「漢方の大嘘」の大嘘

 漢方薬はドラッグストアにもさまざまな種類が並ぶようになり、手軽に買えるようになりました。「ナイシトール」「コッコアポ」「チクナイン」といった商品名がカタカナの医薬品も、主な成分は漢方薬です。

 漢方薬の認知度が上がり、使用者も増えているはずです。その割に誤解され続けています。

 「漢方薬には副作用がない」
 「効き目が穏やか」
 「体質を改善する」

 誰がこのようなことを言い始めたのでしょうか。

 漢方の専門家にたびたび取材する機会があったのですが、誰一人、こうしたことを口にはしませんでした。
 体質に合えば鋭い効き目を発揮する。体質に合わなければ効かないどころか、副作用が現れることがある……ほとんどの専門家がこう話していたのです。

 2017年に、「漢方の大嘘」というような刺激的なタイトルで、漢方薬の副作用を大々的に取り上げる雑誌がありました。その中吊り広告を見て、「漢方薬に副作用があるなんて、だまされた気分だ」と思った人がいたら、ぜひお伝えしたいと思います。大嘘の責任は漢方薬そのものではなく、誤解を振りまいてきたメディアだと。

 また、「漢方薬を使用して体調は改善しているのに、今回の記事で副作用が心配になった」と思った人がいたら、それは非常に喜ばしいことです。漢方薬に限らず、西洋医学の合成医薬品やサプリメント、健康食品などすべてにおいて、副作用に十分注意したほうがいいからです。

 今回は、「漢方薬には副作用がない」という安全神話が生まれた背景と、漢方薬の主な副作用について検討しました。



漢方薬の副作用の
知識がない医師もいる

 私たちは一般的に「自然の恵みから生まれた」「長い歴史を持つ」治療法を、安全だと信じやすいものです。ましてや、その治療法を西洋医学の医師も使っていたら、「西洋医学的な裏打ちもあるのだろう」と思い込んでしまいます。

 よく考えてみると、自然は人間にとって大きな脅威ではないでしょうか。想定できない大きな被害をもたらすのは、自然災害です。

 また、野菜などを栽培している人は経験があるでしょうが、例えば同じ畑からとれたレタスでも味が大きく異なることがあります。つまり、「自然の恵み」は、いつも一定ではありません。

 長い歴史の中で、気候は変動するし、地形は変化します。大気は汚染され、農薬が散布されることもあります。環境だけでなく、人間の体も栄養状態などで変化するわけだから、治療法も古い歴史にあぐらをかいてはいけません。

 さらなる問題は、漢方薬を理解せずに処方する医師です。いわゆる「カリスマ医師」の本に次のような記述がありました。

 「胃の調子が悪いから、ある漢方薬を飲んだ。これがよく効いたから、胃痛予防として継続的に飲み続けた。すると体が冷えて、体調がとても悪くなってきたので驚いた。それからは、漢方薬を一切使わないようにしている」

 驚いたのは、本を読んでいた私のほうです。その医師が飲んでいた漢方薬には抗炎症作用があり、基本的に長期使用してはいけないものだったからです。このように、副作用の知識がない医師もいるということです。

 自然は人間に恵みとともに脅威を与える存在で、長い歴史で環境も人間も変化します。医師も免許を持っているからといって知識や経験は同じではなく、人それぞれ。こうしたことを踏まえたうえで、漢方薬を使いたいですね。

極端な事例を引きあいに
出したがるメディア

 漢方薬の主な副作用は、以下のとおりです。

○肝機能障害
 肝臓が正常に機能しなくなり、食欲不振や体重減少、全身の倦怠感などが現れる。

○間質性肺炎
 肺でガス交換を行う「肺胞」という組織と毛細血管は、接近して絡み合っている。肺胞の壁(肺胞壁)や肺胞を取り囲んで支持している組織が「間質」。間質に炎症が起こった状態が「間質性肺炎」で、突然の発熱や乾いたセキ、呼吸困難などが起こる。間質性肺炎は、これまでに抗がん剤、市販のカゼ薬などさまざまな薬剤で確認されていて、死亡例も報告されている。

○偽アルドステロン症
 「偽アルドステロン症」では、「アルデステロン」というホルモンが過剰に分泌されていないにもかかわらず、あたかも過剰に分泌されているかのように高血圧、むくみ、脱力感といった症状を示す。

○発疹
 かゆみのある湿疹や赤みなどが皮膚に現れる。

 漢方薬を飲み始めて上記のような症状が現れた場合は、使用をすぐに中止して、飲んでいた薬を持参して受診することを強くお勧めします。また、手軽に買えるからといって、素人判断で複数の漢方薬を同時に飲んだり、合成医薬品やサプリメント、健康食品と一緒に飲んだりするのはやめたほうがいいでしょう。

 漢方薬に副作用があるのは事実です。ただ、極端な事例を引きあいに出して、あたかも「漢方薬に殺される」かのように糾弾しているメディアのほうが、私には嘘つきに見えてしまいます。
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