、医師に監修してもらったほうがいいということ。
独自の美容メソッドを考案して協会を作った私の知人は、「監修料が高い! 高すぎる!!」と愚痴をこぼしていましたが、それでも医師に監修してもらっています。安全のためにはお金を惜しまないほうがいいようです。
そして、注目を浴びるようになったときこそ、知識や理論などで武装する必要があるということ。
事実確認を
重要視したい
美容研究家夫婦に災難が起こった20年以上前と比べて、インターネットが飛躍的に発達しました。
その結果、誰もが簡単に情報発信ができるようになったわけです。
個人的な見解ときちんと断っているのならともかく、ウワサを聞きつけただけで事実確認をしていないのにクレームをつける例も少なくありません。
ネットニュース編集者の中川淳一郎さんは、『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書)に以下のように書いています。
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インターネットの利用料は格段に下がり、「普通の人」や「バカ」でもネットにつなげるようになった。
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ネットには四六時中「暇つぶし」のネタを探しまわっており、何かを見つけてはケチをつける人間が存在する。
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情報発信に便利なネットが発達したばかりに、20年以上前よりも「出る杭は打たれる」可能性が高くなったのです。新聞紙や雑誌といった紙の時代にはなかった“炎上”が、今ではまったく珍しくありません。
とはいえ、「出る杭は打たれる」のが嫌だからと、周囲にあまりにも気を遣って、深読みしながら生きるのも疲れそうです。
クレーム関連本の多くに、「お客様は神様」としてクレームを大事にしなさいというのは時代遅れと書いてありました。
誠意をもって合理的な説明や説得をしても、クレーマーは納得しません。その結果、クレーム担当者は心身を疲弊させ、重篤な病気になる危険性も高くなるのです。
ちなみに、尼崎事件の主犯である角田美代子も、有名なクレーマーだったそうです。阪神電鉄の当時社員として対応をしていた男性は巻き込まれる形で、角田美代子の手先として事件(傷害致死などの罪)に手を染めることになったのだとか。人生をめちゃめちゃにされてしまったわけです。
今では、クレーマーに「無理なことについては『無理です』とはっきり伝える」「複数で対応する」「解決案を提示しない」といった対応が勧められているとのこと。
生業というのはささやかな営みなのですが、ちょっと目立つような活動になってくるとクレームが発生しやすいでしょう。
しかし、語気の強いクレームほど、理解の欠如(知らない、わかっていない、そもそも何も考えていない……)から生じていることが多いのです。
中川淳一郎さんは、性善説や幻想、過度な期待を捨てるべきだと書いていました。
「出る杭は打たれる」のは仕方がないこととして、打たれたら自分はどう振る舞うのか、一度考えておくのもいいのかもしれませんね。
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