「ヘルニアは手術をしなくても治る」首の痛みや手のしびれの原因となる習慣を改善しよう

 X JAPANのYOSHIKIさんが頸椎椎間板ヘルニアの悪化で、米国時間 2017年5月16日(火)に頚椎人工椎間板置換の緊急手術を受けたと公式サイトで発表しました。

 YOSHIKIさんの場合は、激しいドラムパフォーマンスによって頸椎椎間板ヘルニアを発症し、左腕から左手にかけて電気が走るような痛みに悩まされていたそうです。

 ただYOSHIKIさんのような激しい動きを行っていなくても、注意が必要です。通常の生活の中には頸椎椎間板ヘルニアの原因となる習慣が潜んでいるからです。それが、前かがみやうつむきなど「首の前傾姿勢」。

 スマートフォンやパソコンの操作で首の前傾姿勢を続けていたら、首周りの筋肉が緊張し、硬くなります。すると、本来は緩やかにカーブしている頸椎が、前方にまっすぐ伸びた状態になってしまう「ストレートネック」が引き起こされるのです。

 「ストレートネックで頸椎への負荷が大きくなった状態こそ、頸椎椎間板ヘルニアの予備軍なのです」と『椎間板ヘルニアは自分で治せる! 』の著者である酒井慎太郎氏(柔道整復師)は語っていました。

 酒井氏によると、首の前傾姿勢のほかにも、普段の生活の中に首の痛みや腕のしびれを招く原因があるそうです。100万人の治療に当たってきた酒井氏に、頸椎椎間板ヘルニアの予防・改善方法について聞きました。


「ストレートネック」での
頭痛やイライラが前段階

 ヘルニアの語源は「体の組織などが本来あるべき位置から飛び出した状態」という意味のラテン語。

 椎間板ヘルニアとは、脊椎(背骨)の骨と骨の間にある椎間板から飛び出した髄核という組織が神経を圧迫することで、強い痛みやしびれが現れる病気です。腰の部分の脊椎で起これば「腰椎椎間板ヘルニア」、首の部分の脊椎で起これば「頸椎椎間板ヘルニア」と呼ばれます。

 「スマートフォンやパソコンなどを長時間使う人が急増しているので、頸椎椎間板ヘルニアの前段階であるストレートネックも増えていると考えています」と酒井氏。

 「頭の重さは、体重の約10%といわれています。体重が50キロの人は、頭は5キロということになりますね。それほどの重量が、ストレートネックになると全身に分散されなくなって、頸椎にばかりかかるのです。
 頸椎の圧迫で頭痛やめまい、イライラの症状が起こるのが第1段階。
 そのままほうっておくと、頸骨の骨と骨の間にある椎間板の中の髄核がつぶれ始めます。これが第2段階。
 最終段階では髄核が椎間板の外にはみ出し、神経を圧迫します。強い痛みやしびれを、首・肩・腕・手にまで感じるようになり、思いどおりに腕や手を動かせなくなってしまうのです」

 首のこりや痛み、そして頭痛、めまい、イライラといった第1段階での対処が重要です。酒井氏が勧めているのが頸椎を押し戻す「あご押し」。やり方は簡単で、手の親指と人さし指であごを後方へグッと強く押し込みます。

 「あご押しを何度も繰り返しているうちに、頸椎が徐々に元の位置に押し戻され、本来のカーブを取り戻すのです」

 酒井氏自身も、信号待ちのときなど暇を見つけては、あご押しを行っているそうです。

エアコンの風に当たると
痛みもしびれも悪化する

 これから梅雨入りですが、このシーズンに注意が必要なのはエアコンの風だ。

 「梅雨時と夏場は、ほとんどの職場や家庭でエアコンを使います。首がエアコンの風に当たって冷やされることで、血流が悪化し、筋肉が硬くなります。そして痛みやしびれといった症状が悪化してしまうのです」

 快適に過ごすために使っているエアコンに、首の痛みや腕のしびれを招く原因があったのです。
冷えで悪化した症状を改善させるのが、全身浴である。

 「39℃ぐらいのお湯に10~20分程度、首までつかっていると、痛みもしびれもかなり楽になります。下半身だけ湯ぶねにつかる半身浴は、首や肩が冷えてしまうのであまりお勧めしません。
 そして髪が長い人は、おふろ上がりにすぐドライヤーで髪を乾かしましょう。濡れた髪は首と肩を冷やしてしまうからです」

 頸椎椎間板ヘルニアの痛みがあまりにも強い場合は、全身浴が効果的とのこと。首を動かせるようになったら、軽い力であご押しを試し、痛みが出ない範囲で少しずつ力を加えていくとよいそうです。

 「痛みやしびれがあると、ほとんど体を動かさない人もいます。しかし、安静にしたままでは症状は変わりません。ですから、あご押しやストレッチなどを行って、関節を動かすように心がけましょう。
 関節をきちんと動かせば、ヘルニアは自然に引っ込みます。現在では『ヘルニアは手術をしなくても治るので、保存療法から始めるのがいい』という考えが主流です」

酒井慎太郎(さかい・しんたろう)
さかいクリニックグループ代表。柔道整復師。中央医療学園特別講師。千葉ロッテマリーンズ・オフィシャルメディカルアドバイザー。整形外科や腰痛専門病院、プロサッカーチームの臨床スタッフとしての経験を生かし、腰痛やスポーツ障害の疾患を得意とする。解剖実習をもとに考案した「関節包内矯正」を中心に、難治の関節痛に対する施術を行い、これまで100万人を治してきた実績を持つ。多くのテレビ番組で「ゴッドハンド」として紹介されるほか、プロスポーツ選手や俳優など多くの著名人の施術も手がける。



※この記事は、2017年6月15日に酒井氏をメールで取材した内容をもとに作成しています。最新情報は酒井氏に直接お尋ねください。


文/森 真希(もり・まき)
医療・教育ジャーナリスト。大学卒業後、出版社に21年間勤務し、月刊誌編集者として医療・健康・教育の分野で多岐にわたって取材を行う。2015年に独立し、同テーマで執筆活動と情報発信を続けている。
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