情報収集が命

 「この本の付録、ウチのをパクったでしょう?」という電話を受けたのは、出版社の編集部員だった頃です。エクササイズ系の単行本の編集を担当し、付録が空気で膨らませるタイプのグッズでした。このグッズに対して、電話で冒頭のような発言をしたのは、他の出版社の男性編集者です。

 彼の話をよく聞くと、私が編集した単行本のほうが発売日が早く、ひいては、付録制作の取りかかりも早かったのです。それにもかかわらず「パクったでしょう?」と電話したきたのでした。

 その理由は、付録の形状が非常によく似ていたから。私は実物を見ていないのですが、彼によると「あまりにもそっくり」なのだそうです。

 ある意味、当然です。

 単行本の付録は、私が型紙を作ったからです。著者の話を聞きながら、紙に描き取り、グッズ生産の業者に渡したというわけです。
 私自身、仕事柄、トレーニングの方法や筋肉について学ばなければなりませんでした。一般的なトレーニングの知識をかじった人間ならば、誰だって思い浮かびそうなデザインが、単行本の付録だったわけです。

 要は、偶然、同じようなことを思いついた人が2人いたということ。

 当時、著者と私は「単なる言いがかり」と判断したのですが、編集長にも事情を報告し、場合によっては法的な対応を検討することにしていました。その後も、彼からは電話が来たと記憶しています。ただ、パクった証拠はないし、時系列的に無理な話なので、そのまま立ち消えになりました。

 この件のように「パクられた」とつい腹が立ったときには、「偶然、同じようなことを思いついた人がいるかもしれない」という可能性も考えて、すぐに相手を攻撃したり、悪口を言いふらしたりすることはやめたほうが吉。攻撃したいのならば、それに足るだけの情報収集が必要です。

photo by EVG Culture(Pexels)

 ところで、ごくまれに、「えっ? それで商標を取っていたの!」と驚くこともあります。

 その一つが「コミュニケーションはキャッチボール」で商標が取られていたということ。誰でも、つい言いそうな言葉に思えるのですが、商標が取られていたのです。なお、特許情報プラットフォームで検索したときには、この言葉はヒットしなかったので、今では商標が切れているかもしれません。

 知らないうちに他者の権利を侵していたら、謝罪だけでなく、場合によっては回収ということにもなります。これは大きな損失。「知りませんでした。ごめんなさい」では済まされません。

 ですから、商標や法律などの情報収集が重要なのです。

 なお、二次使用料その他について知るには、うっかり「モンスタークライアント」と仕事したらズタボロにがお勧め。これは権利その他を踏みにじるモンスタークライアントと仕事をした漫画家の体験漫画なのですが、クライアント側に当たる私たちも「なるほど」と勉強になる部分がたくさんありました。

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