骨の形成に関係する電気の話

 結晶とは、原子や分子、イオンが、規則正しく三次元的に並んだもの。ですから、硬いとは限らないようです。たんぱく質も結晶になるそうで、その半分は水でできているため、柔らかくて壊れやすいとのこと。

 ある種の結晶に圧力を加えると電圧が生じる現象を、「圧電効果」「ピエゾ効果(piezoelectric effect)」といいます。

 ピエゾの由来は「押す・圧縮する」を意味するギリシア語piezein。そして、piezoelectricityは「圧電気」「ピエゾ電気」と訳されています。

 圧電効果は、かのキュリー夫妻の夫のほうでノーベル賞授賞者であるピエール・キュリーと、その兄のジャック・キュリーによって発見されました。圧電効果に関する最初の公開実験は、1880年に行われたのだそうです。

週刊現代より

 電子式ライターには、圧電効果が利用されています。圧力を加えて10000ボルト程度の高い電圧を発生させることで、火花放電を起こし、ガスに着火させます。

JTのサイトより


 圧電効果の仕組みには、イオンが関係しています。

 +の電荷を持つ陽イオンと-の電荷を持つ陰イオンは互いにくっついて、結合します。このような状態をイオン結合といいます。

 そして、イオン結合でできた物質は、陽イオンと陰イオンが規則正しく配列しているので、イオン結晶といいます。


 イオン結晶に配置されている陽イオンと陰イオンは、圧力を加えることで大きくずれます。すると、結晶の一方の端がプラスの電気を帯び、もう一方の端がマイナスの電気を帯びる「電気分極」という現象が起こり、電圧が発生するのです。

TDKのサイトより


 上記とは逆に、電圧をかけられたイオン結晶は、変形します。これが「逆圧電効果」。1981年にリップマンが熱力学の法則から数学的に逆圧電効果を導き出して、キュリー兄弟が実験的に確認したのでした。

 ここからが本題。

 骨は、緻密質と海綿質の2層構造になっています。

緻密質(骨皮質) 表面の硬い部分
海綿質 内部の網目状の部分

 緻密質には血管を中心にして、年輪のように「骨単位」が層状に並んでいます。

 骨単位は、血管の通路であるハヴァース管と、骨層板とで成り立っています。骨層板はコラーゲン線維などのたんぱく質が枠組みを作って、そこにハイドロキシアパタイト(リン酸カルシウム)が沈着したもの。

 骨層板の成分であるコラーゲンについては、圧電効果があると知られています。ということは、結晶になっているということですね。

 もう一つの成分であるハイドロキシアパタイトは、イオン結晶です。ですから、骨に圧力が加わると、電位が発生します。

 電位が発生したところに、骨を破壊する破骨細胞や形成する骨芽細胞、骨の成分のカルシウムが集まって骨が形成されてくるわけです。

 そう考えると、骨層板で圧電効果が生まれているのでしょうか?

日本医事新報社サイトより

 骨の圧電効果については、1954年に、京都府立医科大学出身の保田岩夫博士が発表しています。 1957年には、理化学研究所の物理学者の深田栄一博士とともに骨の圧電効果を確認したのだそうです。

 さらに、「骨に何らかのエネルギーを加えれば、仮骨形成が起きる」と保田博士は推論。1973年には「力学的仮骨と電気的仮骨ならびに骨の圧電気現象」という論文を発表しています。

 「仮骨」とは、骨折した骨と骨が、軟骨で接着された状態のこと。仮骨は骨組織としての強度を増していって、不要なものは破骨細胞によって吸収されます。

 こうして、圧電効果は骨折の治療にも取り入れられるようになりました。例えば、骨折した場所に非常に出力の低い超音波を照射する治療法があります。

 「超音波」とは、周波数が高くて(20kHz以上)耳に聞こえない音。超音波の圧力(音圧)が骨に伝わることで、圧電効果が起こるというわけです。

 では、どれくらいの圧力が必要なのでしょうか?
  同志社大学理工学部が発表した「超音波照射により生じる骨中の圧電現象の計測と評価」によれば、10kPa程度とのこと。
 kPa(キロパスカル)は国際単位(SI単位)に基づく空気圧表示。10kPaを、kgf(キログラム重)に変換すると、0.10197162129779283kgf/㎠になります。

 kgfのfは、force(フォース)で力、引力を意味します。例えば、月の引力は地球の6分の1なので、地球で体重計に乗ったときに60kgだったとしても、月で体重計に乗ると10kgと表示されてしまうわけです。「久しぶりに体重計に乗ったら60キロだった!」 と話しますが、このキロは実際はkgfということになります。

 ちなみに、「私たちのかむ力は体重と同じぐらい」といわれていますが、これも力を表しているからkgf。歯を食いしばったときには、体重の2倍の力がかかるのだそうです。
 これほど強い力は骨の圧電効果を得るために必要がないし、むしろ歯を摩耗させたり、顎関節に負担をかけたりしてトラブルのもとになるでしょう。

 以上のことから、骨の形成のために歯をグッと噛み締めたり、高く飛び跳ねたりするのは、やめたほうがよさそうです。


 なお、圧電効果とは別に、私たちが歩いているときに、骨は地面から圧力や衝撃を受けています。その圧力や衝撃を脳に伝えるセンサーとしての役割も、骨は果たしています。


■参考資料

筑波大学生命環境学群生物学類
https://cbs.biol.tsukuba.ac.jp/update/648

生体高分子の圧電気https://www.jstage.jst.go.jp/article/kobunshi1952/16/9/16_9_795/_pdf

身の周りにある圧電効果 - TDK株式会社 - TDK Corporation
https://www.jp.tdk.com/tech-mag/knowledge/089

イオン結合とイオン結晶 - NHK
https://www.nhk.or.jp/kokokoza/tv/kagakukiso/archive/kagakukiso_12.pdf

骨は緻密質と海綿質で構築され,丈夫さと軽さを兼ね備えている
https://www.jmedj.co.jp/files/item/books%20PDF/978-4-7849-3227-6.pdf

整形外科 領域 における ピエゾ効果 について
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsao1972/12/6/12_6_1009/_pdf

「超音波照射により生じる骨中の圧電現象の計測と評価」
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-24360161/https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-24360161/

Powered by Blogger.